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演技ワークショップレポート「他人を演じるとは?」

3月27日28日に開催した4時間の演技ワークショップ『目の前の相手と深くコミュニケーションをとる』、おかげさまで両日とも満席御礼で実施できました☆

参加者は10歳の子役から60代のベテランまで幅広く、映像の人、舞台の人、声優さん、タレントさんなど異種格闘技さながらでしたw。そしてWS終了後は、コロナ前だったら駅前の居酒屋で今日のみんなの演技についてあーだこーだ意見交換してもうひと盛り上がりするところなんですが・・・まあ今はそれは無理なので。帰宅後にZOOMで打ち上げをしたりして、演技!演技!の実り多き2日間でした。 今回の「でびノート☆彡」はこの演技ワークショップの内容をレポートしたいと思います。

WS前半の1時間半はいつものとおり座学の時間。
「1950年代から2021年までの演技法の変化の歴史」について講義。
これが毎回反響が大きくて「演技に歴史があるなんて知らなかったけど、歴史を踏まえて考えてみると、今までモヤモヤしていた演技に対する疑問が氷解した」「歴史を踏まえてみて、自分がこれから何を演じるべきかがよく分かった」などの反応。

たとえば音楽にしても絵画にしても、芸術学校では必ず歴史を学ぶじゃないですか。映画監督も映画史を学びます。ところが俳優に関しては演技の学校などに行っても演技法の歴史を学ぶ時間が無いんですよね。それはそもそも演技法には歴史があるという認識が日本にはないからなのですが・・・歴史を学ぶことは、自分が古臭い演技法で演じないためにも必要。そして撮影や舞台の現場現場によって求められる演技が、なぜ真逆なくらい違っているのか?についての回答もここにあります。

そして最新のコミュニケーション演技についての講義があって、それをやってみるエクササイズがあって・・・このあたりは【『世界に反応する演技』演技ワークショップ・テキスト公開。】の回に書いたので、気になる方はそちらをどうぞ。

そしていよいよ参加者の皆さんに送っておいた台本を演じてもらいました。

さて、みなさんだったらどのように演じますか?

参加者の俳優さんたちが地味に苦戦したのは「台本上の政治家」を演じることと「台本上のフリーの記者」を演じることでした。 みなさんそれぞれに工夫を凝らしてor全身全霊で演じてくれたんですが、どうもいまひとつ台本上の人物に見えないんですね。
外面的演技で説明的に「元政治家」「フリーの記者」という職業の紋切り型を演じてしまっていて小池・大塚に見えない。もしくは内面的演技で感情的に「スキャンダルのせいで記者に対して怯える女」「デリカシーの無いフリーの記者」を演じてしまっていて小池・大塚に見えない。・・・ドラマなどでよくある典型的な「政治家」「記者」を演じれば演じるほど、台本上の人物から外れてしまうんですね。

これは演技力の問題ではないんです。 問題点は俳優たちの「政治家」「記者」に関する知識が圧倒的に足りていないことだとボクは思いました。「政治家」「記者」がどんな物の考え方・感じ方をする人種の人達で、どんな人生観・常識観でもって生きている人なのかが把握できていないんです。

そして「政治家は記者をどのように見ているか?」「記者は政治家をどのように見ているのか?」・・・これが直接的に演技のガイドになる要素なのですが、これが感覚的に把握できていないんですね。これが把握できてないと、政治家役は記者役にどのように接していいのか、記者役は政治家役にどのようなスタンスで接していいのかが決まらないですよね。

小池役を演じた女優さんの多くが「記者におびえる女」として小池を演じていました。でも台本上の小池って本当に記者におびえているんでしょうか?
隠遁生活をおくっている小池・・・彼女はこのお寺がそのうちマスコミに発見されることを考えたことが無かったんでしょうか?それはないですね。彼女は優秀だからこそ政治の世界で名をなすことが出来たのですから。お寺をマスコミが嗅ぎつけることはもちろん想定済みで、そうなった場合どうするか次の一手についても考えている筈です。
つまり記者が現れても小池はびっくりして取り乱すようなことは無いんですよ。では台本上で小池が記者に対してやっていることは一体何なんでしょうか?・・・それは記者を魅了して、イニシアチブを取ろうとしているのです。

そして台本の後半をよく読んでみましょう。小池は自分のスキャンダルの真相を記者に話してしまいますよね。それはなぜなんでしょうか?・・・秘密について話すとき、小池と大塚はまだそんなに打ち解けていませんよね。秘密について話すような関係性ではまだないのです。ではなぜ話してしまうのか、バカなのか?・・・違いますよね。小池は優秀なんです・・・とすると?
もしかして小池は大塚をうまく自分の手駒として利用できないかについて考えているのかもしれない・・・つまり、小池は大塚を怖れてはいないんです。むしろ怖れているのは大物政治家を目の前にしたフリーの記者の方かもしれないのです。

