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kotoba(ことば)の玉手箱ーお薦めの古典紹介 Vol.5(2)『共産党宣言』(カール・マルクス フリードリヒ・エンゲルス著)ー

皆さん、こんにちは。

前回から若干時間がたってしまいましたが、前回は『共産党宣言』が執筆された当時の時代背景等をご紹介しました。

英国での産業革命後の工場労働者の待遇、労働条件の劣悪化を含めて、民衆の困窮が社会問題として人々の関心を引くようになりました。そして欧州を中心とした各地で革命の機運が高まっていたのが『共産党宣言』が執筆、発表された1848年当時の時代の様子となります。

今回は『共産党宣言』の概要、3つのポイント、そして本書の現在における意味や価値についてご紹介したいと思います。

本書の概要

本書は、ドイツの社会思想家のカール・マルクス(以下「マルクス」)とその盟友フリードリヒ・エンゲルス(以下「エンゲルス」)の共同執筆によって書かれた、全文わずか23ページの共産主義者同盟の綱領です。社会的に劣悪な条件に置かれた労働者の団結を呼びかけた文章で、その後の労働運動の展開を反映して、1872年、1883年、1890年にドイツ語版への序文、1888年英語版への序文、1892年ポーランド語版への序文、1893年イタリー語版への序文が付け加えられています。

「ヨーロッパに幽霊が出るー共産主義という幽霊である。ふるいヨーロッパの強国は、この幽霊を退治しようとして神聖な同盟を結んでいる、法皇とツアー、メッテルニヒとギゾー、フランス急進派とドイツ官憲。」という有名な一文で始まるこの宣言は、以下のような構成となっています。

第一章 ブルジョアとプロレタリア
第二章 プロレタリアと共産主義者
第三章 社会主義的および共産主義的文献
第四章 種々の反対党に対する共産主義者の立場

ここで簡単に固有名詞等の説明をしたいと思います。
まずは「メッテルニヒ」です。
オーストリアの政治家(1773~1859年)ですが、ウイーン会議やそれ以降のオーストリア政治、ヨーロッパ国際関係を指導した人物です。現行の秩序を守る姿勢から自由主義やナショナリズム運動と対立することになりました。

次は「ギゾー」です。
フランスの政治家、歴史家(1787~1874年)ですが、1830年のフランス七月革命の際にはルイ・フィリップの勝利に貢献、政治的には保守的な傾向を強めた人物です。1840年代には首相になり、1848年の二月革命まで政権の中心を占めました。

その他、「ブルジョア」は資本家階級、「プロレタリア」は労働者階級、ということでよろしいかと思います。

本書の概要としては、エンゲルスが序文で述べている「『宣言』をつらぬく根本思想」でよく表現されていると思います。

「経済的生産およびそれから必然的に生まれる社会組織は、その時期の政治的ならびに知的歴史にとって基礎をなす。したがって(太古の土地共有が解消して以来)全歴史は階級闘争の歴史、すなわち、社会的発展のさまざまな段階における搾取される階級と搾取する階級、支配される階級と支配する階級のあいだの闘争の歴史であった。しかしいまやこの闘争は、搾取され圧迫される階級(プロレタリア階級)が、かれらを搾取し圧迫する階級(ブルジョア階級)から自分を解放しうるためには、同時に全社会を永久に搾取、圧迫、および階級闘争から解放しなければならない段階まで達した」
(『共産党宣言』序文)

繰り返しになりますが、経済的生産と経済的仕組みが政治の土台をなすこと、原始共産制の崩壊以後、人間社会の歴史は階級闘争の歴史であること、現在においてはそれはブルジョアジーとプロレタリアとの間の階級闘争となっていること、その際プロレタリアの歴史的使命は、単にブルジョアジーの支配と抑圧から自己を解放するにとどまらず、社会から階級支配そのものをなくすことにある、というのが『共産党宣言』のメッセージになるかと思います。(『日本大百科事典』参照)

ちなみに、第一章の冒頭の「今日までのあらゆる社会の歴史は、階級闘争の歴史である。」という文、そして第四章の一番最後にある「万国のプロレタリア団結せよ!」というところは有名な文ですね。

ここがポイント!3つ

私が考える本書のポイントは以下の3点となります。

ポイント1:社会的な問題を的確に捉えて問題提起している(共感力)
一つ目は、当時のプロレタリア(労働者階級)が直面していた生活環境の劣悪化という社会的な問題を的確に捉えていたということだと思います。
つまり、社会的弱者のことをよく認識し、そこに共感するセンスがあったのだと思います。マルクス、エンゲルスの後の人たちが本書のメッセージ、考え方をどう活用(誤用)していったかは歴史が示してくれていますが、それはマルクス、エンゲルスの預かりしらないところではないかと思います。

ポイント2:多くの人にわかりやすく歴史観を説明している(理解容易性)
二つ目は、歴史観を単純化、多くの人に理解しやすいようにわかりやすく説明しているところだと思います。
共産主義に対しての欧州各国での警戒や攻撃、弾圧の中で、多くの人から理解や賛同を得るためには理解が容易である、わかりやすい必要があると思います。共産主義の考え方を示すために、階級闘争の歴史という視点で説き起こしています。太古の牧歌的な、皆で協働して働き、分け前を共有していた時代が崩れた後は、身分や階級の差があったとして、階級闘争の時代が続くとしています。そして、主にブルジョアとプロレタリアという2大階級に単純化した形で議論を展開しています。

ポイント3:社会変革、改革の基本路線、具体的な課題を示している(行動の現実性)
三つ目は、特に第二章「プロレタリアと共産主義者」の最後の方に述べられていますが、生産手段を(ブルジョアからプロレタリアに)奪い取る方策として十の具体的方策を挙げています。
土地所有の収奪、強度の累進課税、相続税の廃止、亡命者、反逆者の財産の没収、国立銀行の設立と信用の国家集中、万人平等の労働義務、都市と農村の対立の除去、すべての児童に対する無償教育、児童の工場労働の撤廃など。そして、「労働者革命の第一歩は、プロレタリアートを支配階級に高めること、民主主義をたたかいとることである」といっています。これも、後の時代の誤用等によって暴力的な印象が強い(歴史がそれを示していますが)と思いますが、マルクス、エンゲルスにおいては暴力を推奨しているようにはみえません。
それよりも、上記十の具体的な方策は、プロレタリア(資本家階級)の枠内での現実的な主張であるともいえます。今日の日本を始めとした資本主義の国々においても、採用している政策も多々あることは知っておくべき点だと思います。

今に活かす(現代において連想したこと)

ここまで『共産党宣言』が生まれてきた背景や概要、ポイントなどを説明してきましたが、今の世界の現状をみてみた時に、まず「資本主義の将来」の問題を考える際の一つの視座を与えてくれるように思います。

マルクスやエンゲルスが『共産党宣言』で主張した「資本主義の時代の終焉、共産主義の勝利と人間の解放が歴史の必然である」という状況には現実としてなっていないとは思います。ただ、資本主義の行きつく先がバラ色の世界かという点は疑問符が付くと思いますし、「格差」問題はどんどん先鋭化しているようにも見えます。

資本主義の修正は政治の世界で行われ続けているのは歴史が証明しているところでもあります。「新しい資本主義」なのか、資本主義とは全く違った何物かが生み出されてくるのか、まだその全貌は現われてきていないように思いますが、その際にはこの『共産党宣言』が提起している問題への向き合い方が大きな参考になってくるものと思います。


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