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海外トレック#1-1 「3泊4日で最果ての村へ」 メスチア-ウシュグリトレッキング 魅力編 @ジョージア

イントロ(本記事の紹介)

コーカサス地方最高峰の山々に囲まれ、2200Mに位置する「最果ての村」として知られるウシュグリ(Ushuguli)。この村を目指して、世界中のハイキング/トレッキング/登山好きがジョージアのスヴァネティ地方に集まります。そして、最も有名なトレッキングコースが、本記事で紹介するメスチア-ウシュグリトレッキングコースです。メスチアという村から出発して、大自然や中世から受け継がれる建築物とホスピタリティを持つ村々を抜けて、最果ての村ウシュグリ駆け抜ける3泊4日のコースです。

私も2023年9月にトレッキングに挑戦してきました。自然の壮大さ、スヴァネティ地方の歴史/文化の深さ、様々な人々との出会い、そして美食といった魅力溢れるトレッキングでした。特に、スヴァネティ地方の歴史/文化面については、このトレッキングをきっけに学びを深めたいと思いました。

ハイキング/トレッキング/登山が好きな方
秘境探しが好きな方
世界の文化や建築に興味がある方
海外へ旅をする/したい方
に向けて、「最果ての村」を目指せるようにこの記事を書きました。

記事の構成

今回は、本記事を含めた3部構成を通して、
①メスチア-ウシュグリトレッキングの魅力
②メスチア-ウシュグリトレッキングのコース概要+アクセス
③実際のトレッキング行程+帰り方
を紹介していきます。

『①メスチア-ウシュグリトレッキングの魅力編(本記事)』では、
このメスチアやウシュグリという地域やトレッキングコースの見所を紹介していきます。ウシュグリは世界遺産にも登録されているため、一般の観光客として訪れることができます。あまり、ハイキング/トレッキング/登山やアウトドアに興味がない方でも、是非読んでいってください。

『②メスチア-ウシュグリトレッキングの実践編』
では、タイトル通り、読者の方がこのトレッキングを実践できるように、コースの概要(難易度/総距離/地図)や装備/宿泊/総距離/注意点/予算/メスチアまでのアクセスの仕方をまとめておきます。本記事を読んで、「このトレッキングやってみたい」と思った方は、読んでみてください!!

『③実際のトレッキングの行程編』
では、実際に私が歩いた行程を書いていきます。道を写真で追いたい方や、テント泊メインでやってみたい方には、特に参考になるかと思います。地図を交えた旅行記の形式です。

それでは、さっそく、メスチア-ウシュグリトレッキングコースの魅力を見ていきましょう。

なお、これ先から下線が引かれている地名は、クリックするとGoogle Mapに飛ぶようになっています。是非、参考にしてみてください。また地名の()内にMapsMe内の名称も記載しておきます。


魅力①:ウシュグリ

メスチア-ウシュグリトレッキングコースの見所の一つ目は、ウシュグリです。トレッキングコースの終点にあります。

莫大な自然と文化遺産

圧巻の自然美と歴史的建築物が共存する村です。大コーカサス山脈最高峰の5193Mのシュカラ山(Mount Shkhara)に背中をあずけ、谷間の中に位置するウシュグリは、その圧倒的な地理的孤立から、「最果ての村」と呼ばれています。その孤立さのおかげで、今でも9〜10世紀に建設された石造の建物が今でも現存しています。その文化的重要性が評価されUNESCOの世界遺産にも登録されています。

