神秘の火🔥不知火の里　宇城市歴史さんぽ⑤ 完 【響ヶ原古戦場の相良堂】

こんにちは。今回は宇城市散策の5回目にして宇城市シリーズの最終回です。今回ご紹介する史跡は、宇城市豊野町にある相良堂（相良神社）です。相良堂は、天正9年（1581）の響ヶ原の戦いで戦死した相良家18代当主・相良義陽（さがらよしひ）とその家臣達を祀ったお堂です。お堂の中には、相良義陽の重臣だった犬童頼安が義陽の没時に建てた供養碑があります。この『響ヶ原の戦い』は郷土史上の悲劇として後世の人々は永く義陽の死を悼んで語り継ぎ、現在ここ響ヶ原の廟墓は相良神社として地域の人々に敬われています。

今回の散策地はここ！

相良義陽も、対戦相手の甲斐宗運も全国的には有名ではない武将ですし、今回の史跡は地味なので（失敬）、私の筆力でどこまで皆様に分かりやすく伝わる記事が書けるかわかりませんが、頑張ってみたいと思います✏️というのも、相良神社は竹崎季長の史跡に向かう途中でたまたま見つけ、最初は何の史跡か分からず横目で見て通り過ぎたんですが、不思議な佇まいがどうしても気になって帰りに立ち寄った場所でした。これはもう史跡に呼ばれたな、と感じて、記事にしなければと思った次第です。（今回もまさかの5000字超えの長文になってしまいました🙇‍♀️）それでは早速、行ってみましょう🏃‍♀️

響ヶ原古戦場に建つ相良堂（相良神社）

宇城市散策③で記事にした竹崎季長のお墓に向かう途中、何やら不思議な雰囲気の神社を見つけ、気になったので帰りに立ち寄ってみました↓

円形の石垣に囲まれた森の入り口に建つ大きな石碑と鳥居。一般的な神社とは何処か雰囲気が異なっていて、興味がそそられます。ここは何を祀った神社なんだろう？？路肩に車を停めて近づくと、先ずは鏡のような、吸い込まれそうなデザインが印象的な案内板が目に留まります↓

響ヶ原古戦場　案内板

こ、ここが響ヶ原か〜😳‼️とちょっと感動する私。というのも、響ヶ原の戦い（響野原の戦い）（1581）は、郷土史家が書いた書籍や各市史などを読んでいて、幾度となく登場する熊本の戦国史上重要な戦いだったからです。響ヶ原ってどこだろう？と思っていたのですが、宇城市だったんだー💡それでは例によって、この戦いの概要を説明する為に、案内板全文を下記に引用します。↓

　　　　　　　　響ヶ原古戦場
天正9年（室町•安土桃山時代、今からおよそ400年ほど前）12月2日、相良義陽と甲斐宗運の軍勢がここで戦いました。
　阿蘇氏を討とうとする島津義久は、軍の牛頭に相良義陽を命令し、同じ年の12月1日、義陽は多数の軍勢を率いて八代を出発し御船に向かいました。はじめに娑婆神峠（豊野村と小川町の境）に陣を置き、中央町の赤峯尾城、甲佐町の豊内城を攻め、その翌日は、更に陣を響ヶ原に進めました。
　赤峯尾城と豊内城での戦いでは相良軍が優勢で敵の大将の首をとることが出来ました。一生懸命に戦った兵士たちのために響ヶ原では酒盛りが行われました。
　甲斐宗運は、この隙をみて、勝った喜びでいっぱいの相良軍の大将のいる陣地へ攻め込みました。まさか酒を飲んで休憩しているところへ攻め込まれるとは思いもしなかった相良軍はふいをつかれ大将の義陽をはじめ多くの戦死者を出しました。（勇士70余人、雑兵200余人）
　大将がいなくなった相良氏は治めていた八代地方を島津氏によって奪われ、義陽の子忠房は球磨一郡の小さな土地を支配する領主へとあともどりしました。
　戦場となった響ヶ原には、義陽をはじめ戦いで死んだたくさんの兵の魂を弔うために供養碑が建てられました。
　言い伝えによればいくさのあった夜（12月1日）に響ヶ原を通ると馬のひづめの音や刀の切り合う音にまじって多数の兵士の勇ましい叫び声が聞こえるといわれています。

さらに例によって、簡単に補足説明いたします💡響ヶ原の戦いがあった戦国時代、九州の情勢は九州北部では大友氏（豊後）、竜造寺氏（肥前）、九州南部では島津氏（薩摩）が勢力を強めていました（九州三国志とも言われる）。間に挟まれた肥後国（熊本）の諸豪族はそれら三大勢力への対応に苦慮することになるのですが、その頃肥後国内で独立を保っていた主な氏族は阿蘇氏と相良氏でした。（菊池氏は少し前に正統が途絶え、宗家は断絶しています。）

