神秘の火🔥不知火の里　宇城市歴史さんぽ③ 【蒙古襲来絵詞の主人公・竹崎季長関連史跡】 〈後編その3〉

こんにちは。今回は熊本県宇城市小川町にある竹崎季長関連史跡レポートの後編その3です。鎌倉時代の肥後の御家人、竹崎季長（たけざきすえなが）は文永・弘安の役（蒙古襲来/元寇）で活躍した武士で、教科書などで誰もが一度は目にしたことのある「蒙古襲来絵詞」の主人公として知られます。

前回の〈後編その2〉では、蒙古襲来絵詞の鎌倉出訴のくだり前半をご紹介しました。今回の〈後編その3〉では、前回に引き続き、前巻の鎌倉出訴のくだり後半をご紹介します。その後、季長さんの所領だった海東郷にある季長さんの菩提寺・塔福寺散策レポートを掲載したいと思います。今回が竹崎季長シリーズの最終回となります。
〈後編その3→4800字〉
それでは早速、鎌倉時代にターイムスリップ🏃‍♀️

今日の散策地はここ！

蒙古襲来絵詞〈前巻〉　鎌倉出訴の続き

Desert Rose前置き解説：
文永の役（1回目の蒙古襲来）で「先駆けの功」を戦功記録に記された季長さんでしたが、待てど暮らせど鎌倉から恩賞の知らせが来ないことから、翌年、直訴のために鎌倉に赴いた季長さん。しかし鎌倉の奉行達からは総スカンをくらい、相手にされません。そこで鶴岡八幡宮で再祈願をして、あろうことか時の恩賞奉行・安達泰盛に直訴に及ぶ季長さん。安達泰盛との問答で、ああ言えばこう言って食い下がる季長さんでしたが、最後は安達泰盛が呆れながらも根負けして？「先駆けの功」を君の見参に入れてくれると約束し、退席します。果たして季長さんは無事、恩賞をゲットできるのか？？

〈詞八〉
10月4日、季長さんが甘縄の館（安達泰盛邸）を訪問すると、切れ者のため館で召し使われていた肥前の国の御家人・中野藤二郎が季長さんと対面します。

中野藤二郎：
「昨日、御庭中（直訴）されたそうですね！」

季長さん：
「あちこちの御奉行方に訴えましたが取り上げて下さらなかったので、直接泰盛殿に申し上げた次第です。」

中野藤二郎：
「泰盛様が、御内（家臣）のしかるべき方々が大勢いらっしゃる中で、貴殿の庭中の次第を仰せになられましたよ。『先駆けをした事を少弐景資にお尋ねになり、虚偽だったら勲功を捨てられて首を召さるべしと申す奇怪なしたたか者』などと玉村（泰清）殿に申されて、『後日の御大事の時にも忠義を尽くすであろう。』と話されていましたよ。名誉なお話だし、筑紫（九州）の人は懐かしく思って、お会いしたいと思っていました。きっと恩賞はあると思いますよ。」

と藤二郎さんが知らせてくれたので、それ以降、いつも言葉を交わすようになった2人でした。

Desert Roseのつぶやき：
褒められた事を伝聞形式で描くと、自分で言うより説得力あって効果的ですね。季長さんやっぱりあざとい笑　そして直訴の翌日にも泰盛さんの館に押しかけた上、『それ以降いつも言葉を交わす様になった』とあるので、その後も何回も館を訪問したってことですよね。季長さん、部外者なのに甘縄の館顔パス⁉️後にも登場する玉村さんとも親しそうな雰囲気だし、季長さん、どれだけ人の懐に入るのが上手いのでしょうか笑

11月1日、鶴岡八幡宮に詣でて安達泰盛の館を訪れた季長さん。安達泰盛は家人の玉村泰清を以て季長さん一人を館の見参所に通して曰く、

安達泰盛：
「上（将軍）より御合戦の忠賞として、御領拝領の御下し文を渡すようにとの仰せである。これへ」

（いま二間置いてかしこまり、側に控える玉村さんにキッと目をやる季長さん。おもむろに立ち上がり、季長さんの代わりに御下し文を受け取ろうとする玉村さん）

安達泰盛：
「直に渡すようにとの仰せである。これへ」

（と重ねて召されたので、直に参って御下し文を賜って畏まる季長さん。）

安達泰盛：
「すぐに御下りか？」

季長さん心の声：
［ここですぐに下ります！と申し上げたら、恩賞ほしさに先駆けの事は申したのであろう、とお思いになるだろう。］

季長さん：
「申し上げます。先駆けの事が君の見参に入った上での勧賞であれば、夜を以て日に継ぎ急ぎ国に下り、御大事を待つことに致します。もし先駆けの件が君の見参に入っていないようでしたら、景資殿に真偽をお確かめ下さい。」