政治家は記者をどのような目で見ているのか。

みんな毎日TVニュースやワイドショーで政治家と記者の会話を見ている筈なのに・・・その彼らの会話が具体的にはどういうやり取りなのか、どういう駆け引きなのかを把握してないらしいということが演技を見てわかりました。

東京都知事と記者たちが、内閣官房長官と記者たちが毎日どんな風に会話しているかを観察してみましょう。
たとえば小池百合子は記者に対してすごく丁寧な言葉を使いながらも、少し威圧的ですよね。いつもよりも少し大きめな声で、少し高めの音程の声で「有無を言わせませんよ」という態度でニコニコしながらも記者たちを圧倒する。
それに対して記者たちはそこに突っ込んでいくのですが、記者たちは小池百合子ひとりに対して圧倒的多数なのにあの程度しかツッコむことが出来ていないですよね。だったらもし1対1だったらどうなるでしょうか?そういうことを想像してみましょう。

そんなことを想像してみたうえで、台本上の小池と大塚の芝居について考えてみると・・・さて小池の目には大塚がどんな風に見えているでしょうか?そして大塚の目には小池がどんな風に見えているでしょうか?・・・ちょっとだけクリアーになってきませんか?

そう。「脚本分析」の参考になるものはこの世の中にたくさんあるんです。TVのニュース番組やワイドショーもそんな目で見てみましょう。振る舞いの奥にある意識を想像する・・・これこそが人間観察です。
一番ダメなのは「政治家ってバカだなあ」みたいな思考停止した状態で観ること。政治家がバカに見えるのは、政治家がバカだからではありません。我々と政治家の間に「バカの壁」があるからです。

かつて政治家を散々バカにしていた評論家が意気揚々と政治の世界に進出して、ふと気が付くとそのバカな政治家と同じ行動をしてしまっている・・・という光景を何度となく我々は見たことがありますよね。舛○さんとか…w。
政治家がバカなわけじゃないんですよ。政治の世界にある様々な常識感とか人生観を身につけてゆくとだんだんと政治家的なものの考え方で動くようになり、それが一般人から見てバカに見えるというだけの事なんです。

もっとにわかりやすい例で言うと、バイトが社員をバカにして、社員もバイトをバカにしてるって状態がありますよね。お互いに「ちょっと考えればわかるのに何であいつらわからないんだ?バカじゃねーの?」と思ってるw。
でもそのバイトが昇進して社員になった時、社員になった彼にはしばらくするとバイトの連中のことがバカに見えてくるんですよ(笑)。そう、バカの壁を越えて向こう側に行くと、今度は今まで自分がいた場所がバカに見えてくるんですw。

俳優という仕事は他人を演じるという仕事です。

バイトの役を演じる仕事をする日もあるし、社員の役を演じる日もあります。政治家や政治家秘書を演じる日もあるでしょう。

俳優は俳優の常識と人生観・・・つまり俳優のバカの壁の中で生きています。 俳優の目から見える世界は、政治家や医者やテロリストの目から見える世界とは違っているのです。そのバカの壁を越えて、政治家や医者やテロリストの目を手に入れて、彼らの目で世界を見ることが出来るようになったときに、俳優は彼らのことを演じることができるのです。

バカの壁の向こう側にいる人の目からも世界を見てみましょう。

「だってあいつらバカじゃん」とか言わずにw、そんなバカに見える彼らがどんな人生観で&どんな常識感で生きているのかを想像して、体感してみましょう。それが「他人を演じる」という俳優の仕事の第1歩になるのです。

ワークショップのレポートというにはあまりに長文になってしまいましたが(笑)、そんな感じで政治家から見た世界、記者から見た世界が理解できた俳優さんは、相手に対して瑞々しく反応することができるようになり、芝居が面白くなりました。
演技の上手下手の前に「脚本をどれくらい正しく読めているか」「演じる人物のことをどれくらい理解できているのか」の部分が大切で、ほらそのあたりをクリアーしてから演技を始めると、芝居が急にイキイキするよね。人物が急に魅力的になってくるよねという、そんな演技ワークショップでした。

あ、画像の猫は近所の野良猫のトテチテです。ワークショップ初日に出かけようとしたら、塀のうえに現れてボクを見送ってくれたんです。猫の目から見た世界を想像するのも面白いですよねw。

さて緊急事態宣言も終わり、まだ感染者数は微妙ですが、ワークショップは隔月で開催したいと思っています。またガンガン芝居ができる世界が早くも沿って来て欲しいですねー。ああ、マスクなしに思い切り演技できる日よ!

小林でび <でびノート☆彡>

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