やさしくできる傾聴02

ユーザーインタビュー10の心得:やさしくできる傾聴 と 「聞く」技術 を参考に

UXデザインやサービスデザインなどの取り組みで、ユーザーにインタビューをしたことのある人は多いと思います。でもこれまで学校でインタビューの手法を学んだ人は少ないのではないでしょうか。

かくいう僕もその1人です。実践での経験を重ねて、これまで結構な数のインタビューを実施しましたが、はじめは人の様を見よう見まねでした。でも体系的に理解しておかないと亜流になってしまうので、書籍をベースに自分なりの心得をまとめてみます。

今回は2冊の本を紹介します。

やさしくできる傾聴
中村有(著)
秀和システム 2010.08

インタビューの基本は「傾聴」です。成功と失敗を分ける一番の境目は、相手の発言を引き出せているかどうかです。悪いインタビューは質問する側が多くしゃべって、被験者がほとんど話していなかったり、誘導させられている場合です。

この本は特にカウンセラーとして、様々な深刻な事情を抱えた人に対しての傾聴のコツが書かれていますが、良い聞き方の裏側にある、良くない聞き方の例が多く紹介されていてためになりました。

心理カウンセラーが教える「聞く」技術
根本祐幸(監修)
日本文芸社 2015.12

2つの本はどちらも、会話の方法だけではなく、表情・反応・環境・距離関係・状況に応じた対応など、ノンバーバル(非言語)のコミュニケーションを用いた総合的なテクニックが紹介されています。なので気をつけるべき知識を備える必要もあるけど、多くの実践を重ねないと身につかないものでもあります。

といったことを意識しながら僕自身も毎回、反省を重ねてめげずにやっています。ではここで、現時点で自分が傾聴をベースに心がけていることを10の心得としてまとめてみます。

1.安心感を与える

まず、話してもらうには不安にさせないことです。

「どんな内容を聞くのか」「どのくらい時間を予定しているか」「どういう目的で聞くのか」といったことは開始する前に伝える必要があります。

場の環境にも気をつけます。落ち着ける室内空間か、座る位置関係でリラックスできるようになっているか、威圧的な話し方を感じさせるようにしていないか、不快に感じさせる見た目ではないか、といったことにも配慮する必要があります。

僕もインタビューのとき(だけ)は身だしなみを整えて普通の佇まいを意識します。僕がデザイナーかは相手には関係ないことなので。

2.相手を理解しようとする

ユーザーインタビューはただ回答を得るだけではなく、相手の気持ちを引き出すことが目的です。なので「自分のことをわかってくれる」と思われるように、こちらの気持ちをそれとなく伝える必要があります。

具体的には、相手の名前を言って話しかける、決められた質問攻めではなく相手の会話に合わせて質問を組み立てるなど。あるいは天気の話など、差し障りのない話から尋ねてみることもしてみます。

インタビューというよりは『相談相手』くらいの態度で臨むくらいの方がいい気がします。

3.気持ちゆっくりしゃべる

僕も全然できてないんですが、いつもより0.8倍速くらいで、言い始めや語尾が途切れない発話を意識します。時間が押しているとあせりがちですが、話し方が早くなると急いでいるのが伝わり不安にさせてしまうので、すべて質問できなくても、あせらないことです。

4.答えやすい質問からはじめる

いきなり「理想の状態を教えてください」と言われて、スラスラっと話せる人はいません。ましてインタビューの序盤は「この質問の意図はなんだろう?」とか「どんなトーンで話せばいいんだろう」と思うものです。

なので始めはクローズド・クエスチョン(YES / NOで答えられる質問)から聞いて、まず声を発してもらうことを優先します。例えば「雨でしたけど大丈夫でしたか?」とか。ポイントはYESでもNOでも問題ない質問をすることです。クローズド・クエスチョンは会話の準備運動には有効ですが、メインで聴きたいことをYES/NOで質問してしまうと、話したいことが引き出せません。

2人の間に関係性ができてきてから、少しずつ答えやすいオープン・クエスチョン(例えば主観の少ない仕事内容などの回答)から広げて、だんだんと主観が含められるオープン・クエスチョンにつなげていきます。このステップを踏むことが大事です。

