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デザインで、どんな環世界を形成するのか。

環世界という概念が、創業期の思考を支えてくれました。

 環世界(=Umwelt:ウンベルト)とは、ドイツの生物学者/哲学者である、ヤーコプ・フォン・ユクスキュルユクスキュル(1864〜1944)が提唱した考え方です。
 すべての動物/生物は、それぞれに種特有の知覚世界を軸に世界を捉えているため、それぞれに独自の時間や空間を知覚していて、その行動もそれぞれ異なった知覚と作用の結果であるというものです。
最近では、この考えを現代にアップデートした研究の結果として、2019年に出版された「事情環世界」(渡邊淳司/伊藤亜紗/ドミニク・チェン/緒方壽人/塚田有那ほか 著)という書籍もあり、元々は動物が捉える世界観のことを言っていた概念を、現代という社会の中で生きる人々に置き換えた視点も肯定されています。

 恥ずかしながら私が「環世界」という概念を知ったのは数年前のことだったのですが、これを知って以来、仕事の中でも事あるごとに思い出したり、照らし合わせてみたりと、自分の仕事や思考に、とても生かされている考え方のひとつです。

昨年、創業にあたって再び環世界について考えたことがありました。
 昨年から、未知の感染症が社会全体に大きな影響と変化をもたらしていますが、社会全体の困難と言われるような事態が起こった時の、その事象に対する捉え方こそ、それぞれが持つ環世界によって、全く違うものになるということです。

極端なことを言えば、
ウイルスにとっては人間は宿主であり、生きるために必要な温床です。
しかし、
人間にしてみれば、未知のウイルスは命に関わる脅威であり敵対すべき存在になります。

 そのため、人と人の接触を断つことが最善の対策となり、いままで問題なく行えていた経済活動がその影響によりストップし、株式市場が大きな影響を受けた時にも、また環世界のことを思い出しました。

 一括りに景気が落ち込んだと言っても、経営や資産形成の見直しを余儀なくされる人もいれば、急な株価の暴落を投資チャンスと捉える人もいます。現代に生きる私たちが形成する環世界というのは、こういったそれぞれに異なる、社会や事象の捉え方の積み重ねによって形成されてくものだと、改めて感じました。


社会は、属する業界や組織ごとに、それぞれ特有の環世界が無意識に形成されています。
 同じ業界にいて、同じ仕事に携わっていたとしても、仕事を発注する側と受注する側で全く違う環世界を形成することになると思います。
例えばある案件が、発注する側にとっては、扱い額も利益率も低いからそのまま横流しして薄い利益を残せればいいという案件でも、受注側にとっては自社リソースで完結できれば非常に経営上ありがたい案件かもしれません。
こういった捉え方の違いは、無意識に積み上がって独自の環世界を形成していきます。

 宗教や文化が違うことで、物事の捉え方や倫理観が異なってくることがありますが、これもひとつの環世界形成と言えるのかもしれません。

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 私は、前職の広告会社で様々な仕事に携わらせてもらう中で、仕事を通じて社会の中でどんな環世界を形成していくかが、関わる人の満足度や関心を大きく左右することに気付きました。
 
 特定の業界の型や役職というのは、主観的なポジショントークを生みがちです。閉じた環世界は、他者を受け入れることを無意識に拒絶してしまっていることがあり、割とこれによって生まれた不幸をたくさん目にしてきました。


 翻って、弊社のことを考えますと、デザインで創業した会社として、どんな環世界を形成していくのか。そのことが重要だと考えています。
デザインという仕事を、例えば、「職人気質の受注型産業」と捉えるか、「芸人気質の共創型産業」と捉えるかで、その立ち振舞いや、納品物、値付けが全く変わってくると思います。きっとこれは、デザイン業界からは、変わったスタンスだと思われたとしても、他の業界からすれば、割と当たり前のことかもしれません。

 さて、結局のところ、何が言いたいかという話になるのですが、環世界は、個々の種の知覚に依存して存在しているということを認識した上で、他の種(仕事でいうと異業種)が形成している環世界を積極的に理解、受容することで、外的変化によって絶やされることのない環世界を、デザインで創造していきたいという気持ちで、様々なことに向き合っていこうと考えている、ということでした。

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