見出し画像

6月4日の事件

(※今回の記事には一部流血等のグロテスクな表現があるので苦手な方は閲覧をお控えください。)




かなりnoteの更新をさぼっていた。失敬失敬。ここ最近は割と仕事が忙しく、寝ても食べても湯に浸かっても疲れが取れない日々を送っていたのでどうかご容赦頂きたい。ということで本日はそんな多忙な毎日の中で起こった個人的な大事件の話である。改めて述べるが、今回の記事はグロめなので苦手な方はブラウザバックを推奨する。

6月4日。私は職場にて菜切り包丁を使い氷を割っていた。ドリンクを作る際に使用する綺麗なキューブアイスを作る為である。そして馬鹿な私はでこぼこした氷の表面を削ろうと、切れ味の落ちた包丁で無理矢理に氷の表面を削ごうとしたのだが、包丁に力を込めた時、事件は起こったのである。

「……いっっっだっっっ!!……は??」

一瞬何が起こったのか全くわからなかったが、どうやら私は氷の表面と一緒に右手の人差し指の先を削いでしまったらしい。「うわー!やべー!やっちまった!」と思った私は急いで傷口を水で洗い流したのだが、ただほんの少し切ったのとは比べ物にならないくらいの激痛を感じた。そして傷口からは尋常ではないレベルで流血していた。

「ふっ……ははははは!!いてぇー!やべー!」

最早混乱を極めた私は苦痛に顔を歪めるのではなくただひたすら笑っていた。傍から見ると夥しい量の血を流しながら笑う奴はサイコパス以外の何者でもないのだが、人間の身体は意味不明な大怪我をすると痛みを麻痺させる為なのか、自然に笑いが込み上げるようにできているのかも知れない。とにもかくにもその時点ではまだお客様がいらっしゃらなかったのでそれは良かったと思う。

するとそんな私の異変に気付いた店長がすっ飛んできて、私の指に絆創膏を巻き、その上から大量のティッシュで押さえてくださった。なんとお優しい……私はそんな店長にお礼を言いつつ指を押さえたのだが、そこで異変に気が付いた。激しい痛みは感じるのだが、押さえている部分の感触(触覚)がない……

……まさか……えっ、指肉千切れ散らかした??

そして、事態はそのまさかであった。恐る恐る一度ティッシュを剥がして血みどろの患部を見ると、私の人差し指の先は少し翳ったお月様ないしは米粒の先のようになっていた(※オブラートに包んだ表現)。

その光景を見て更に混乱したサイコパスは「はーっ!?やばいっすね!ははは!どうしましょー!?」とキモスマイルで店長に話し掛けた。すると店長は「20分くらい止血しても止まらないなら一旦仕事を抜けて夜間病院に行きなさい」と仰った。そうかなるほど……って、そりゃまずいまずい、そんなことできる訳がない。

自分で言うのは烏滸がましい話ではあるのだが、その日に限っては席の予約状況や出勤スタッフの兼ね合い上、私は店の超重要パーソンであった。というのも、私は有り難いことに平日はメインのバーテンダーとしてカウンターに立たせてもらうことが多いのだ。まあ店長もいらっしゃるにはいらっしゃるのだが、少なくとも店のグランドメニューのカクテルは全て作れる私が抜けるのは(この後忙しくなることがほぼ確定の)お店にとってかなりまずい……

……と思ったのだが、結局20分で血は止まらず、なくなく店を抜け出して近所の夜間病院(整形外科)へ行った。

ここで閑話休題、5月31日にアクセントとイントネーションの混同についての記事を投稿したが、そういった話し言葉における音声表現は他にもあり、その一つに「プロミネンス」というものがある。これは物凄くざっくり雑に説明すると音の強弱や長短によって物事の度合いを強調するというもの。例えば【長い橋】を「なっっっがい橋」や「ながーーーい橋」と発音すれば、その橋がとても長いということが聞き手に伝わるかと思う。

