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社会的選好(相手への気づかい):行動経済学とデザイン37

空気を読む日本人は特にそうだと思いますが、人って結構相手のことを気づかって行動や決定してるよね、というのを「社会的選好」といいます。

今回は人がどう周囲に影響を受けるかについて調べてみました。

行動経済学の使い方

行動経済学の使い方
大竹文雄
岩波新書 2019.09

社会的選好とは

まず、この本に書かれている社会的選好の解説を紹介します。

伝統的な経済学では、自分自身の物的・金銭的利得だけを選好する利己的な個人が想定されることが多かった。これに対し、行動経済学では、他者の物的・金銭的利得への関心を示す選好を人々がもつと想定されている。

社会的選好の代表例は「独裁者ゲーム」です。自分と相手との受け取り額の配分を決める実験をしたところ、利己的な人なら相手に1円も渡さないのに、実際には相手にいくらかを渡します。(まあ、そうですよね。)

例えば10000円を分配すると、自分に7000円で相手に3000円くらいになるそうで、面白いのは、自分が7割よりも多いと居心地の悪さを感じる人がいて、相手が3割より低いと「だったらいらない(0円でいい)」と言う人が増えるそうです。

独裁者ゲームの説明はこちらにも書きましたので興味ある人は。

次に気づかいにも色んなタイプがあるということについて。

9タイプの社会的選好

意思決定の科学

「意思決定」の科学 〜 なぜ、それを選ぶのか
川越敏司
講談社 2020.09

選好には大きく3分類あります。

a. 個人主義的:自分の利益を一番にしたい人(相手は関係なく)
b. 競争的:利益の差が最大にしたい人(相対値で優位に立ちたい)
c. 向社会的:相手を含めた利益が最大にしたい人

さらに、相手と自分の分け前に差があったときは人によってそれぞれ異なるパターンがあり、次の9つのタイプに分類できるということです。

1.競争的:自分の利益が相手より多くないと気が済まない
2.羨望的:自分の利益が相手より少ないとうらやましがる
3.不平等回避的:相手の利益が多いと妬み、自分の利益が多いと悔やむ
4.弱い者いじめ的:相手の利益が少ないとさらに奪おうとする
5.利己的:自分の利益を最優先、相手には関心がない
6.マキシミン的:少ない方の利益の中で配分がいい方法を選ぶ
7.平等回避的:同じよりはどちらかの利益が多い方がいい
8.こびへつらい的:相手の利益がいいと自分の利益を差し出す
9.利他的:自分より相手がよくないと落ち着かない

というように、人は相手に対して何かしら気にはするけど、奪いたい人もいれば分け与えたい人もいて、前提の条件によっても変わるのだから、みんなが無条件にいい反応をするわけではないようです。

scratchで作られたクイズで自分の選好タイプを試すことができます。

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なるべくなら、相手を気づかう選択を促すことでよりよい社会にしたいものです。例えば倫理的な判断や環境問題といった分野に、この社会的選好を良い使い方で適用できればと思います。

社会的選好01

では応用例について書いてみます。

応用1. みんなのテーマにする

例えば「資源の使用を控えましょう」といった環境問題に、「わたしたちの社会のために」とか「未来の子どもたちのために」といった言葉が加えると、自分だけではなく、他者のために行動と決断するように意識が高まってくるはずです。

このようなテーマは、主語をWeにして語りかけることがポイントです。

応用2. 先にインプットする

多数派の意見が先行してインプットされると、人は影響を受けて自分の考えを出しにくくなります。

大学の実験でA,B,Cの3つの選択肢のうち、答えは明らかにAなのに、みんながBと答えていると、つられて「Bかな...」と答えてしまうそうです。(自己主張の強いアメリカで行われた実験です。)

なので調和を保ちたいときは先に情報をインプットして、逆に自分の考えを素直にいってほしいときはインプットは無しにするのが望ましいです。

応用3. 相手の顔を見せる

人は相手の顔が見えていると、その人を気づかって何か配慮した行動に出るはずです。例えば困った顔をしてたら助けたくなるし、喜んでいたら悲しませて台無しにしたくないなと思ってしまうし。

応用1で本人に対してはWeと書きましたが、相手を意識させるうえでは具体的な人のHe/Sheがよいかと思います。顔の力と募金ポスターの例など、こちらにまとめています。

応用4. お土産の仕掛け

旅行先でお土産を買って家族や友人や同僚にあげるのって、気持ちを少しおすそ分けしようという社会的選好そのものだと思います。

旅行でなくても体験としてサービスの一部をおすそ分けできると、ユーザーはお土産的に知人に分けたくなるだろうし、それによって興味を持つ人を増やすことができます。

応用5. 話し合いを入れる

一度話し合うと相手の気持ちがわかり判断が変わることがあります。

きめ方の論理

意思決定の難しさをいろんな角度から考察しています。多数決が本当に多数の選択になってない現象(選挙の結果など)や、投票は個人の集積なのに社会を一人の人格と捉えて一貫性をもとめる現象、など、数が必ずしも納得のいく結果にならないことは多々あります。

なので、多くの決め事には票の数だけでなく「話し合い」の場が存在します。話すことで相手の立場を分かち合う「おたがい性」に目覚め、社会の目を持ち、よりよい選択ができる、という考えです。

社会的選好を重視したいときは話し合いの場を持たせましょう。(ただし相手を叩きのめすための討論合戦は逆効果の場合も)

まとめ

心理学で有名なマズローの5段階欲求がありますが、実は5段階目の自己実現の先に6段階目に他者や社会のためを意識する「自己超越」という概念があります。(晩年になって概念を更新したそうです)

社会的選好は「他者のために」という考えなので、マズローの6段階目と共通点があります。そう考えると、社会的選好をうながすためには、まずその下にある生理欲求・安全欲求などを当然満たし心に余裕を持たせる必要があります。

環境問題がさんざん贅沢した先進国が先導しようとしても世界全体の歩調が合わないのはこういった理由があると思います。

デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。