社会人MBAから博士課程というルートについて考える①
はじめに
数日前に投稿した記事には、noteだけでなく、それを引用したTwitterの方にも大変多くの反響を頂きました。この場を借りて御礼申し上げます。
僕が社会人MBAでの学びを終えたのがちょうど10年前(2013年3月)なのですが、社会人として何らかの組織に所属しながら大学院で学ぶという形態は、その後、より一般的になってきたように思います。「思います」とあるのは、統計を取ったわけでもない単なる主観であるためですが、"リカレント教育"という用語が、ここ数年で一気に一般の世界に定着したという肌感覚に基づく主張なので、あながち的外れではないと信じています。加えて、夜間開講の社会人向け国内MBAスクールの選択肢がますます充実してきたという事実もまた、それらを裏付ける根拠になっているはずです。
こうしたトレンドを踏まえた時に、ちょっと興味があるのが、社会人MBAから博士課程に進んだ人、そして無事に学位を取得できた人がこの10年でどの位増加(または減少)したのかということです。僕が観察できる範囲の事実ベースに基づく肌感覚でいうと、少しずつではあるが増えてきているのかなというところでしょうか。
以降では、そうした社会人MBAから博士課程への進学を検討している人に向けた、アドバイスとまでは言えないまでも、多少の検討材料になるような材料、すなわち僕自身が経験したことや、他者から聞いた情報、あるいは今だから理解できることなどを整理して提供したいと思います。恐らく長くなるので、何回かに分けて書いていきたいと思います。
ここで、念の為に議論の対象を整理しておくと、この記事における社会人MBAとは、何らかの組織において、フルタイムでの勤務を続けながらビジネススクールに通う大学院生を指しています。また、その先の博士課程への進学においても、フルタイムでの勤務を続けたまま博士学位の取得を目指す大学院生を念頭に置いています。言い換えれば、一度社会に出た後、所属組織を退職した上で、主たる身分が大学院生になった方々にとっては、必ずしも当てはまらない情報が含まれるかもしれません。
社会人MBAから博士課程というルートに対する互いの「問い」の噛み合わなさ
ややシビアな見出しかもしれませんが、さっそく本題に入っていきましょう。博士課程への進学を視野に入れだした、M1ないしはM2の院生が抱くと問いと、その問いを投げかけられた指導教員(あるいは先輩の院生)が抱く問が、清々しいほどに噛み合わないという現象がしばしば観察されます。
もう少し厳密に言うと、噛み合わないというよりも、互いの問に対して、「むしろこっちが聞きたい」のループで、"デッドロック状態"になっていると表現すれば伝わるでしょうか。もしかすると、この説明だけでは具体例がないのでやや分かりにくいかもしれませんね。
そこで、以下では、①社会人MBAから博士課程に進学したいと考える大学院生のプロファイリング、②彼/彼女らが抱く「問い」、③それに対する指導教員や周囲が頂く「問い」、の順に整理したいと思います。
①博士課程に進みたいと考える時期
社会人MBAに進学する前、つまりビジネススクールの入試準備(受験勉強含む)段階から博士課程への進学を念頭に置いている人はそれほど多くないのではないでしょうか(もしかすると、修士課程の後に博士課程が存在するかどうかを漠然と意識している人はいるかもしれませんが…)。恐らくですが、社会人MBAを経由して博士課程に興味を持つ層の多くは、通われていた大学もそれなり(というよりも恐らくかなり)に優秀な大学に通われていたと推察します。
その後、その大学を卒業して10年、あるいは20年以上の時が経過してから、ビジネススクールの受験勉強を経て無事に合格し、社会人MBAとしての学びを続けるうちに、「博士課程に進んでもう少し勉強してみたい」という思いを抱き始める人が多数なのではないでしょうか。
②博士課程に進学することを視野に入れた方々による「問い」
そうした方々が最初に頂く疑問の多くは、「働きながら博士学位の取得を目指すことは現実的か?(噛み砕くと、「私でもやっていけるの?」)」ということです(ここでの"私"とは、女性の一人称を意味しておらず、社会人としての一般的な一人称です)。
この質問には恐らく色々な要素が含まれています。例えば以下のような疑問でしょうか。
どれくらいの時間を働きながら研究(勉強)に割いたらいいの?
