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『ブギウギ』草彅剛さんの素晴らしき「ギバーの演技」。

ひさびさに朝ドラにハマってまして。
毎朝『ブギウギ』を7時半の回と8時の回、2回づつ見ていますw。
『ブギウギ』は音楽もステキだし、人間ドラマの芝居も面白いし、キャスティングも独特で、いろいろ面白いのですが、今回の演技ブログ「でびノート☆彡」では草彅剛さんの羽鳥善一先生の演技にクローズアップして書いてみたいと思います。
 
草彅さんと言えば『ミッドナイトスワン』の演技が記憶に新しい、映画ドラマで主役を張るスターなわけですが、なんと今回の『ブギウギ』では脇に徹しているんです。 そして彼の出ているシーンはどのシーンも花が咲いたように華やかに輝いています。

これは草彅さんが「ギバーの演技」に徹しているからです。

シーンに「ギバーの俳優」がいると、主役が輝き、シーン全体がキラキラと輝きます。

たとえば第6週「バドジズってなんや?」で、主人公スズ子が羽鳥先生の歌の指導の意味が分からなすぎて大混乱するくだりがあるんですが、羽鳥先生を演じる草彅さんがすばらしく「分からない」芝居をするんですねw。
どう歌うべきか質問するスズ子に「バドジズ出来ればいいんだよ」とか答えるのですよ(笑)。当然スズ子は「バドジズってなんですか?」と聞き返しますが、羽鳥先生は「それは知らないけど、いまの福来君は全然バドジズしてないよね」とケムに巻くような返答をするばかり。あははは。
 
この時の草彅さんの芝居、「バドジズ」という言葉に何の感情も無いんですよ。ここで草彅さんが「バドジズ」の意味をスズ子に伝えようとして説明的に感情を込めて「バド!ジズ!」とか言ったとすれば、スズ子は混乱せずに済むんです。
でも草彅さんはそこに羽鳥先生の感情を込めない。
なぜならこのシーンは「スズ子がどう歌うべきか混乱する」というシーンだからです。
実際、羽鳥先生にそんな風に言われて500回も歌の出だしの部分だけを歌わされて、スズ子は混乱してフラフラになります・・・この大混乱するスズ子が超魅力的なんです。
 
つまりスズ子が超魅力的に見えるのは、草彅さんの演技のおかげなのです。草彅さんがスズ子を徹底的に混乱させる芝居をしているから、スズ子が大混乱してキラキラと輝き、そしてドラマが面白くなる・・・これが「ギバーの演技」です。

「バドジズ」に感情を込めない演技は正解か?

羽鳥先生には「バドジズ」の意味はもちろん分かっているんです。だからそのニュアンスを込めて喋ることは可能なんです。でも羽鳥先生がそれをしないのは、彼が「言葉で説明してもしょうがないよ。歌うのは福来君なんだから」と思っているからなんですね。
「表現」というのは、誰かに言われてその通りにやったのではそれは表現ではないわけです。本人がそれを発見するからそれが表現たりえるわけですよね。スズ子が歌う「ラッパと娘」はどのように歌われるとステキなのか、それはスズ子自身が発見すべきなのです。
 
だから羽鳥先生は「ラッパと娘」の歌詞の中にある「バドジズデジドダ」という言葉がいったい何なのか?それを自分の力で探しなさい、とヒントを出しているんですね。でも「バドジズ」に感情を込めて喋ってしまったらそれはヒントじゃなくて答えになってしまう。
だから羽鳥先生は「バドジズ出来ればいいんだよ」と特に感情を込めずに、非説明的に喋るのです・・・つまり草彅さんの演技は役の人物の行動としても「正解」ということになります。
 
でも一般的に俳優さんってついつい言葉に感情を込めて演じてしまいがちなんですよねー。でもこの練習のシーンのように、感情を込める必要のない場合、そして感情を込めずに演じた方が芝居を面白くする場合があるんです。
脇の人物が感情を秘めて芝居をした方が、主役がそれに影響されて心が揺れてキラキラと輝く!という場合が多々あるんです。
だから今回、草彅さんはあえて「脇に徹して」いるんです。

「ギバーの演技」ばんざい!