5.沈黙に焦らない

オープン・クエスチョンはすぐに回答しない人もいます。10秒以上考え込む人もいます。例えば60分のインタビューをした場合、1回くらいはこの状況に出会うものです。

このとき、自分から話題を変えたり、具体例をあげたりするのは得策ではありません。なぜなら相手は考えている最中なので、そのときに話しかけてしまうと相手の思考を遮ってしまうから。

具体例が欲しいと思っているときは会話してもいいと思いますが、そうでないときは、落ち着いた態度とにこやかな表情で「大丈夫です、待っていますよ」ということを示します。このテクニックを知っているのと知らないのとでは大きな差がでます。沈黙のあとに出てきた発言に重要なことが隠れている場合が多いので。

6.共感する(オウム返し)

相手の話には気持ち大きめに反応しましょう。相手の顔(鼻のあたり)を見ながら聞く、相槌をうつ、ひとこと感想を述べるなど。

中でも簡単でかつ効果が強いとのが、相手の発言を繰り返す、いわゆる『オウム返し』です。

オウム返しの達人は ”明石家さんま” です。有名な話ですが、踊るさんま御殿の中でさんまは、ほとんど『オウム返し』しかしていません。なのにあんなに盛り上がるのは「あなたの話を聞いてるよ」「それで、それで?」というメッセージを送っているからです。めちゃめちゃ勉強になります。

ただ、1対1のインタビューで何度も『オウム返し』するのは、個人的はちょっとぎこちない感じもします。なので、その場合は言い換えや要約で返事をします。これもオウム返しの延長上のテクニックです。(ただし、拡大解釈をしないように気をつけること)

7.会話の波にのせていく

会話はライブパフォーマンスなので、キャッチボールの中で生まれます。

なのであらかじめ質問リストは用意しておいても、実際のインタビューでは状況に応じて柔軟に組み替えます。質問の順番を変えたり、あえて聞かなかったりします。想定とは違ったところに、新しい気づきがあることが多いからです。逆に想定通りだと面白くない。

臨機応変に行うためには、聞きたいことを頭の中にしっかり入れておくことと、聞き出すより会話を楽しむという姿勢を持っておくことです。

8.でも感情移入しすぎない

とはいえ、インタビュアーは中立的な立場でないといけません。過度に共感しすぎると、相手が話したいことだけに偏るし、こちらの感情を乗せることで意識を誘導してしまうことになりかねないから。

自分を客観的に見るための目安として、もし、インタビュアーの自分が前のめりの姿勢になっていたら要注意です。そんなときは一度落ち着いて、少し背を引いた姿勢になりましょう。次の話題に移るときは「わかりました。」「ありがとうございます。では次に」といった話し方をします。

9.最後の方で本音を引き出す

始めて話す相手に対していきなり本音を言う人はまずいないけど、インタビューの後半で、相手の気持ちを引き出せるかどうかが勝負どころです。ユーザーインタビューで大事にしたいことは、理にかなった思考よりも感情に基づく意見です。

もちろん人によって差はあるけど、本音を引き出すためには、これまであげた項目を丁寧に実践していけば、きっと「語ってくれている」と思う場面に出会えるはずです。

個人的には、本音を話してくれた時、内心では「このインタビューはうまくいった!」と思っています。

10. 心から感謝して終える

最後にしっかりとお礼を述べましょう。自分の考えを初対面の人に話すのは結構身構えるものです。そんな人に対して時間をつくってくれたことに対して、感謝の気持ちで終えましょう。加えて、いま話を聞いた相手は将来の有望なユーザーになる可能性が高いわけなので。

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まとめ

以上、ユーザーインタビューの心得でした。デザインのプロセスは割とビジュアルで残るので他の人の取組みを目にすることはできるけど、他の人がやっているインタビューはなかなか見る機会がありません。

なので自分のやり方で変えた方がいい点はいろいろあるかもですが、参考になれることがあればと思いまとめてみました。実践している人いましたら、ご連絡ください。お互い研鑽しあいましょう。

デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。