安達泰盛：
「先駆けの件を君に披露したので、御分（そなた）の御下し文は直に渡すようにとの仰せであった。他の120余人の勧賞は太宰府を通じて下される事となった。」

季長さん：
「先駆けの件が君の見参に入ったのであれば、急ぎ下向し、重ねて忠勤に励みます。」

安達泰盛：
「ところで馬と具足を差し上げたいと思うが、いかがかな？」

面目極まりなく、是非を申すに及ばず、いよいよ畏まっている季長さんのもとに厩の別当・左枝五郎の手によって、小巴の鞍を置いた黒栗毛の馬が引かれてきたのでした。11月1日未の刻（午後2時）頃のことでした。　〜Fin.〜

馬を賜る季長さん（左）と安達泰盛（右端）
画像はwikipediaからですが、馬が切れとるし💦

Desert Roseのつぶやき：
執事の玉村さんとの目配せとか、心の声とかのくだり、ちょっと笑えました😆敢えて書く所が季長さんの茶目っ気があって憎めない所だと感じます。季長さんの様な人って、他人からは面白がられて好かれそうですが、親族からは「大口たたくお調子者」とか言われて煙たがれるタイプかもなと感じました😅安達泰盛さんから賜った名馬に乗って凱旋帰国した季長さんを見て、一族はさぞかし目を丸くして驚いたことでしょうね。季長さんのしてやったり顔が目に見えるようです笑

塔福寺

塔福寺は季長さんが戦功によって得た海東郷に建つ季長さんの菩提寺です。季長さんは海東郷の経営に一生懸命に取り組み、神仏に対する崇敬の念も深く、前回ご紹介した海東阿蘇神社を敬うとともに老境に入ると塔福寺を建立して出家しました。塔福寺には季長さんが定めた古文書2通が残っていて、（「置文」「寄進状」いずれも国指定重要文化財）その中には、「海東の領民には、無事に年が越せるように一人当たり二斗の米を年末に与えること」といったことも記されているそうです。季長さんの良主ぶりが伺えますね。その他にも領地や寺社についての決め事が事細かに書かれていて、『蒙古襲来絵詞』の絵の描写の細やかさと併せて、季長さんの細部にまで気を配る性格が出ているなと感じました。この細かさは絵詞に描かれた自身の大胆不敵、猪突猛進な人物像とは正反対の性質にも思えますが、やっぱり、突飛な行動からの成功の裏には、緻密な計算があったんだろうなと思わずにはいられません笑（そして、絵詞も、季長さん、ユーモアも交えて意図的に盛ってる気がしてきました笑）例によって前置きが長くなりましたが、塔福寺のレポート、行ってみましょう👟（コメントはキャプションに入れます。）

海東のメインロード・県道32号線。長閑な田舎の景色が広がる明るくて綺麗な通りです。駐車場が分からなかったので、近くの無人精米機の駐車場に停めました。因みにこの通り沿いに、前回ご紹介した海東阿蘇神社もあります。

塔福寺入り口の石段。かなり古そうで風格があります。
ドロップみたいな黄色の電灯が可愛い。海東の道沿いの電灯はこれで統一されていました。

美しく手入れされた綺麗なお寺です。中央が本堂。観光地といった雰囲気でもなく、部外者があまりうろつくのも憚られたので、写真はここまで。

まとめとあとがき

これまで竹崎季長のことは『蒙古襲来絵詞』に登場する勇者程度の知識しかなかったのですが、今回季長さんが恩賞として賜った海東の里を散策して、季長さんの領地経営の痕跡が今でもたくさん残っていて驚きました。