石造の家塔と「恐れを知らない心」

この村を散策すると、高い石造の塔が点在しています。この塔は、9世紀、または、10世紀に防衛の要所として建造されたそうです。侵略者の衝撃時に、住民が避難し、高所から投擲や弓矢で自分たちの身を守ったと言われています。身を守るために勇敢に侵略者と戦う様から、ウシュグリ(Ushuguli)の語源はジョージア語の”ushishari guli(恐れを知らない心)”が元になったと信じられています。ちなみに、塔からの投擲の様子は、ソ連時代に放映されたスヴァネティ地方の様子を映した映像(Salt For Svanetia)から、見ることができます。こちらのリンクから見ることができます。
また、石造りの塔や家々の建造方法は今だに謎が残っています。大きな石をどのようにして運ばれ、計算され、積まれていったのかなど、科学的合意がまだなさていない状況です。ただ一つ分かっていることは、この塔や家は人の手で作られたことです。スヴァン語の格言の中に、"…. created by God, made by God. And yet built by human hands(神により生み出され、神により作られた。だが、人の手によって建てられた)"というフレーズがあります。何かを建設する力は人にも宿るのですね。

参考リンク:https://stefan-applis-geographien.com/2020/08/02/svaneti-traditional-customs-habits-the-svan-house-and-the-role-of-the-man/

シュカラ山(Mount Shkhara)

5193Mの高さを誇り、ジョージアの最高峰の山です。この山がジョージアとロシアを隔てる国境の機能をなしています。昔のウシュグリはこの山に背中をあずけ、外敵からの襲撃を最大限に抑えることができていました。ウシュグリからデイハイクでシュカラ山の見学をすることができます。


魅力②:大自然とアウトドア

大コーカサス山脈に聳える山々、氷河が削った深い渓谷、それを駆け抜ける馬々、インターネットも届かないキャンプ場。メスチア-ウシュグリトレッキングコースのそれぞれの日程に、息をのむ自然の美しさがあります。今回は代表例を紹介しますが、下記以外にも圧巻の風景がみなさんを待っています。

アディシ氷河(Adishi Glacier / ადიშის მყინვარი)

大コーカサス山脈中央部に聳える長さ約9KMにも及ぶ氷河。圧巻に聳える氷河を正面から眺めることができます。よく耳を澄ませると、渓谷に響く雪崩の音が聞けます。

チュクンデリ・パス(Chkhunderi pass)

アディシ村から一山越える時に通る標高2655Mの峠道です。そこから見ることができるアディシ氷河や稜線が非常に美しいです。晴れていれば、爽やかな風にのって駆け巡る馬を見ることもできます。

チュクンデリ・パス(Chkhunderi pass)の稜線

アイダシ川の川渡り

本トレッキングで、冒険要素を含んだ難所があります。それが、アイダシ川の川渡りです。氷河から流れ出る冷たい水が流れる川に、足を入れて渡ることになります。一番浅い場所を見定めて、トレッキングポールを使いながら、慎重に進みます。刃が刺さるのような水が足をおそいますが、これも冒険の一部です。
ちなみに、この川、夏場だと地元の人が馬に乗せて渡らせてくれます。25GELほどのお金を請求されるそうです。

本当に冷たかったのを今も覚えています
お湯で足を温める!!

絶景のキャンプ場

谷を見下ろすキャンプ、馬が駆け抜ける川辺でのキャンプ。疲労で休みたいにも関わらず、胸を掻き立てる絶景が楽しめる無料キャンプ場があります。トレッカーのほとんどは、ゲストハウスに宿泊しながら、トレッキングをしますが、静かに絶景を噛み締めたい方は、テントを担いで挑戦してはいかがでしょうか?


魅力③:軽装備のトレッキングが可能

トレッキング初心者でも不可能ではないレベルのコースなのがメスチア-ウシュグリトレッキングコースの嬉しいところです。3泊4日(最速で2泊3日)、総歩行距離が57KMなので、体力的、精神的疲労を軽視することはできません。加えて、山岳地帯のため、さまざまな天候やアクシデントに備えた装備や対応力が必要です。

一方で、このトレッキングコースの難易度を格段に下げる要因もあります。

①ゲストハウス宿泊を組み込むことができる
全日程でゲストハウスの宿泊が可能です。温かいシャワーと暖かいベッドで疲れを癒して翌日のトレックに臨むことができます。加えて、基本的に朝食がセットです。プラス料金で夕食も追加できます。しかも、運良くビュッフェ式の食事のゲストハウスに巡り会えれば、お弁当箱に昼食を詰めることもできます。