大雑把すぎる戦国時代末期の九州と熊本の勢力図

この時の相良家当主が相良義陽で、阿蘇家当主は阿蘇惟将、そして阿蘇氏の軍師にして名将と言われたのが甲斐宗運です。島津氏の北上の勢いが強まる折、相良義陽と甲斐宗運は互いに起請文を取り交わし、対島津の攻守同盟を結んでいたのですが、島津の圧倒的な力を前に、相良氏は水俣城での合戦で島津氏に降伏。島津家当主•島津義久は続いて阿蘇氏を攻略すべく、降伏した相良義陽に阿蘇攻めの先陣を命じます。相良義陽は出陣に際して起請文を破り、盟友•甲斐宗運を裏切る罪を八代妙見社に陳謝し、島津軍の先鋒として阿蘇氏領内に侵攻したのでした。

位置関係が分かるようGoogleマップに落書きしてみた。

続けて相良神社鳥居横の石碑の碑文を引用します↓

鳥居横「相良堂史跡碑」の台座に碑文が刻まれています

時に天正9年12月朔　島津義久の強圧に従い、甲斐宗運との盟約を破ってこれを討つか、約を守って相良氏歴世の長久を捨てるか、第18代　義陽は心中深く決するものがあった。この日義陽は兵800を率いて響野原に陣した。2日、先鋒東左京進の戦勝至り祝盃をあぐ。然るに此朝機に乗じ潜行して虚を突く。相良軍勇戦して敗れ死するもの数百名、義陽は敢えて退かず、従容として敵に首を預けた。宗運は義陽の首を験して涙を流して還した。東駄左衛門は屍を陣中に葬り、首を奉じて八代に葬る。以来悲風390年、ここにその霊を弔い碑を建設する。

昭和45年6月豊野村教育委員会建立碑の碑文

甲斐氏（阿蘇氏）と島津氏の板挟みになった義陽さんの苦悩が想像できますね。守備には不利な響ヶ原に本陣を敷いたことや、盟友であった甲斐宗運を裏切らざるを得なかった苦悩から、義陽は覚悟の戦死であったともいわれています。享年38歳、家臣に慕われていた名君だったそうです。甲斐宗運は義陽の苦しい立場を理解し同情して、その首を直ちに相良側に送り返したといいます。碑文にある通り、義陽の胴体はここ響ヶ原に葬られ重臣犬童氏によって供養碑が建てられました。そして首は八代に持ち帰られて葬られ、現在八代の古麓城近くに相良義陽のお墓（首塚）があります。因みに以前、八代古麓城付近を散策した際、「相良義陽の首塚」の道標があったのですが、その時は義陽さんのことをよく存じ上げなかったのと、南北朝時代の領主•名和氏の史跡を中心に散策したので、義陽さんの首塚はスルーしてしまいました💦かわりに、ここ響ヶ原の廟墓（供養碑）にしっかりお参りしたいと思います。それでは鳥居をくぐって奥にある御堂に向かいましょう👟

鳥居をくぐるとその先は、まるで異世界に足を踏み入れたような不思議な感覚。

石灯籠の間を進み、屋根付きの拝殿？の先の石段を上がると、供養碑が収めらている御堂があります。

御堂の周りには日が燦々と降り注いで神々しく、神聖ささえ感じます。石段を登ってさらに近づいてみます。

供養碑が収められている御堂の前に立った時、一羽の黒蝶が近づいてきて顔の前をヒラヒラと舞いました。史跡巡りで一人で神社や先人のお墓を訪れると、たまに大きな黒蝶（多分黒アゲハ）がのけぞるくらいの至近距離に近づいてきて、頭上や顔の前で一周して去っていくのですが、私は勝手に先人達の歓迎の印だと思っています笑　ただ黒アゲハが人懐っこい種なだけかしら？と今ネットで調べたら、スピリチュアルの世界では黒アゲハは亡くなった人の象徴、神様のメッセージと考えられているそうです😳❗️更に、黒アゲハは武将達が好んだ転生のシンボルだそうですね😳‼️ちょっと鳥肌〜🥶

さて話が脱線してしまいましたが、供養碑にお参りします。「義陽さん並びに家臣の皆さま、こんにちは。今日はこちらにお導き下さりありがとうございました。遅くなるかもしれませんが、きっと記事に書きますね🙏」

因みに御堂の内部はまじまじとは覗かなかったのですが、内部の供養碑には、「柳江院殿前従四位下匠作大伊越江蓮芳大居士」と義陽さんの法名をしるし、100人の戦死者名と被官15人足軽両人がしるしてあるそうです。（人吉市史より）この供養碑は、義陽さんの家臣によって建てられたのち、宇城市が小西行長の領地になった後、小西氏に預けられた南条元宅が補修し、江戸時代に入って享保15年(1730年)には、地元の総庄屋であった中山孫左衛門が、碑を保護するために石のお堂を建立しましたが、平成28年（2016年）の熊本地震で倒壊したので、現在の御堂は地元の有志によって新しく建設されたものだそうです。御堂の周りにもたくさんの古い石塔が建っていました。このことからも、響ヶ原に殉じた義陽さんの悲劇の物語が人々に深い感銘を与え、代々末永く義陽さんの死を悼んで相良堂を敬ってきたことが分かりますよね。案内板にも書いてありましたが、言い伝えによれば、合戦の夜（12月2日）に響ヶ原を通ると、馬のひづめの音や剣で争う音に混じって戦う人々の叫び声が聞こえると言われていることから、ネット上ではこの場所を心霊スポット的な書き方をされているものもありましたが、私は全く怖さは感じませんでした。日の光が降り注ぐ神々しい相良堂は、相良義陽に対する歴代の人々のピュアな祈りで満たされた、静謐で神秘的な場所でした。

