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株式会社の起源から考えるESG活動 - 『株式会社の世界史』を読んで

◉株式会社は、資本と経営の分離、有限責任制、株式の自由譲渡によって効率的な資金調達と成長を実現してきた
◉ 株式会社の仕組み上、利益を追求しつつ社会的責任を果たすには、「事業活動に社会課題を組み込み利益を生む」or「株主が企業に社会問題解決を求める」のいずれか
◉ ESG投資は株式会社の常識を覆すような変化(かもしれない)


そもそも株式会社とは

その存在は当たり前すぎて普段考えることは少ないかもしれないが、株式会社の特徴的な仕組みは、以下の3つの要件に集約される。

1. 資本と経営の分離
株主は会社の所有者だが、実際の経営は取締役や経営陣が行う。これにより、専門的な経営者に経営を任せることができ、株主は直接の経営に関与せずに済むため、効率的な経営が可能になる。
2. 株主の有限責任制
株主は、会社が抱える負債やトラブルに対して、自分が出資した金額以上の責任を負わない。つまり、会社が倒産しても、株主が個人資産を失うことはなく、リスクは限定される。
3. 株式の自由譲渡
株主は自分の持つ株式を自由に売買できるため、所有権が柔軟に移転できる。これにより、資金調達がスムーズに行える一方で、株主は自由に投資先を変えられる。

株式会社の何が嬉しいのか

上記のような株式会社の特徴はどのような点で優れているのか、それは他の企業形態と比較することでより明確になる。株式会社以前によく見られた企業形態である合名会社(出資者全員が無限責任を負い、会社の債務に対して個人資産を使って返済する義務がある)と各特徴を比較してみよう。

資本と経営の分離:合名会社では、経営者自身が所有者であり、経営の全てを自ら行う。資本と経営が一体化しているため、規模の大きな資金調達は難しく、経営の効率も所有者個人の能力に依存する。経営者の意思決定の自由度は高いものの、専門家に任せることが難しいため、企業の成長が限定されることが多い。

株主の有限責任制:合名会社では出資者が無限責任を負う。つまり、企業が倒産した場合には、出資者が個人の財産を使って負債を弁済する義務がある。これはリスクが大きいため、出資者が企業に対して慎重になる傾向が生まれる。一方、株式会社では、株主は出資額以上の損失を負わないため、リスクが限定されているため、これが多くの投資家を引きつける。

株式の自由譲渡:合名会社では、所有権の移転は簡単には行えない。出資者が新しいパートナーに持分を譲渡する際には、他の出資者の同意が必要になることが多く、所有権の移転が制限される。一方、株式会社は株式市場を通じて、企業は資本を継続的に調達でき、株主も必要に応じて投資を現金化できるため、資本の流動性が高まった。また、これにより企業が生み出す現物の市場とは分離した株式市場が生まれた

まとめると、こうした株式会社という形態は企業が資金調達を行う効率を格段に向上させ、また、経営者や株主、従業員を含むあらゆるステークホルダーの利潤を最大化させることができる仕組みであったため、現在、経済で中心的な役割を果たすまでになったのである。

さらに、株式は有限責任で自由に譲渡できるため、企業が実際に生産を行った現物の経済とは異なる株式市場を発展させることになった。

株式会社の問題点

ここまでの説明では、株式会社はメリットばかりのようだが、もちろん問題点もある。『株式会社の世界史』では以下のような問題を指摘されている。

…(中略)…株主と経営者という二組の、思惑を異にする人間(たち)が登場することになる。株主はただ自らの持分資本が増加することにしか興味を示さず、経営者は自らの経営理念とは別に、株主からの無言の命令に従うことが課せられることになる。

『株式会社の世界史―「病理」と「戦争」の500年』位置No. 3095

株式会社は常に、会社の存続という長期的な目的と、利益の最大化という短期的な目的という互いに矛盾する目的をどのように調整しながら意思決定するかという課題を持っている。

『株式会社の世界史―「病理」と「戦争」の500年』位置No. 3680

つまり、企業の資本を握っている株主は企業が利益を上げることにしか興味がないため、長期的な企業の社会的影響を度外視する傾向を持つことが指摘されている。

株式会社におけるESG活動

ここまでの話で分かったように、株式会社は仕組み上、株主を満足させる経営をする以外に存続する方法はない。そして、株主は企業が利益を上げることにしか興味がない。つまり、株式会社は金銭的な価値を生み出すにはパワフルな器かもしれないが、逆に言えば、それ以外の目的を達成するようにはできていない。さて、困ったことになった。社会問題の進行は深刻であり、経済のメインプレイヤーである株式会社が社会課題の解決に動き出さなくては人類の未来は暗い。

ここで一度冷静になって株式会社の仕組みからESG活動を行うための条件を分解をすると、以下の選択肢があるようである。

①社会課題を事業活動に組み込むことで利益を増やす
②株主が社会問題の解決を企業に求めるようになる

ああ、この2つなら今行われているESG活動として、具体例がすぐに思い浮かぶという人も多いかもしれない。

①はCSV(Creating Shared Value)のように社会課題の解決そのもので利益を生むという方法や、TCFD(Task force on Climate-related Financial Disclosures)で見られるような社会課題が及ぼすであろう事業への影響をシミュレーションをする動きである。

② はPRI(Principles for Responsible Investment)の署名機関の増加に見られるように、投資家サイドの意識の変化である。金融市場が環境や社会に与える影響を考慮し、長期的なリターンの向上とリスクの軽減を目指す投資が増えている。従来の投資手法は財務的な指標を中心にしていたが、これに加えて、気候変動、人権、腐敗防止、労働条件など、非財務的な要素を重視するようになってきている。実際にESG投資が金融市場でも大きなインパクトを持つようになっている。

終わりに

結論を見ると当たり前のことを確認するだけになってしまったが、株式会社の根源的なところからESG活動を分解をすることで昨今のESG事情がより深く理解することができたのではないだろうか。

特に、ESG投資の存在は面白い。ESG活動が企業の利益を増加させるかは明らかになっていない。それでも、投資家がESG活動にお金を出すようになっているとしたら、株式会社の常識を覆すような変化である。投資家が責任投資原則に賛同するのはなぜか?今後もこの動きは続くのか?今後考察してみたいと思っている。

参考文献


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