②宿泊による荷物の軽量化が可能である
宿泊可能ということは、寝具、調理器具、主食を持つこのが不要になります(もちろん軽食や非常食は常備しておきましょう)。私が見たトレッカーの中にはデイハイクの装備(30Lのバックパック、2Lペットボトル、着替え、薄手のダウン、雨具、軽食、トレッキングポールなど)で全ての行程を終えてしまう人もいました。

ちなみに私はテント派なので、みんなよりも大きな装備で何にものトレッカーにぬかされていきました笑。結局キャンプ場が宿泊できる村よりも先にあるので追いついちゃうんですけどね笑。

素敵なゲストハウスが各村にあります!!

魅力④:スヴァネティ地方の歴史と言語

メスチア-ウシュグリトレッキングコースは、ジョージア北部のスヴァネティ地方にあります。

赤がスヴァネティ地方
本画像はこちらのリンクから借りたものです。

この地域では、自身のことをジョージア人ではなく、スヴァン人(Svan)と名乗る人々がいます。実際、私がウシュグリのゲストハウスに宿泊した際に、そのオーナーは自身のことをスヴァン人と呼び、スヴァン語を教えてくれました。ジョージアの中で歴史、言語、民族的アイデンティティに誇りと独立心を持つスヴァン人とその歴史や言語について、出会ったスヴァン人の証言とウェブページの情報を交えて紹介します。

ざっくりとした歴史

最古の記述によれば、現在のスヴァネティ地方は"黄金の羊毛の土地"と称されるコルチス王国の一部だったようです。その後は、ローマ帝国へ帰属されたり、ビザンツ帝国とササン朝ペルシアの戦禍に巻き込まれたり、大国の動向に左右される地域でした。
その後、この地域はやがて9世紀から11世紀にかけて登場するジョージア王国の中に統合されました。12世紀にこの王国は黄金期をむかえ、その繁栄はスヴァネティ地域にも拡大し、教会の建設や芸術の発展などが起こりました。当時の王国の女王は、スヴァン地方の美しさに惹かれ、この地域に定期的に足を運んだそうです。
この王国が崩壊する15世紀以降は、自由と混沌の時期がきます。小さい氏族がゆるく連合した自治地域となりました。自治権があったものの、氏族同士の血生臭い抗争が絶えなかったそうです。村の中にいくつもの石造の塔がたったのも、外敵(敵対する氏族)から身を守るという背景があります。


19世紀に入ると、ソ連の時代がきます。19世紀のソ連軍への反抗も虚しく終わりました。ソ連崩壊後は、この地域はジョージアの一部として独立をはたしました。ジョージアという国民国家の中にありながら、紀元前から現在まで積み重なったスヴァン人としての歴史認識、文化、言語を持っています。

参考リンク;https://www.caucasus-trekking.com/regions/svaneti#img2

スヴァン語

スヴァン語(ლუშნუ ნინ  / lušnu nin)は、カルトゥヴェリ語族の4言語(他の3つは、ジョージア語、メグレル語、ラズ語)の1言語です。約5000年前に、初期のカルトゥヴェリ語族から分岐したため、ジョージア語話者はスヴァン語を理解できないほどかけ離れた言語です。独自の表記法がなく、スヴァネティ地域でのみ使われる話す言葉です。
ジョージアの90%の人々がジョージア語を話す一方で、スヴァネティ地方の若い世代の流出が著しく、話者数は減少の一途をたどっており、話者の絶滅も危惧されています。ウシュグリのゲストハウスのオーナーさんが、「若者はスヴァネティの言語や文化を軽んじている。ジョージア語や英語に傾倒し、地元の言語が忘れらてしまう。国として、スヴァン語を教えていく必要ある」とぼやいていました。私たち観光客やSNSなどが話者数の減少に影響を与えているとも言っていました。観光客が話す言語は、英語、ジョージア語、ロシア語、中国語だそうです。その言語への経済的価値が高くなり、言語的関心が外の言語に向いているのが実情だそうです。また、SNSで外の世界の若者が、ジョージア首都やロシア、欧米に憧れをいただき、スヴァネティ地方に定住しなくなってきているそうです。こうした、少数言語話者の減少や若者の地方離れなどは、世界的な減少だと思います。
そんな将来に心配を抱くオーナーさんが、私に数フレーズを教えてくれました。是非、トレッキング中に出会った人に言ってみてください。

