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伝道師

(文1400字 写真50枚)




 ラグビーほど「割の合わない」ボールスポーツは他にない。ボールの形からしてまずいびつだ。どのように転がるか予測不能のボールを全力で追いかけ廻さなければならない。ただパスを人に渡せばいいだけでなく、投げようとした瞬間に相手の猛タックルが容赦なく襲いかかる。その激しさと言ったら、もはや完全にレスリング。ボールを回そうとしているのか、それともレスリングをするのが目的なのか、途中で分からなくなる時がある。サッカーのルールを適用するならば、レッドカードが続出してプレイヤーがいなくなり、試合にならないだろう。

試合中はスクラムという泥臭い押し合いが頻繁に繰り返される。プレイヤーはほとんど地面に這いつくばり、ダンゴムシ状態と化す。華麗なパス回しはいつ見られるというのだ。ラグビーを考案した人は、できるだけ「思い通りにはならない」ようなゲームにして、それを見て喜ぶために、わざわざこんなにも「割の合わない」設定にしたのではないか。

驚くべきは、そのような環境に置かれても、すべてのプレイヤーたちが黙々と「理不尽」なゲームに向かい続けているということ。
他のスポーツなら、いつ乱闘になってもおかしくはないぶつかり合いが繰り返されるにもかかわらず、誰も文句ひとつ言わずに、むしろ淡々と涼しい顔をして、すっくと立ちあがり、プレイを続行している。
思い通りにならないストレスを顔に出すことすらない。ピッチに唾を吐く者もいない。ボールに八つ当たりをしたり、天を仰いだりもしない。
その一方で痛みに顔を歪め、時には顔から頭から出血しているプレイヤーがいる。ラグビーの試合では打撲や脳震とう、ろっ骨などの骨折、靭帯の損傷、断裂などの怪我などがつきものであり、頸椎損傷も起こり得るという。

彼らはそうした過酷さをすべて受け入れた上で、ラグビーというスポーツを心から楽しんでいるように見える。
彼らが感じている魅力は見ている者には分からない。
しかしスタジアムから湧き上がる大歓声は、そのひたむきな情熱と、紳士的な冷静さが見事に溶け合ったプレイが、観ている者に感動を与えるものであることを物語っている。トライしても大袈裟なパフォーマンスもなく静かに喜びを分かち合っているところが実にカッコいい。

日常生活の中にもある「割の合わない、思い通りにならない、理不尽さ」に対して、どのような姿勢で向き合えばいいのか。
ラグビープレイヤーたちの燃えたぎるような闘志溢れる姿、そして同時に冷静沈着な姿勢、そのことから何らかのメッセージを感じ取るとすれば、それは「何があっても生きることを楽しむ力に変える」ということではないかと思う。

〝One for all, All for one〟
「一人はみんなのために、みんなは一つの目的のために」

一歩一歩地を這うような前進を繰り返す後ろ姿には、そうした奥義を伝える「伝道師」としての静謐な雰囲気すら漂う。




日本代表VSオールブラックス
2023.7.15熊本えがお健康スタジアム



















































































































ビタミン
NH&K TRIO



ラグビー日本代表|2023年日程

9/18(月)4:00  ラグビーワールドカップ2023イングランド vs 日本
9/29(金)4:00  ラグビーワールドカップ2023日本 vs サモア
10/8(日)20:00   ラグビーワールドカップ2023日本 vs アルゼンチン



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