サンクコスト(もったいないの罠):行動経済学とデザイン20
サンクコスト。この言葉、聞いたことはある人も多いと思いますが、生活の中で「これはサンクコストだ」と自覚するのはなかなか難しいので、ここで整理してみたいと思います。
まずはわかりやすく、マンガから入りましょう。
インベスターZ 2巻
三田 紀房
コルク 2013.12
サンクコスト(埋没費用)
主人公は先輩たちに、一人で映画を観に行くようにいわれます。ところがその映画はつまらない内容でした。どうしようか考えた結果「時間のムダだから出てしまおう」と判断して映画館を出ると先輩たちが待っていました。実は先輩たちは何分で出てくるかを計って、株の世界でいうところの損切りができるかどうかを試していました。
このシーンはサンクコストの考え、そのものです。
映画を観る前に払ってしまったお金(中学生だから1000円)は取り戻せません。映画は2時間かかりますが、映画が面白くてもつまらなくても1000円は返ってきません。ならば、つまらない場合はすぐに観るのをやめた方が、自分にとって損失が少ないと考えられます。
サンクコストとはSunk(Sink=沈むの過去分詞)+Cost(お金)のことで、沈んで戻ってこないお金のことを意味します。「せっかく払ってしまったのだからもったいない」と思ってしまうと損失はどんどんふくらみます。なかなか事業撤退できなかった飛行機のコンコルドが、その代表例としてあげられます。(コンコルド効果ともいうらしい)
サンクコストはお金の話だけでなく、投資した時間全般にいえることです。元ハードル選手の為末大さんも、スポーツ選手のキャリアは、サンクコストを意識して気持ちを切り替えることが大切だと述べています。
と、ここまでが教科書的な説明です。でもですね...
無駄だから人生楽しい
冒頭のマンガを読んで、僕が最初に思ったことは、
「友達だったら、ちょっと嫌だな」
でした。理屈ではわかりますが、最初だけを見て判断するのは、自分の知らない可能性に出会う機会も見逃してしまう、ということでもあるから。
同じ映画を見ても「変なシーンや矛盾を見つけて、友達との話のネタにして1000円の元を取るぞ」という人もいるはずです。
例えば、みうらじゅんはサンクコストに陥りまくりの人です。
自分でも何がいいのかわからないグッズをひたすら集めたり、聴いていて苦痛だったボブディランを「これは修行だ」と自分をだまして聴き続けていたり。映画でいうとシベ超(観たことのない人は是非チャレンジを)です。インベスターZの主人公だったら絶対にシベ超は途中で出る。
ほぼ日の対談でこのようなことを言っています。
どんな映画でも、観終わったあと、すぐに
エレベーターのあたりで
「つまんなかったね」
と、ひとことで片づける人がいるでしょう。
それは才能と経験がない人なんだと思います。
映画は、おもしろいところを
自分で見つけるものなんですよ。
・・・・・
なので僕は「サンクコストの考えは大事だけど、時にはサンクコストを気にせず没頭することが必要な場合もある」と思っています。特にデザインに携わる人は何かしらこだわりを持つことは大事なので。
では、そんな中から実務につながる応用を考えてみます。
応用1. 一度自分をつきはなす
デザインは使った人が満足してくれるかで評価される世界なので、費やした時間と労力に対して必ずしも成果が比例するわけではありません。
そんなときは一度、自分から離れて、一人のユーザーとしてどう思うか?という視点を持つことで、サンクコストの罠に陥らず方針転換ができます。家族に聞くのも、ユーザーテストをすることも同じ意味合いです。
ジャパネットたかた元社長の高田明さんは、能の世界で言われている『離見の見』という考え方を参考にしています。能というと難しく感じるかもですが、そこはさすが高田社長、わかりやすく本で紹介しています。
こだわりは持った方がいいと思います。でも、全てが一人称ではなく、別の人に成りきって損切りの判断をすることができるか?が、デザイナーには欠かせないスキルの1つだと考えます。(優れたデザイナーほど、相手の意見を素直に聞く人が多いと思います)
応用2. おバカのふりしてユーザー視点
関わっているプロジェクトの企画がどうも筋が悪い…、よくあることかと思います。予算も人数も潤沢なのに、そもそも力の入れどころが間違っているというか。
そんな状況でのデザイナーの責務は、ユーザーの立場で発言することです。「別にいらないよね」とか、「うざいだけだよね」とか、「それ自分、本当に買いますか?」とか。開発側にどっぷり潜っていると、こういった視点が抜け落ちがちです。
デザイナーは良くも悪くも開発予算や工程に深く関わらなくてもよしとされやすい立場なので、かかったお金をもったいないと思わずに、モノやサービスの質だけにこだわり、損切りの判断をうながしましょう。
応用3. でも心情を大事に
ただし、関係者の心情を逆なでするのはよくありません。
任天堂の元社長・岩田さんの有名なエピソードがあります。ゲームソフトMOTHER2の開発が難航していたとき、岩田さんが助っ人としてやってきて、糸井重里さんにこういいました。
「いまあるものを活かしながら手直ししていく方法だと2年かかります。
イチからつくり直していいのであれば、半年でやります。」
後日、その意図についてこう語っています。
だって、いままでつくってきた人たちがそこにいるわけですからね。いきなり現れた人間が「いちからつくり直します!」って宣言しても、納得がいかない人が出てきます。現場の雰囲気が壊れてしまったら、うまくいくものもダメになってしまう。ですから、可能性のある選択肢を提示して、選んでもらうほうがただしいとわたしは思ったんです。
損切りの判断は合理性の視点だけでなく、気持ちが迷いなく切り替えられているか?が重要なことがわかります。株とは違って開発はみんなの協力で成り立っていることは忘れないように気をつけるべきです。
岩田さんの数々のエピソードはこの本から知ることができます。
応用4. とりあえず30日続けてみる
この動画は僕の人生観を大きく変えました。ぜひ観てください。
まず続けてみましょう。続けてみて「違うな」と思ったら別のことに切り替えていいし、「これだ」と思ったら習慣化してしまえばいい。期限を設定することで没頭できるし損切りの判断もできる、というすばらしいメソッドだと思います。
本当にこの動画に出会えてよかったと思います。
まとめ. 内発と外発を分けて考えよう
以上、サンクコストについての考察でした。
損切りは、他の人だったらどう思うだろうとか、蓄積したものを一度外して冷静になってみたら、という外発的な視点です。対して没頭は、やり通してみたら何か見つかるかもしれない、という内発的な視点です。
どっちかに偏ってるなと思う人は、損切りと没頭の両方を行き来できるように意識してみてください。
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みうらじゅんに無理やりつなげた「バンドワゴン効果はこちら」
デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。