この回の後半戦、さらに草彅さんの「ギバーの演技」は威力を発揮します。
大混乱してたスズ子が羽鳥先生の家に押し掛けるという展開なのですが、ここで起きることがまた面白い。
 
スズ子が羽鳥先生の家の前に立っていると、羽鳥先生が子供のカツオ君とニコニコ手を繋いで帰ってきます。このカツオ君がまたキラキラと輝いているのです。なぜか、それは羽鳥先生とカツオ君の芝居を見ればわかります。
草彅さんがカツオ君と同じ子供の目線でキャッキャ遊んであげているので、カツオ君がテンション上がっちゃっててw。実際にはカツオ君はセリフの入りがワンテンポ遅れちゃったりはしてるのですが、でも表情が超イキイキして、セリフも超イキイキしてるんですよね。超カワイイ! これも草彅さんがギブしてる「ギバーの演技」です。
 
そんな風に玄関先でワイワイしてると、羽鳥先生の奥さんが出てきます。「玄関先でなに騒いでるんですか!」みたいな感じで。
でもそこで羽鳥先生が奥さんに向かって「奥さんスキスキ光線」満載の芝居で対応するので、奥さんの表情がまたイキイキするんです。そりゃあんなに愛情を示されたら嬉しいですよね。
 
こんな光景を見せられてスズ子はさらに困惑して「え~?」と輝きを増し、登場人物4人全員が輝き、シーン全体が輝いているのです。 こんなにも「ギバーの演技」の効能が分かりやすく発揮されたシーンはなかなかないので、ボクはこの事は絶対にブログに書こうと思いましたw。

そしてこの後のスズ子が「ジャズの楽しさ」にどうやって辿り着くのか?のくだり。 なんと「センセ殺したる!」という羽鳥への怒りから!とは・・・羽鳥先生の教えの斜め上を習得するスズ子、最高のコンビでした。
そしてこの回のラスト、スズ子を送ってゆく羽鳥先生と2人で歌いながら去ってゆく「ラッパと娘」が、とんでもなく楽し気で、まさにバドジズしてて最高だったんですよねー。

 「ギバーの演技」は損な役回りじゃない。

そもそもボクが草彅さんの演技に注目し始めたのは『ミッドナイトスワン』の衝撃からで、それについては【「でびノート☆彡」『ミッドナイトスワン』の世界を映す演技。】の回でも詳しく書きましたが・・・草彅さんはあの映画では「身の回りに起きる様々なことに反応してキラキラと輝く」という演技法で、主人公の人生を内面をたっぷりと間を使って超切実に演じていました。
これこそが「主役の演技」・・・その世界に起きる様々なことにキラキラと反応して、感情移入した観客をストーリーの先に連れてゆく芝居です。
 
それが今回の『ブギウギ』ではその真逆の「ギバーの演技」でもって主人公を輝かせる芝居をしているというわけです。
 
『ミッドナイトスワン』での草彅さんの芝居は、無言のなかで凪沙さんの内面がすべて観客から見えるようになっていて、それが観客を泣かせました。
それが今回『ブギウギ』では羽鳥先生の内面というか真意はほとんど隠されていて、謎があることがスズ子や辛島さんや奥さんやみんなの心をかきまわし、そのみんなのリアクションに共感する形で、観客は羽鳥先生の魅力を感じているのです。
 
そう「ギバーの演技」というと、ギブしてばかりで損な役回りなんじゃないかと思う俳優さんが結構多いのですが、そうじゃないんです。
だってわれわれ視聴者は、羽鳥先生のことを魅力的に感じているじゃないですか。それが答えです。

 
むしろ宮本亜門さん演じる作詞家先生、彼も羽鳥先生と同じに「ギバーの演技」で演じたら最高に魅力的になる役回りですが・・・彼は誰にもギブせずに、割とひとり芝居っぽく、自分の間とスピードで演じられているので、むしろ印象が弱くなっていますよね。輝けていない。
そう、「ギバーの演技」は損な役回りじゃない、廻り回って輝く芝居なのです。
 
『ブギウギ』今後もいろんな登場人物が押し寄せてきそうなので、それらがどのような関係性でドラマを形作ってゆくのか、楽しみですね。
しばらくは朝早起きの生活が続きそうですw。
 
小林でび <でびノート☆彡>


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