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返報性(お返ししなくちゃ心理):行動経済学とデザイン11

「影響力の武器」という有名な本があります。出版された1990年ごろは社会心理学として注目を集めましたが、いま読み返してみると、行動経済学とのつながりも多く見られました。

この本に書かれている5つの影響力のうち、まずは1つめ『返報性』から。

影響力の武器

影響力の武器
ロバート・B・チャルディーニ (著)、社会行動研究会(訳)
1991.09(第一版) 誠信書房

返報性とは

返報性とは、他者から何か与えられたら自分も同様に与えるようにしてしまう現象のことをいいます。簡単にいうと「お返し」の習慣です。

返報性は、昔からある権力者間での贈答や貿易、現代でも旅行のお土産や無料サンプルの提供など、交換のやりとりが発生する社会活動に大きく関係しています。

ただ注意点があります。それはこの交換のやりとりが対等ではないことです。次にあげる4つの不平等な関係があります。

影響1. 拒否権がなくなる

通常だったら冷静に判断できるはずのことでも、一度何かをもらってしまうと、ちょっとしたお願いゴトが断りづらくなる、という不利な条件がはたらいてしいます。

あやしい勧誘などでよく見られる「悪いなぁ」と思う心理を悪用している例は多くありますが、打合せの場でも、出された飲み物を飲むということは何かをもらっているので、交渉が不利に働きがちです。

影響2. 望まないものでも反応してしまう

返報性はもらって嬉しいものだけでなく、欲していないものでも作用してしまいます。例えばお土産を誰かからもらう状況など、好き嫌いに関係なく返報性の関係ができてしまいます。

ここで注目すべきことは、受け取る側には選択肢がないことです。なので仕掛ける側がこのことを意識していると、関係性を有利に持っていけることになります。

影響3. より大きく返さなければと思ってしまう

本書の研究の例では、コーラ1本(当時10セント)をあげて、後でくじつきのチケット(25セント)を買って欲しいと頼むと、相手は平均して2枚のチケットを買ってくれる結果が導かれました。

単純計算すると5倍のリターンを得ることに成功しています。5倍というのは全てに当てはまる法則ではないと思いますが、交換は等価ではなく、もらったもの以上のものを返す傾向になるのだそうです。

影響4. 譲歩せざるを得なくなる

あざとい交渉の手法に『拒否したら譲歩』というテクニックがあります。お宅訪問のドア口でやりとりされる会話から『ドア・イン・ザ・フェイス』ともいわれます。

はじめに、確実にまず通らないような大きな要求を出して相手がそれを拒否したら、つぎに小さい要求を出すと「じゃあ、それなら...」という気持ちにさせて要求を通してしまう技です。

返報性01

なぜ合理的に行動できないのか

機械のように合理的に「それとこれとは関係ない」と切り離すことができればいいのでしょうが、人は非合理な生き物なので、物事をつい結びつけて考え行動してしまいます。

返報性は特に社会的関係性による交換 = Social Exchange の概念と強く結びついています。この関係性とは、ビジネスでは必ずしも人対人ではなく、例えばアプリなどのサービスとの関係でも返報性の影響は見られます。

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影響力の武器の本は、「こんな危険がいっぱいあるから、悪い影響を受けないように防衛法を身につけておこう」という視点で書かれていますが、ここでは性善説のデザインに基づいて、応用例を考えてみたいと思います。

応用1. 最初に感謝を伝える

公共のトイレで「いつもキレイに使っていただきありがとうございます」といったメッセージを見かけますが、あれも返報性の1つといえます。

最初に感謝を伝えると、それに応えようとして「キレイに使わなきゃ」という返報の意識が働きます。これって健全な関係性だと思います。

感謝を述べる機会は、モノでも場所でもサービスでもつくれます(例えば説明書、入口、利用開始時の画面など)。ユーザーと触れる最初の接点をデザイナーは見逃さずに、返報性でお互いの良好な関係性をつくることが大切でないかと考えます。

前に読んだこの本、この関係性がすごく学びになるのでオススメです。

応用2. つながりをジャーニーマップで見る

21世紀のサービスはモノ売り単体ではなく、ユーザーとの長い関係のなかで作り出しているビジネスが主流です。代表的なのがサブスクリプションなどのサービスです。

UXデザイナーがよく用いる『ジャーニーマップを描くこと』とは、サービスを使う一連の体験をみていくことなので、返報性が常に続いている状態になっているか(サイクルが回っているか)の確認に有効でないかと考えます。おおまかには下記の繰り返しです。

1. もらって嬉しい
2. 何か返してあげよう
3. 返したことに反応があった →1に戻る

ジャーニーマップを細かく書いていくと、つい部分的な困りごとや要求に注目しがちで全体のながれを忘れがちになりますが、体験はつながりが大事なので、一度、簡略化した図を書いてみるのがよいのかと思います。

これをグロースハックの観点で捉えるとAARRRモデルが参考になります。前に読んだ別の本でのメモを貼り付けます。

返報性02

まとめ

最後に、主に自分の失敗談ですが、何かデザインを提供をするときに、返報性が機能について考察してみます。

良い方向に機能するのは、クライアントの課題を汲み取り使える情報や整理を提供できたとき。デザインの意図に理解を示してくれて、関係者の説得に動いてくれたり活動しやすい環境を整えていただいた経験があります。

良くないときは、多くを提案したり計画の120%取り組んだのに、それを当然だと思い後の要求だけが高くなる場合。返報性が全然効いていません。

この違いは『一緒につくる関係』『受託の関係』か、ではないかと思います。なのでプロジェクトに関わるときには、デザイナーを受託としてではなく対等な立場でつきあえる人を見極めることが大事だと、改めて思った次第です。

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影響力の武器はこちら

良好な返報性の関係を知れる GIVE and TAKE

AARRRモデルも少し書いている本(この理論ちゃんと勉強しないと)


デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。