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社会的証明(周りが気になる):行動経済学とデザイン13

影響力の武器から3つめは『社会的証明』です。

自分に絶対の自信がないときは、何かに頼りたい気持ちがうまれます。社会的証明とはそんな気持ちを後押しするものです。

影響力の武器

影響力の武器
ロバート・B・チャルディーニ (著)、社会行動研究会(訳)
1991.09(第一版) 誠信書房

不確実性と類似性

何かに頼りたくなる要因は2つあります。

不確実性:これまでの経験が通じない状況では、まわりの行動に影響されてしまうこと。例えば、いまの外出自粛がいつ収束するかがわからない状況だと「あの会社が出社禁止をしてるから我が社もしよう」とか、「誰も動いてないから静観しておこう」と考えてしまいます。

類似性:誰かがやったことに影響をうけて追従してしまうこと。例えば、流行のファッションを真似たり、周りが笑ってると自分も楽しい気持ちになったり、こわいことに自殺も後追いをする人が増えてしまう現象もそうです。

社会的証明02

この2つをざっくり要約すると、自分よりも他者(周囲)に判断をゆだねようとする心理だといえます。

イノベーションと社会的証明

よく最近は「不確実性の高い時代」だと言われます。そして「従来の枠組みにとらわれないイノベーション」が必要とも言われます。

でも現実には、不確実性が高いときほど社会的証明の心理がはたらき、周りの状況を気にして行動したり、コミュニティなどの集団に帰属してしまいます。これはイノベーションとは相反した行動です。

保守的になってしまうと、新しいものに手を出さない後追いの経済活動になりますが、これは企業側にも消費者にもいえることです。最近の日本が海外に苦戦しているのは、イノベーションを受け入れないことに課題があり、社会的証明にとらわれず、自分の意思をもっと大切にすべきだと考えます。

社会的証明03

デザイナーはイノベーションの活動を期待されることが多いと思います。でも社会的証明を個人のがんばりで打破することは難しいでしょう。なので、仕組みによってこの相反した状況を変えることが必要だと考えます

クリエイティブとの親和性がある事例を3つ取り上げてみます。

クリエイティブ・リーダーシップ

変革を起こしてきたのはいつでも、周囲に反対されながらも意志を持ってやり通した人たちです。これを最も象徴しているのがappleの有名な、"Think Different"のキャンペーンです。

スティーブ・ジョブズの説明付き映像が残っています。

社会的証明は指数関数的に1人から影響がどんどん広がっていくので、リーダーシップを取る人が、周囲の状況やデータに踊らされることなく、勇気を持って無難な判断をしないことからイノベーションはうまれます。

たとえ自分がいち担当者だったとしても、意思決定者にこのようなはたらきかけをすることが突破口の糸口になると思います。

少数意見の受け入れ

テプラやポメラなどのヒット商品で知られる事務用品・文房具メーカーの KING JIM は、ユニークな仕組みを社内に取り入れてます。

それは、開発会議で役員のほとんどが反対しても1人が「良い」といえば、商品企画を進めていいルールがあること。多数決や話し合いで無難な結論にしないで、少数意見(Think Different)を取り入れています。ポメラは実際にそういった状況のなかでうまれた商品だということです。

イノベーションは1人よりも組織だからこそできる、という考え方が浸透していますが、それは組織には多様性があるからです。でも多様性を阻む障壁が組織にたくさんあるのも事実です。

だからこそ少数意見を尊重する文化を組織に根付かせることは重要です。

心を打つストーリー

本人はこれがいいと思ってデザインを提案しても、相手が無難な案を選ぶ状況はよくあります。これも社会的証明の『不確実性』や『類似性』によるもので、そんな人たちの気持ちを変えることは簡単ではありません。

これを突破する方法は『ストーリーテリング』だと考えます。

ただ、そのストーリーも、社会的証明に依存しないクリエイティブなものであるべきです。ありきたりなペルソナになっていないか(人としての魅力を感じない)とか、平均的な1日の過ごし方の体験を描いていない、とか。

僕はこれまでストーリーづくりを専門に学んだ経験はありません。たぶんデザイナーでも多くの人は同じかと思いますが、僕の場合は小説(あるいはマンガ)を読んだり映画を観たりして、どうすれば社会的証明の思考から離れてストーリーが考えられるかを参考にしています。

宮崎駿の企画書はすごいです。この記事に一例が書かれていますが、気になる人は本を読んでみた方がいいです。

まとめと心構え

社会的証明の壁を超えてイノベーションの流れをつくるには、自分の信念や意思、あるいは創造性を起点として、それを仕組みとして取り入れて周囲や組織に浸透させていくことが大事だと考えます。

社会的証明01

エッジの立ったデザイン案を通そうとするときに、やってはいけないのは数値的根拠の提示。マーケティングデータの裏付けやアンケート結果などで「大丈夫です」というのは、社会的証明を助長するだけです。

僕が学生時代にアルバイトでお世話になった建築事務所の所長と、社会人になってから仕事の話をしていたとき、「データを集めるのは自信がないからだよ」とハッキリ言っていたことが今でも印象に強く残っています。クリエイティブ職に携わる人としての大事な心構えです。

というわけで、社会的証明に自分自身がとらわれないよう、周囲の目はそこそこにして、内から湧いてくる気持ちを大切にしましょう。

最後に参考の本を紹介します

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スティーブ・ジョブズ2(ウォルター・アイザックソン)

KING JIM ヒット文具を生み続ける独創のセオリー(宮本彰)

出発点(宮崎駿)


デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。