あとがき

今回は全国的にはあまり知られていない武将にまつわるマイナーな史跡ということで、なるべく分かりやすく書くよう努めたつもりですが、記事を作成するにあたりネットで検索したら、甲斐宗運並びに相良義陽、そして響ヶ原の戦いは『信長の野望』というゲームに登場するようです💡もしかして、ゲーム好きの方や戦国時代好きの方には結構知られた合戦だったりするのでしょうか？（私は歴史詳しくないので響ヶ原の戦いは今回初めて勉強したのですが。）

さてその響ヶ原の戦いの後日談ですが、気になる方もいらっしゃるかもしれないので以下簡単に説明します。相良義陽を討った甲斐宗運は、「薩摩が肥後に入らなかったのは相良氏があるためだった。阿蘇氏の未来も長くはないだろう」と言ったといいます。そして響ヶ原の4年後の天正13年に名将甲斐宗運も没し、その後、阿蘇氏も島津氏に降伏。翌天正14年には豊臣秀吉が九州入りし、島津義久を降しましたが、幼少の阿蘇家当主の阿蘇惟光は人質として豊臣政権下の隈本城に入りますが、後に謀反の疑いをかけられて自害させられ、阿蘇大宮司家の正統は滅んでしまいます。一方、響ヶ原後の相良氏はというと、人吉市史によれば、義陽の死は島津義久からも同情され（義久は義陽が命令通り出陣した当初、裏で阿蘇氏と繋がっていて、薩摩軍を引き入れて討つつもりではないかと疑っていた節があるとのこと）、そのことで相良氏の延命に有利に働いたとのこと。相良領八代は島津の領土とされましたが、義陽の子にオリジナルの本拠地•人吉球磨地方の支配は認められます。更に秀吉が九州制覇した際も相良氏は重臣達とともに上手く立ち回り、肥後北部が加藤清正、南部が小西行長領となった後も人吉球磨を治める戦国大名として存続、関ヶ原合戦時も上手く立ち回って江戸時代も人吉藩として存続し、明治の廃藩置県を迎えます。鎌倉時代から人吉を本拠に700年も存続するって凄いですよね✨義陽さんの死も決して無駄ではなかったということですね

さて、今回相良堂を取り上げたのは、史跡に呼ばれた感があったのと、もう一つ理由があります。それは、もうそろそろいい加減、相良氏と阿蘇氏に関する散策記事を書かないと〜💦と思っていて、自分に発破かける意味も込めて、両氏シリーズのプロローグとするためです。相良一族の本拠地•人吉球磨地方は国宝•青井阿蘇神社と日本百名城•人吉城を有し、司馬遼太郎が「日本で最も豊かな隠れ里」と評した美しい観光都市です。昨年9月に散策し、史跡に呼ばれた感のある不思議な旅だったんですが、まだ勉強不足で記事に出来てなくて、そろそろ相良一族の皆様に「菊池氏ばっか書いてんじゃねーよ！」と怒られそうな気がしています😅そして阿蘇氏（阿蘇大宮司）。阿蘇氏は中世から菊池氏と両翼を成す肥後の勇族で、南北朝時代も菊池と同じくらい活躍しました。最近九州南北朝史跡巡りシリーズがなかなか進んでいませんが、それは阿蘇氏の記事を書かなければ肥後の南北朝史は語れないとも思っているからです。つい最近、2016年の熊本地震で倒壊した肥後一宮•阿蘇神社の国指定重要文化財の楼門の修繕がほぼ終わり、覆いが取れたとニュースで言っていたので、阿蘇氏関連の史跡も巡って、早急に記事にしたいですね。（菊池一族関連史跡も間に挟んでいきたいと思っています。）とはいえ、焦って自分にプレッシャーかけてもnoteを続けるのが辛くなるので、ぼちぼち楽しみながら散策＆歴史の勉強＆noteの記事を書いていきたいと思いますので、今後とも宜しくお願いします❣️

八代古麓城周辺を散策していた時に見つけた「相良義陽首塚」の道標。南北朝時代の八代領主「名和顕興館跡」と併記されている。義陽の墓はここから200m先の高台にある

最後までお読み頂き、ありがとうございました😊

【参考文献•ホームページ】
•柳田快明『中世の阿蘇社と阿蘇氏』ー謎多き大宮司一族　戎光祥出版　2019年
•阿蘇品保夫『菊池一族』新人物往来社　1990年
•人吉市史　第1巻　人吉市　1981年
•矢部町史　矢部町史編さん委員会　1983年
・宇城市教育委員会編『宇城市の指定文化財』
・熊本県総合博物館ネットワーク･ポータルサイト
・熊本県公式観光サイト　ふるさと寺子屋
　No.057 「 阿蘇家の功臣　甲斐宗運 」
•八代市ホームページ
•宇城市ホームページ