①イヴァス・カリ(ivasu khari):ありがとう
khaの部分が、喉元からタンを吐き出す時の「ハ」にも聞こえます。

②ラムパティブ(lampativ):ごめんなさい
最後のvは、fuに聞こえることもあります。

ウシュグリのゲストハウスにて、ビールを飲みながら、いろいろなことを教えてもらいました。

スヴァネティ塩

スヴァネティ名物といえば、スヴァネティ塩!!侮ることなかれ。本当に美味しいです。私の場合は、分厚いステーキを買って、それにスヴァネティ塩をかけるだけ。天にも昇る味になります。材料は、塩、ニンニク、コリアンダー、コロハ、乾燥マリーゴールド、レッドペッパーです。パンチの効いたメンバーなので、食欲をそそること間違いなしです。お土産や旅のお供として、是非持っておきたい至高の一品です。
私は実際に買ったわけではなく、メスチアで泊まったゲストハウスの店主さんから親切にいただきました。

彩りが豊か!!

スヴァネティ地方の映画:Dede

トレッキングの起点となる町のメスチア。そこでは、一本の映画しか放映しないPub&Cinema DEDEという映画館があります。その映画はDedeといいます。歴史的な出来事をベースに、スヴァネティ地方とウシュグリを舞台に撮影された映画です。

伝統と氏族のプライドを重んじる孤立した村に住む若い女性のディナが、私的恋心を抱く。ディナの周りで渦巻く男性中心的伝統と暴力を伴う争いの中で、ディナはどう決断し、何を諦め、どう生きていくのか?スヴァネティ地方の伝統と歴史、そしてその中で生きる人々を描いた、見逃せない作品。

この地域の人々がどのように生きてきたかを知るきっかけとなる映画です。メスチア-ウシュグリトレッキングを終えた帰りに、ぜひ、この映画館でDedeを楽しんではいかがでしょうか。

画像は下記のリンクより

https://en.m.wikipedia.org/wiki/Dede_(2017_film)

魅力⑤:Every Guest Is A Gift From God

ジョージアの格言で、訳すと、”全ての客人は神からの贈り物”。これはジョージア全土に通ずるジョージアに住む人々がホスピタリティ精神を表現した格言です。実際、食べ物やビールを無料でいただく場面が多く、その人たちは必ずこの格言を知っていました(時として、神の名の下に、過度にお酒や大麻をオファーされたことも過ぎるもありましたが笑)。メスチア-ウシュグリトレッキングに挑戦する皆さんも、そんな気持ちのいい人に会えることを祈っております。



いかがでしたでしょうか。
本記事では、メスチア-ウシュグリトレッキングの魅力を伝えてきました。本記事を通して、「このトレッキング面白そう!!」、「ウシュグリに行ってみたい」、「スヴァネティ塩を食べてみたい」と思った方は、次回の記事も読んでみてください。

次回は、『②メスチア-ウシュグリトレッキングのコース概要+アクセス』
では、タイトル通り、コースの概要(難易度/装備/宿泊/総距離/注意点/予算など)とメスチアまでのアクセスの仕方をまとめておきます。トレッキングの準備に参考になるような記事を聞きます。
ivasu khari♪


その他の参考記事の紹介

本編のメスチア-ウシュグリトレッキングコース以外にも魅力的に登山/ハイキングコースが無数に存在します。ジョージアへ行くのであれば、私が今まで書いたジョージアの記事で詳しく紹介してあるので、是非参考にしてみてください。



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