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「おいしい!」の佇まい

ひとりでカフェに行くと、「おいしい」が言えない。それをもどかしく感じることがある。

ああ、宣言したい。
こんなに私の味覚を喜ばせてくれているのに、心の中でしか褒められないなんて!

✳︎

この前スタバで読書していたときのこと。年齢層が高めの店内に、おしゃれで華やかな子が入ってきたので、つい注目してしまった。

彼女は私の斜め前に座った。
薄手で肩がちらっと見えるラベンダー色のシフォンブラウスに、タイトな黒のショートパンツを合わせている。
髪色はヘーゼルブラウンで、きっちりまとめたポニーテールが涼しげ。

オーダーは、クッキーアンドクリームドーナツに、おそらく抹茶クリームフラペチーノ、ホイップ増量とチョコレートソース追加(たぶんサイズはグランデ)

私に匹敵する、かなりの甘党と見た。
でも細いから、代謝がいいのかなぁ(余計なお世話)

彼女は席に着いてすぐ、AirPodsを装着。
グラシン紙に包まれたドーナツを一口ずつ齧る。
フラペチーノをちびちびでもなく、ゴクゴクでもない絶妙な速度で飲んでいく。
グラスの側面についた生クリームを綺麗にストローで掬い取り、ときどき混ぜながら。

両手でフード、ドリンクを扱う丁寧さ。
味わって、次に口をつけるまでの絶妙な間。

一連の動作すべてに無駄がなく滑らかで、見惚れてしまった。
ひとり客なので、当然言葉を発してはいないのだが、溢れる甘みを思う存分楽しんでいることがこちらに伝わってきた。
どうぶつの森でいう「♪」のリアクションだ。

悪魔的魅力を持つ甘いものをするすると体に取り込んでいく姿は、見ていて気持ち良い。


食べ物を愛しいと感じていることが周りにもわかる、そんな佇まいって素敵だなと思う。
人がご機嫌で味わっている姿は見ていて幸せになれるから。

かくいう私は、心の中で絶賛していても仏頂面。しかもスタバでは本を持ち込み、目は本に釘付け…ということが多いので、たぶんおいしいと感じているようには見えないだろう。反省。

もちろん、本や書き物に熱中するのも良いけれど、セルフカフェであっても、たまには甘いものの愉悦に浸りきることを大事にしたい。



甘党の彼女は食べ終えた後、グラシン紙を丁寧に四つ折りにする。
ドーナツへの敬意さえ感じるほどに。
そして白いミニバッグにスマホをしまい、トレイを片手に颯爽と去っていった。シルバーのウエッジサンダルを履いた長い脚がかっこよい。


数分後、私も帰るか、とドアを開けかけたとき、バニラクリームフラペチーノを注文するおじいさんのしゃがれた声が聞こえた。
もう少し滞在していたら、おじいさんの「うまい、うまい」という姿が見られたかもしれない。惜しい。

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