という言語学的な解説を踏まえた上で元の話に戻るが、電話で来院予約をする際と、実際に受付で主訴を述べる際「包丁で手をざぁっっっくり切っちゃったんです!」と大袈裟なプロミネンスを交えながらハイテンションで話したので、医療事務の方にはやべぇ奴だと思われたこと請け合いであろう。

なお、待合室で診察を待つ間は気が気ではなかった。これは綺麗事や冗談でも何でもないのだが、正直指の痛みよりも混雑のピークに差し掛かる時刻にお店に居られない申し訳無さによる心の痛みの方が勝っていた。ていうかあんなに流血していたけれどキッチンに血痕が落ちていたらどうしよう、不衛生だよな……しかも指先が欠けたということはもしかしたら肉片がどこかに飛んでいるのでは……?Where is my finger meat……?(※雑魚馬鹿英語)

等々と考えつつ、右手を心臓より高い位置で固定しなさいと看護師さんに言われた私は右手を首の高さくらいに掲げ、人差し指を突き立て、それを左手で抑えていたので恐らく海外の方々が見たら「Oh!ジャパニーズニンジャ!」と思われること必須であっただろう。私はそんな間抜けなニンニンスタイルで一刻も早く店に戻れることを祈った。

しかしその時、詳しい状況はその方のプライバシーに関わるのでお話しできないが、あからさまに私なんぞより何倍も重篤に見える急患の方が来院された。やや慌てる看護師さんや事務のスタッフさんが私の目の前をパタパタと横切ってゆく。

……いやいやいや!それは流石に絶対その人優先っしょ!早く診てあげてよぉ!

私はそう思った。やがてその方は大柄な医師に車椅子を押されながらレントゲン室へ入って行った。それから程なくして私も診察室へ呼ばれたのだが、その頃には店に戻りたいという焦り、欠損した指先の痛み、見知らぬ急患の方の無事を祈る気持ちで情緒がぐちゃぐちゃになっていた。結局その日は傷口に化膿予防の軟膏を塗られた上で指を包帯でぐるぐる巻きにされて終了したのだが、薬局で同じ軟膏を処方してもらい店に戻った時には精神的にぐったり疲れていた。

ちなみに看護師さんからは「この後はなるべく手先を動かさず、お家に帰って安静にしてくださいね」と言われたのだが「♪それはちょっとできない相談ね〜♪(※中森明菜「禁区」)」という話であり、案の定私が戻った直後から次第に店は混み始めた。私は痛んで血が滲む指を作業用のニトリル手袋で隠しつつ、何とかその日の仕事をやり切った。いやはや、偉い、偉すぎる。普段は卑屈で自尊心の低い性分ゆえ滅多に自身で自身を高評価することはないのだが、流石にその日の自分は頑張ったような気がしたので仕事終わりにドラッグストアで滅菌ガーゼと替えの包帯、そしてちょっとリッチな味わいのソフトクリームを買って帰った。まあ本当に仕事のできる偉い人ならそもそも指肉を削いだりしないのだが……

なお、事件から11日が経過した現在、流石に痛みは殆ど無いものの再生した薄い皮膚の下にはまだ若干血が滲んでいるように見えるし、それをお客様がご覧になったら衛生的な心配をされる可能性があるので絆創膏はまだ剥がせない。ここまで長引く怪我はなかなかに珍しいように思う。ということで、読者諸賢ももし何かの折に氷の表面を包丁で削ぎ落とすことがあれば(?)怪我には十分注意して頂きたい。ちなみに今回の件は店長曰く労災の給付金申請ができるらしいのだが、たかだか1500円程度の治療費の為に煩雑な書類を書くのは余りにもみみっちいと思ったので控えることにした。

まあ、怪我をしたのが人差し指というのは不幸中の幸いであったように思う。バースプーンでのステアは中指と薬指さえ動けばできるので……(プロ根性というよりは社畜魂)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?