蒙古襲来絵詞については、今回はまとまりがなくなるので前巻だけしか内容をご紹介しませんでしたが、後巻には主に弘安の役（2度目の蒙古襲来）での海戦の様子が描かれていて、面白かったです。例えば、季長さん、自分の船が間に合わないので守護の船に嘘をついて乗り込んで引きずり下ろされそうになったり、また、よその武士の船に乗せてもらうため、手を擦り合わせて懇願し、若党を置き去りにして乗ったもんだから若党に「捨てられた」と嘆かれたり、よその若党の妻子を気遣ったり、私的には1番季長さんのユーモアが炸裂している描写のように感じました。同時に、蒙古軍の様子も民族の違いまで分かるほど細やかに描写されていて興味深かったです。（弘安の役での蒙古軍は、元軍と、元が征服した高麗、南宋の軍の連合軍でした。高麗と南宋はイヤイヤながら参戦したものと思われますので気の毒に思いました😢）その他にも、弘安の役で季長さんと関わりのあった鎌倉武士達もたくさん登場しますよ。例えば、菊池武房（前巻に引き続いての登場！）伊予の御家人・河野通有、幕府の奉行・合田遠俊、肥後国守護・安達盛宗（安達泰盛の子。この時は安達氏が肥後守護だったんですね！）他にも、島津氏、秋月氏、草野氏などなど。ご興味の沸いた方は是非読んでみられて下さい。

最後に、蒙古襲来絵詞に込められた季長さんの深い思いに迫ってみたいと思います。蒙古襲来絵詞がいつ作成されたかははっきり分かっていないのですが、季長さんが老境に入った14世紀はじめ頃と考えられています。今まで見てきたように、絵詞には季長さんの恩人・知人がたくさん登場するのですが、絵詞が作成された頃には、これら主要な登場人物の多くがすでにこの世にいませんでした。特に季長さんにとって最大の恩人であった安達泰盛は弘安8年（1285）に起こった霜月騒動（※1）で横死、少弐景資も霜月騒動に連動して同年に起こった岩門合戦（※2）で横死しています。菊池武房も数々の戦功をあげながら、幕府からの恩賞はなく、同じく弘安8年に41歳の若さで亡くなっています。（幕府からの恩賞が無かったのは安達氏と親しかったからで、そのために菊池一族は反幕に傾いていったとも言われています。）その他、絵詞に描かれた多くの恩人・知人・戦友達も大半がすでにこの世にいなかったものと考えられています。そのため、季長さんが絵詞を作成した意図は、蒙古襲来における自己の活躍を描き残すとともに、恩人・知人・戦友達への追慕と報謝の念を表すためだと考えられています。80歳まで長生きした季長さん。私は加えて、老境にさしかかった季長さんは、今でいう「自分史」を書き残したかったんじゃないかなぁと想像しました。

合戦が中心テーマにも関わらず、蒙古襲来絵詞の爽やかな読後感は、ユーモアを交えた嫌味を感じさせない自己アピールと、一貫して流れる登場人物達へのピュアな敬愛・感謝の念から来るものだと感じました✨しかし、さすがに自己アピール強い季長さんでも、まさか絵詞が令和の時代まで残り、今や国宝指定されて宮内庁所蔵になるとは考えも及ばなかったと思いますけど笑

※1）霜月騒動
執権北条時宗歿後の翌年弘安8年、安達泰盛らが北条得宗家の被官、平頼綱の讒言により謀反の疑いをかけられ執権北条貞時により滅ぼされた事件

※2）岩門合戦
同弘安8年、霜月騒動に連動して九州博多郊外の岩門城で起こった戦い。少弐景資は元寇対応で九州に下向していた安達泰盛の次男で肥後守護・安達盛宗に呼応して挙兵し、平頼綱方に付いた兄・少弐経資の軍勢と戦って敗れ、敗死した。（安達盛宗もこの時敗死。）

蒙古襲来絵詞下巻の、季長さんが伊予の御家人・河野通有と対面する場面。中央が通有さん、左が子息ですが、美形の親子ですね〜✨蒙古襲来絵詞の絵は複数の絵師により描かれたと言われていますが、私はこの場面を描いた絵師さんが一番好きです❤️

最後までお読み頂き、ありがとうございました😊

【参考文献】
・大倉隆二『「蒙古襲来絵詞」を読む』海鳥社2007年
・小川町史編纂委員会編纂『小川町史』小川町役場1979
・岩村徹著『私たちの海東』海東あすなろ会2020
・宇城市教育委員会編『宇城市の指定文化財』
・熊本県総合博物館ネットワーク･ポータルサイト
・熊本県公式観光サイト　ふるさと寺子屋
　No.097 「 竹崎季長と海東郷 」