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ピレネ

色んなものがどんどん便利になって、少し前までの〝当たり前〟の呼び名はレトロ。
流行っては廃れていくのを横目にみながら、どれもこれも私には上手くなじまない。
歳を重ねるごとに流行とはかけ離れていくの?
いいえ、私はいつだってそういうものに疎い。興味を持つのがいつもタイムリーではないようだ。

当たり前に使っているApple Musicのサブスクも最初はすごく抵抗があった。音楽は大好き。でも私は本当に大好きな音楽だけを一日中聴いていたかった。CDを買って、PCに読み込んで、ipodに落とす。本当に大好きな音楽だけを選んで目が覚めてから眠るまで、ずっと音楽に潜っている。そんな生活が好きだった。
気軽に沢山の音楽を収めてしまえるサブスクの音楽に、どこか罪悪感を覚えていた。

音楽に依存していた。その声に、言葉に、心象に。
イヤフォンで遮断した体の内側にある、心を守るたしかな世界に。


最近すごくつまらないんだ。
変化を求められている。他でもない俯瞰の自分に。
過去を思い出すのは未練があるからだと言われた。
そういわれるとなんだか後退しているようで気に食わなかったので、無理やり未来の方をみるようにしたり。
それでもなんだか、今も未来も私にしっくりこない。


思い立って、昔使っていたipodを引っ張り出してみた。
心と自分が確かに繋がっていたあの日々に聴いていた音楽が聴きたくて。
イヤフォンジャックに合うイヤフォンがなかったので適当なものを買った。
再生できるか不安だったけど、ボタンを押した瞬間流れ出した音楽に、心はとらわれたみたい。
サブスクに解禁されてない音楽。懐かしい感覚。心地いい音圧。
イヤフォンをしていられる時間はずっと音楽を聴いていたあの頃。
描きたい世界がはっきりとあって、好きなものの輪郭がはっきりしていた時間。

過去を思い出すのは懐かしいからじゃない。
そこに自分にとっての本当のことが、大切なことがあったからだ。


全部が全部、新しくなくていいし最新じゃなくていい。
興味が持てた時がその物事と出会うタイミングなんだと思う。
〝流行〟というアンテナを追うのはなんだか途方もないので、私は自分の心の行方を追いたいと思う。



† † † † †

ipodの中でしか出会えない彼女の声をやっぱりとても好きだと思った。
憧れだった人
慕っていた人
他人から友人になって、また他人に戻ってしまったけど。
今もどこかで歌っているなら、いつかこっそり観にいきたいな。
貴女の歌う音楽はとっても素敵だった。






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