どれくらいの年数で(現実的に)取得できるの?
(社会人ではない)大学院生との競争環境に身を置いて私がやっていけるの?
僕が博士課程に進むことを考えた本当の最初のきっかけは、当時のゼミ同期からの誘いでした。都立大の場合、M1の1月頃に修論指導を受けるゼミを選択するルールになっていたのですが、当時の同期から、その後師事することになる指導教員のゼミに誘われ、第一志望が通り無事に先生のゼミに入ることができました。
さらに、M2が始まった直後に、同じ同期の学友から博士課程に進むことを誘われ(このエピーソードも機会があればまたいつか)、悩んだ挙げ句に当時の指導教員の先生に、前述したのとほぼ同じような質問をしたのを記憶しています。
ちなみにその時の恩師の回答は「諦めなければいつかは(学位が)取れるよ」でした。
③それに対する指導教員をはじめとした経験した人々による「問い」
博士課程を視野に入れた社会人MBAの院生が抱く一般的な問いは、上述した通りですが、それに対して指導教員や、同じような境遇にあって学位を取得した経験にある者が抱く問いは真反対のものです。少なくとも、以下の3点においては、上述したような博士課程進学を視野に入れた社会人MBAの大学院生が抱く問いとミラーのようにペアになるものでしょう。
どれくらいの時間を働きながら研究(勉強)に割けるの?
どれくらいの年数で学位を取得したいの?
(社会人ではない)大学院生との競争環境に身を置く上で、あなたが持ちうるアドバンテージは何?(例えば、一次情報へのアクセシビリティや業界への土地勘など)
上記のような疑問は、進学を視野に入れた大学院生の問に対して、カウンターとしてすぐに浮かび上がるものではあります。しかしながら、既にフルタイムの職にありながら、MBAまではともかくとして、博士課程にまで進みたいという動機を持つ人に対しては、もっとシンプルで本質的な問いが導き出されます。
それは、「なぜ、あなたは博士課程に進みたいのですか?」ということです。
これをお読みいただいた方々の中には、「いやいやいや」と思う読者もいらっしゃるかもしれません。しかしながら事実として、社会人MBAの中には、同期の中では優秀な方だったと自覚しているし、2年で終わってしまうのも寂しいので、引き続き博士課程に進んで勉強しようかな〜という「ふわっと」した動機で博士課程に進む方々が一定数いらっしゃるのではないでしょうか。
なぜ博士課程に進みたいかではなく、なぜ博士学位が必要か
ここまでお読み頂いた方の中には、僕の記事に対して、やや不本意な意見をお持ちになり、文句を言いたい方や、僕の意見が偏りすぎているというご指摘もありうるかもしれません。
しかしながら、仮に多少の批判をお受けしたとしても強調したいことがあります。それは、社会人MBAから博士課程というルートを選択肢に入れる上では、ぼんやりと「博士課程に進んで何をしたいか」を考えるのではなく「博士学位を取得して何がしたいか」、換言すれば「なぜ博士学位が必要か」を最初から念頭に置くべきだということです。このことは、しっかりと強調しておくべき点だと確信しています。
上記を踏まえた中間的なまとめ
色々と書いてきましたが、もし今、僕が社会人MBAの方から博士課程への進学を相談されたとしたら、アドバイスすべきコメントは割とシンプルです。
それは、「博士学位取得に挑戦したければ挑戦すればよいけど、仕事と研究(勉強)のどっちつかずにはなるな」です。
結局のところ、上述したように「なぜ博士学位が必要か」に帰結するのでしょう。このテーマは、恐らく、今この瞬間に博士課程への進学に関心を持っている社会人MBAの方々だけでなく、毎年同じような問いにたどり着く方が一定数いらっしゃる可能性が高いので、何回かに分けてしっかりと考察し、記事をアップしていきたいと思います。
次回予告
今回は、社会人MBAから博士課程というルートについての比較的厳しめの考察が中心でした。次回は、もう少し実践的かつポジティブに、当時の僕の事例を開示しつつ、皆さんの参考になるような記事を準備しています。
noteを始めてまだ3回目の記事ですので、色々と不慣れな点もありますが、ご意見や要望があれば、ぜひコメントをお待ちしています。