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粘りと染み込みが大事な、暗黙知と形式知(実践と理論の融合)

大学院で学ぶ「学習のデザイン」。やっとM2の授業がはじまりました。今年は論文に集中したいところですが、前期はもう少し履修します。

そのうちの1つが「実践と理論の融合」という科目です。M1で「知の理論」「教育学」「認知学習論」などの理論を多く学びましたが、実践で活用できないと宝の持ちぐされなので、めちゃ大事です。


では、はじめに暗黙知と形式知という異なる2タイプの知識から、理論と実践の関係を探ってみます。

暗黙知と形式知

暗黙知とは個人のなかに蓄積されている知識として、マイケル・ポランニーによって定義されました。例えば、100人の顔を見分けること。100人が違うことは知っているけど、どうやって見分けているかは実のところよくわかりません。

この知識は言い換えると「わざ」であり、身体に蓄積されているものです。暗黙知は個人から引き剥がせない粘度があります。

対して形式知は、個人に依存しません。客観的・論理的・形式的であり、言語で表されるものです。形式知の代表例がマニュアルです。学校の教科書も形式知の集合だといえます。

形式知のおもしろいところは、時空を超えるという点です。当事者がいなくてもその知識は他の国にも100年後にも伝わることができます。

暗黙知を他者に伝える方法

ここまでを端的にまとめると、暗黙知は(今のところ)言葉で説明できない知識、形式知は言葉で説明できる知識です。こう書くと、誰にも伝えられない暗黙知って知識といえるのか?という疑問がでてきます。

暗黙知が知識として認知されるためには、前に紹介した徒弟制の学習モデルがヒントになります。

徒弟制とは、親方と同じ環境にいて経験する質を同じにすることで、経験と知識を転移する方法です。言葉にならないわざを含めて体得することで、暗黙知を継承することができます。ただし完全ではないし、時間はかかるし、量産はできないので非効率です。

今でも徒弟制(認知的徒弟制も含む)による知識の継承は多くあります。職人の世界はもちろん、音楽の世界も師匠と弟子の関係で成り立っているし、自分の専門であるデザインの学習方法も基本は徒弟制スタイルです。

伊勢神宮が20年ごとに行う建て替えでは、建築物の図面(形式知)はなく、先代が立てた建築(暗黙知)から学びつくる徒弟制によって継承されているという話をどこかで聞いた記憶があります。

時代が変われば工法や素材も変わったり、継続によって新しい発見をすることで、師匠を超える知識にアップデートできるのは徒弟制の優れた点です。マニュアルではこういった発展にはつながりません。

暗黙知を形式知にする方法(SECIモデル)

知識創造のためには暗黙知と形式知の循環こそが大切であり、これを企業経営理論に活かしたのがSECIモデルです。日本を代表する経営学者、野中郁次郎さんによる理論です。

SECIモデルは広く知られているので詳細説明は割愛しますが、4つの流れで知識の転移を繰り返していく考え方です。

  1. 共同化(暗黙知→暗黙知)徒弟制やOJTで模倣する

  2. 表出化(暗黙知→形式知)アナロジーやメタファーで共有する

  3. 結合化(形式知→形式知)組み合わせて新しい知識をつくる

  4. 内面化(形式知→暗黙知)知識を身体に染み込ませる

興味深いのが4です。「身体に染み込ませる」という粘度をともなった知識にしないといけない、という点は意外と見落としがちだと思います。代表例はマニュアルやガイドラインをつくっておわり、という取り組みです。

これで思い出したのが無印良品のMUJI グラムです。

当時社長だった松井忠三さんの本に詳しく書かれていますが、MUJIグラムは常に更新しつづけるマニュアルだということです。マニュアルを店舗で実践して、改善すべきことがあれば反映する。だからマニュアルは取り外しができるバインダー形式になってます。

形式知を身体化させることまで深めないと理論と実践がつながらない、ということを体現している好例だと思います。

学んだこと

知識には「粘度をともなう」「時空を超える」「身体に染み込ませる必要がある」といった、生っぽい言葉の意味を知れたのは大きな発見でした。

知識というとどうしても理論によりがちで、キレイな言葉やロジックに集約されがちです。でも知識は人間がいる社会の中で使われてはじめて役に立つものなので、実践のための知識は同じくらい大切だということを、身体的に感じ取ることができたと思います。。

これから学習を積み重ねて、理論で終わらずに、実践と理論の間をシームレスにつなげられることが、この授業での到達目標です。

今日はここまでです。

デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。