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キリのいい数字効果(ざっくり分類思考)行動経済学とデザイン21

数字は人が見ると平等にはならない、というお話です。

行動経済学者にとってスポーツは、うってつけの研究対象です。感情が多く入り混じるけど数値としてのデータが多く記録されているからです。そんなことに注目した著者が、スポーツにおける不合理を見つけた本がこちら。(原題は SCORECASTING )

スポーツの裏側を読み解く

オタクの行動経済学者、スポーツの裏側を読み解く
トビアス・J・モスコウィッツ + L・ジョン・ワーサイム(著)
望月衛(訳)
ダイヤモンド社 2012.06

同じ1でも価値が変わる?

この本の中に『抜け目のないGMは2割9分9厘のバッターを選ぶ』という章があります。打率が2.99と3.00の打者の差というのは、シーズンを通して1000本中1本だけヒットが多い、という違いです。

にも関わらずみんな3割台か2割台で判断してしまいます。現に3.00と2.99の選手の年俸差はなんと13万ドルも(1500万円くらい)変わるというデータがあります。なのでGMからすると、

3.00よりも2.99の打者をチームに引き入れる方が賢い

という考えになります。

同様に、例えば陸上でも100mを10秒切れるかと、9.9秒台から9.8秒台への注目度は違います。体温も37.0度とか37.5度とかキリのいい数字で体調を判断しがちですよね。

ビジネスで見られるキリのいい数字

こういった数字を扱った例はビジネスの場面でもたくさんあります。

商品販売では、980円とか999円とかキリのいい数字よりちょっとだけ下げて安く感じさせる方法。逆にSDメモリカードは16GBとかわかりやすい数字だけど実際の容量はそれより少し小さかったりします。

受発注で見積りを出す時、出精値引きといって端数を切って調整する場合がありますが、だいたいその値引きに根拠はありません。開く受ける側も予算枠が100万円とかキリのいい数字だから端数を切りたいだけだったり。

テスト結果でも、78点だと渋い顔だけど、80点だったら問題なしと判断される場合など。2点の有意差はあまり重要ではなく。

というように、キリのいい数字とその手前には不公平の壁があります。

キリのいい数字効果01

キリのいい数字は有利な状況にもなれば、価値が十分に伝わらないといった両側面の効果が起こり得ます。

・・・・・

では、ここからはキリのいい数字を効果的に使う方法を考えてみます。

応用1. 打率よりも安打数

打率は割合なので、数値が下がることもあります。前に書いたプロスペクト理論によると、人は損失を回避しようとする傾向があり、下がるリスクがあると「3割を切りたくない」といった保守的な思考が働きます。

対してイチローは『安打数』という累積の数値を指標にしていました。なぜなら安打数は下がらないから。増えるだけなら「200安打まであと少し」といったように数字がやる気の後押しになります。

キリのいい数字効果02

なので、例えばアイデアをたくさん出すぞ!というときは、頑張れば到達できそうなキリのいい数字を設定すると、達成したくなるはずです。

イチローの本はこちら(このことは別の本で知りましたが、この本はこれから読む予定)

応用2. 法則にあてはめる

「14.8%のユーザーはXXX です」という説明をしても、受け手はあまりピンとこないでしょう。

代わりに「アーリーアダプターに相当する16%と同等の割合のユーザーが」というと、数字への意味性が格段と高まります。証明されている理論や法則の活用が特に効果的かと思いますが、代表的なのは例えばこんなもの。

・パレートの法則:80対20
・ハインリッヒの法則:1←29←300
・イノベーター理論:2.5%→13.5%→34.0%→34.0%→16.0%

数字そのものに魅力が伝わらないように感じるならば、何かのわかりやすい数字に当てはめられるか考えてみましょう。

応用3. おおざっぱにして隠す

割合で87.5%が好意的だった、という数字の見せ方は効果的でありません。なぜなら8人中7人、とN数の少なさが一瞬で見破られるからです。

その場合は、数字が下がっても「8割を超える」といった方が効果的だと思われます。

応用4. 印象に残るのはキリの悪い数字

マラソンの距離は42.195km、みんな知ってますよね。

サイクロン掃除機の開発で、ジェームズ・ダイソンは試作を5127台つくったそうです。そう、5127台です。

つくった試作機が5000台、だとなんだか嘘っぽく聞こえます。でも5127台だと、1つ1つ試行錯誤を積み重ねた結果の数ということが伝わります。(ちなみにこの話はIDEOのトム・ケリーの講演で聞きましたが、その時の彼の第一声は「なんで数えてたんだよ?」でした)

キリのいい数字効果03

この場合は応用1と違って、キリのいい数字を目標にするのは本末転倒なので、5000の数字にこだわらず(4900あたりで意識したかもですが)、実体験に伴う具体的な数字を使うことが効果的です。

おまけ

これはまったく個人的なクセ(であり先生から教わったこと)ですが、僕はデザインでレイアウトをするとき3の数字の倍数を意識します。例えばアートボードを1200x1800にしたり、棚のサイズを300mmx900mmにしたり。

なんでかというと理由は2つあって

・割り切りやすいから(100だと3等分で割り切れない)
・真ん中に線を引ける(15pxの真ん中に1pxの線を描くと2分割できる)

A4用紙は210x297mm、木材のコンパネのサイズも900x1800x12mm、時計も24時間で60分、フォントサイズも12,18,24px、と3の倍数が多く使われています。

デジタルの世界では8の倍数が基本のようですが、デジタルに限らずで考えると、3は扱いやすい数ではないかなと思います。

まとめ

冒頭の打率の話に戻すと、シーズン終盤で3割を少しだけ超えた打者はフォアボールを選ぼうとし、3割弱の打者は果敢にヒットを狙うそうです。

しかも本人だけでなく、周りからも「なんとか3割を超えてもらいたい」と協力や応援をしてくれるそうです。なので周囲の力を必要とするときは、あえてキリのいい数字よりもちょっとだけ低い数字に設定しておけると、いいのかもと思います。

スポーツ好きな人は興味深く読めます。(主にアメリカのスポーツの分析)


デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。