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眼差しではなく

*詩誌「潮流詩派」掲載 (1999作成)

舗道の上に放置された 行き倒れの人々は
誰の眼差しも求めはしない 

ただ
黄昏の中で 誰も知らないバラックへと
運び込まれていくだけだ 


たとえ その場で
息絶えなかったとしても 
いずれ 消えていく 
我々の すべての 眼差しから

我々だって? そうじゃない 思い出せ 

バラックは いつの日か 廃墟となった
病院だった 


お前は覚えているのか? 堅く閉ざされた
病室の扉を開くと 横たわる一人の女
その乾いた指先  失われた声
触れよ  その指先に その声に

忘却の彼方で  彼女の微笑みが
お前の瞳に触れ 通り過ぎていった


それは 
眼差しではなく
生き物の

最後の 
息吹き

以上の作品のオリジナルは90年代半ば頃に書かれた散文草稿『ゼロ-アルファ』のごく一断片である。本作品はその草稿を詩作品に変換したものである。

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