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傍観者効果(みんないると見て見ぬ振り):行動経済学とデザイン34

今回は、関係ないと思っているユーザーにどうやって自分ごとになってもらうか?を考えてみます。こちらの本の第3章を参考にしています。

超ヤバい経済学

超ヤバイ経済学
スティーヴン・D・レヴィット、スティーヴン・J・ダブナー (著)
望月衛(訳)
東洋経済新報社 2010.10

1964年ニューヨーク市で起きた事件で、嫌な記事が出ました。

38人の目撃者は、殺人者が3度にわたって凶行を繰り返すのを、誰一人として警察に通報しなかった。

社会心理学によると「悲惨な事件の目撃者が複数いる場合、目撃者たちはその悲劇にかかわろうとしなくなる傾向がある」ということです。

日本でも新幹線の中で起きた痛ましい事件など、周囲に人がいたのに誰も介入しなかった例はいろいろあります。これを、集団による無責任さとか都会の冷たさなどで批判する論調がありますが、この現象を理解するためには次の考察を知る必要があります。

独裁者ゲーム(思いやりを調べる)

以前に紹介したゲーム理論の応用で「独裁者ゲーム」という実験があります。このゲームは相手への思いやりを測ることができます。ルールはこのような単純なものです。

1. Aは20ドルを渡される
2. AはB(知らない人)にお金を分けあっていいと言われる
3. AはBにいくら渡すかを観察する

実験の結果、人は平均で4ドル(20%)ほど相手に渡す傾向が見られ、民族や地域性に依存せず同じような行動をとることがわかりました。「人はエゴな合理的判断ではなく思いやりを持っている」ということです。

でも本当にそうなんだろうか?

ジョン・リストという経済学者は、実験室の中ではない場で、条件を少し変えて検証をしてみました。

1. Aはいくらかお金を渡される
2. AはBにお金を分け与えてもいいし1ドル巻き上げてもいい

すると、35%はお金を渡し、45%はお金を渡さず、20%はお金を巻き上げる(!)という結果になりました。さらに条件を変えて

1. Aはお金を渡されるがBも同額を受け取ってると聞かされる
2. AはBにお金をあげてもいいし奪い取ってもいいといわれる

こうすると、10%はお金を渡し、60%はお金を巻き上げ、その中の40%は全額を奪い取る(!!)結果になりました。

ここからわかることは、人は思いやりをもっているかエゴの塊か、ではなく人は他人の目や条件に影響を受けて行動する、ということです。この点についてもう少し掘り下げてみます。

傍観者効果01

人の目が気になる

本書では「案山子は鳥だけじゃなくて人間にだって効く」と書かれていますが、前に紹介したシミュラクラ現象(顔の力)がはたらくと、人は社会的な行動をふるまうようになります。(周囲の目という点では、パトカーや監視カメラでも効果はある)行動経済学者のダン・アリエリーも「顔のある犠牲者効果」という実験で1人の顔が見えているかどうかで寄付の金額が変わることを述べています。

シュミラクラ現象02

これを傍観者効果と合わせて考えると、周囲の目があると自分だけ違った行動をとりにくい、ということがいえます。

相手との距離で変わる

これも本書の例ですが、物乞いが目の前にいて目を合わせていたら、お金を渡す人は多いと思います。でも、ちょっと離れていたら目を合わせようとはしないで、なるべく道を避けるようします。だいぶ離れて他にも多くの人が歩いていたら自分とは関係のない存在として認識するようになります。

あるいは相手が知り合いであれば何かするだろうけど、まったく知らない人や、自分と生活文化圏がまったく違う人だと反応は弱くなります。

このように社会的距離によっても、行動は変わります。自分と近いかどうかの観点ではアフォーダンスの考え方とも関係性があると思います。

アフォーダンスの応用02

人が増えると責任が分散される

twitterでバズった「トリプルチェックの弊害」は、複数人が関わることの責任回避をよく表していると思います。

1対1の関係に対して、N対1の関係になると、本人の関与度合いは下がります。心理学では単独よりも集団の方が効率が下がることを「リンゲルマン効果」というそうです。

・・・・・

説明が長くなりましたが、傍観者視点を「関係ないと思っているユーザー」に見立てて、当事者意識を働きかけ関与させるにはどうしたらいいか?を考えてみようと思います。

応用1. バイネームで語りかける

by name = 名指しによって相手との距離感を縮める効果があります。テレビでベテラン店頭販売員のテクニックを観てると、「そこの帽子をかぶったお客様」など特定できるように語りかけていました。

ホテルやウェブサイトなどでも「○○さん、こんにちは。」という語りかけがあります。特にデジタルを活用できるとマスではなく一人に向けた施策ができるようになります。

デザインの取り組みでは例えばジャーニーマップなどで、ユーザーが興味を持ってくれるタイミングがどこかを整理して、One of themからOne to Oneに切り替えるかを検討するといったことが考えられます。

応用2. 周囲の目を使う

人は周囲の目があれば社会的にふるまい、奇異な行動はしなくなります。対して周囲の目がなければ自分に正直に、のびのびした行動をします。

これをうまく使い分けると、適切な関与度合いを調節することができます。

例えば多くの人が見るSNSや公共空間では、他人が見ていることが感じられるデザイン要素を入れる、個人間のやりとりの場面では自分の部屋にいるような場の演出をする、といったことが考えられます。

傍観者効果02

まとめ

以上、関係ないと思っている人に意識を働きかけて行動してもらうための方法について整理してみました。要点をおさらいすると

・相手との距離を近づける
・N対1の関係から1対1に変える
・人の目を入れたり外したりする

です。コロナによってSocial Distanceという言葉が定着しましたが、人と商品やサービスの関係性においても、適切なSocial Distanceをデザインできるかは大事なことだと考えます。

デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。