クリエイター志望者なら知っておくべき「知財」のお話。【DHU×内閣府×知財研×日本知財学会】
デジタルハリウッド大学(以下:DHU)では、2021年6月、知的財産(以下:知財)に関わる各団体のキーパーソンをお招きし、知財教育の一環として公開シンポジウムと特別講義を実施しました。
知的財産とは「人間の知的活動によって生み出されたアイデアや創作物などが財産的な価値を持つこと」を指し、知財を守るための仕組みとして「知的財産権」があります。
例えば「著作権」は知的財産権の代表例です。アニメ、映画、音楽などみなさんが普段愛好しているこれらのコンテンツにも、原作者や製作者の権利があり、その権利関係によってお金が動いている、というのは高校生のみなさんも理解できると思います。
こうした知識を学ぶのが「知財教育」です。知財という単語だけ聞くとピンとくる人は少ないかもしれませんが、知財は未来のクリエイターにとって今や必要不可欠な知識となっています。
デジタルハリウッド大学では知財教育の取り組みとして、内閣府知的財産戦略推進事務局、一般財団法人知的財産研究教育財団、一般社団法人日本知財学会経営デザイン分科会と共同で「大学教育における知財教育の推進および新しい価値創造の取り組みに向けた公開シンポジウム」と題したイベントをオンライン開催しました。
今回のnoteでは同シンポジウムのレポートを通じて、DHUの知財教育の様子を知っていただきたいと思います。
登壇者プロフィール
田中 茂(たなか しげあき)さん
内閣府知的財産戦略推進事務局長。1987年通商産業省入省。日本貿易振興機構(JETRO)上海センター次長、経済産業省通商政策局北東アジア課長などを務め、 2020年より現職。
※シンポジウム当日は代理として、内閣府知的財産戦略推進事務局の小林英司参事官にご登壇いただきました。
久保 雅一(くぼ まさかず)さん
日本知財学会副会長・小学館取締役。早稲田大学卒業後、小学館に入社。 コロコロコミック編集部、「劇場版ポケットモンスター」エグゼグティブ・プロデューサーを経て、現職。
杉光 一成(すぎみつ かずなり)さん
一般財団法人知的財産研究教育財団 専務理事。KIT虎ノ門大学院 イノベーションマネジメント研究科 教授、Ph.D.電機メーカーの知的財産部等を経て、現職。専門は知的財産に関する先端及び学際領域。
鮫島 正洋(さめじま まさひろ)さん
一般社団法人日本知財学会経営デザイン分科会 担当理事。 1999年弁護士登録。2004年内田・鮫島法律事務所を設立、現在に至る。 弁護士業に留まることなく、知財戦略、知財マネジメント、知財政策など多方面にかかる貢献に対して2012年知財功労賞受賞。池井戸潤のベストセラー小説『下町ロケット』に登場する神谷弁護士のモデルとしても知られる。
杉山 知之(すぎやま ともゆき)
デジタルハリウッド大学 学長・工学博士。 1987年よりMITメディア・ラボ客員研究員として3年間活動。日本大学短期大学部専任講師を経て、2004年日本初の株式会社立「デジタルハリウッド大学院」を開学。翌年、「デジタルハリウッド大学」を開学し、現在は同大学・大学院・スクールの学長を務めている。
知財はどの業界でも関係してくる横断可能な知識
DHUを運営するデジタルハリウッド株式会社は経団連に所属しており、学長は民間企業との交流の中で大学改革を求める声が多くなっていることを痛感したといいます。そのうえで、なぜ改革が必要なのか、いかに改革していくのかを杉光さん、鮫島さん、小林さんに問いました。
杉山学長
日本経済団体連合会(経団連)には数々の委員会がある中で「教育・大学改革推進委員会」があります。「教育改革推進委員会」ではなく、あえて「大学」という言葉が入っているということは、多くの企業のトップが大学の改革を求めているのではないでしょうか。
鮫島さん
時代の価値観が変容しているため、大学改革の必要性は明らか。今までの答えありきで点数をつけていく教育ではなく、アントレプレナーシップ(起業家精神)を育てるための教育が必要になってくるでしょう。社会に出たら、どんな未来に向かってどんな価値を提供していくのか、そのために自分たちは何ができるのかを考えるような、創造力を試される場面の方が圧倒的に多いのです。
高度経済成長期に求められていた大量生産に適した均質な人材とは真逆の、自ら価値を創造できるアントレプレナーシップを持った人材がいまこそ求められていると主張する、弁護士の鮫島さん。
昨今は起業を推進する大学や、学発ベンチャーなどが増加し、アントレプレナーシップを持った学生が増えている一方で、大学までの教育と社会で求められる能力には未だギャップがあるといいます。
内閣府の小林さんは、学生の創造力を養うために知財教育が鍵になってくると強調しました。
小林さん
創造力を伸ばしていくこと、学生に知財を尊重してもらうこと、というふたつの教育が必要になります。今までの教育の中にそれらを取り込むことによって、新たな物を作り出していく力を付けていくことがこれからの大学教育においてキーワードとなるのではないでしょうか。
小中高生がこれから進学先を選ぶ際に、偏差値で判断をするだけでなく、社会に対して将来どんな価値を提供したいのかを思い描いてほしい。自分自身が何をしたいかを出発点にすることでよりよい進路を歩んでいける、と話しました。
シンポジウムの中では、知財教育が必要であるとの声が上がる一方で、「知財」という言葉が広く知れ渡っていないという現場の意見もありました。
杉光さん
残念ながら、知財に関する教育がなされている学校が少ないのが現状。知財の法律的な側面や何か新しい物を創り出すという意味の知財も含めて、大学が少しずつ改革を進めていけば良い方向に向かっていくはずです。
杉山学長
知財教育やその他の公教育も含め、大学のみならず高校までのカリキュラムを見直す必要性があるのではないか、という話は教職者間では頻出する話題。今のZ世代と呼ばれる若い人たちはインターネットの発展のおかげで、学習スピードが今までよりもケタ違いに早いんです。大学教育の4年間をこれまでと同じ時間感覚で過ごしていくには、無理が出てきているのかもしれません。
長年教育現場を見てきている杉光さんや杉山学長は、大学改革の難しさを感じていました。
そして4名全員が共感していたのは、知財や会計など社会の必須知識のような科目は特定の学部でのみ開講するのではなく、読み書きそろばんと同じく学部を問わず教えるべきだということ。
DHUは「文系?理系?何系なの?」とよく学外の方から質問をされるのですが、DHUは何系でもありません。この世にモノやサービス、コンテンツなどの価値を創造するためには、専門知識や教養知識など問わず幅広い学びが必要です。
文系や理系という枠を作るのではなく、知識を横断しそれらを組み合わせて「自分は何をやってみたいのか」を見つける手助けをするのが、これからの大学に求められるあり方であると、全員で共通の認識を深めていきました。
知財を生み出すために、まずは自分が思い描く「これから」を言語化する
シンポジウムの翌週、DHU在学生向け知財教育の一環として、内閣府知的財産戦略推進事務局の小林さんによる特別講義が実施されました。
小林さん
企業とは、外部環境を理解し資源を確保し、それらを組み合わせてユーザーの求める価値を創出・提供する一連の仕組みです。
企業のみならず、これから個人も必要になってくる「経営デザイン」とは何かを解説。どのように自らの人生を経営し、価値を創造していくのか。そのサポートなるツールである「経営デザインシート」を実践ベースで解説していきました。
知財そのものの価値を創造するためには、自分の人生や企業の経営をデザインする必要があります。その価値創造のプロセスを具体的に表すとこのような公式になります。
資源×ビジネスモデル=価値
多様なニーズやウォンツに対応するための価値創造のメカニズムを具体的に構想するためには、さまざまな企業が活用している「経営デザインシート」が有効であると、小林さんは主張します。
経営デザインシートとは、「将来を構想するための思考補助ツール」です。経営や人生のコンセプトを設定し、これまでとこれからのふたつの時間軸で思考を整理していきます。
▲経営デザインシート
経営デザインシートを活用し思考を整理する中で、いちばん大切なのは先に「これから」を構想すること。現状から未来を考えてしまうと、自分のできる範囲から抜け出せず想像力が働きません。いろいろな制約を取り払って、将来提供したい価値を考えていくのです。
これから社会に出る学生、社会人経験のある学生が、未来を構想
小林さんからのレクチャー後には、「経営デザインシートを活用して、2031年(10年後)の自分自身の将来を構想してください」というテーマで発表の時間が設けられました。
発表者の一人であるDHU1年生の山口 歩実(やまぐち あゆみ)さん。将来構想のキャッチフレーズは「幸せのサステナビリティ」です。これまで環境問題に携わってきた山口さんは、環境分野で頻出する単語である ”サステナビリティ(持続可能性)” を自身のテーマにしたといいます。
▲山口歩実さん(1年)
山口さん
セクシュアルマイノリティコミュニティの運営や環境問題への取り組みなど、これまで続けてきたことを継続することで、自分の幸せだけでなく他人の幸せも持続可能なものにしていきたいです。
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以上、シンポジウムと特別講義のレポートでした。
DHUは「未来生活を発明し文化を創造する大学」という価値を提供するために、DHUではこうした知財教育などに現在取り組んでいます。
デジタルハリウッド大学の教育研究活動に興味のある方は、ぜひ「DHU2025構想」もご覧ください!
▼DHUの ”これから” を知る「DHU2025構想」
▼DHUの ”今” を知る「デジタルハリウッドダイガクNOW」
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