見出し画像

仮定のお話 〜 3人の賢者はなぜ自分の帽子の色がわかったのか? 〜

 「もし明日の天気が晴れだったら…」「もし3時間目の数学のテストがなくなったら…」私たちは普段の生活の中で「もし…だったら」と考えることがありますね。「もし…だったら」と仮定することは将棋や囲碁などのゲームや、探偵小説などでもよく行われていることです。今回は、“背理法”とか“帰謬法(きびゅうほう)”と呼ばれる、数学で最も基本的な推論方法についてご紹介します。ここでは「3人の賢者」のお話をしましょう。

画像1

 ある国に賢者の誉れの高い哲学者が3人いました。王様はどのくらい賢いのか試してみようと、3人を宮殿に招きました。王様は3人を別々の部屋に通し、3人に帽子をかぶせました。赤い帽子青い帽子があり、本人にはどちらがかぶせられたか分からないようにします。

 王様は3人を部屋に集め、次のように言いました。「3人のうち、少なくとも1人には赤い帽子をかぶせた。赤い帽子をかぶっていることが分かったものはすぐに手を挙げなさい。」3人の賢者は、しばらくの間考えていましたが、おもむろに3人とも手をあげました。

画像1

 どうして3人の賢者は自分がかぶっている帽子が赤だということが分かったのでしょうか。

002_図-1

3人の賢者を A, B, C とします。

A の立場になって考えてみましょう。A は「自分(A)が青い帽子をかぶっていると仮定しよう」と考えます。

002_図-2

002_図-3

B はこの仮定の下で [ A は青い帽子をかぶっていて、C は赤い帽子をかぶっている ]ことを知っています。したがってB は次のように考えるはずです。『自分(B)が青い帽子をかぶっていると仮定しよう』。

002_図-4

すると B は『A と B は青い帽子をかぶっているのだから、C はただちに自分は赤い帽子をかぶっていると気づくはずだ。』と考えます。

002_図-5

B は次のように考えるでしょう。『しかし C は手をあげなかった。これは自分(B)が赤い帽子をかぶっているためだ。』

002_図-6

A は「 B はこのことがすぐに分かるはずなのに、しばらく考え込んでいた」と考えます。これは最初の仮定「自分(A)が青い帽子をかぶっている」が間違っていたからに違いない。

002_図-7

 このようにして A は自分が赤い帽子をかぶっていると判明したのです。A は B の立場で考え、A の頭の中の B は C の立場で考えています。また背理法が何重にもネスト(入れ子)となっていてとても複雑です。

 将来のことを考える動物は人間だけだそうです。将来のことを考えるから人間にはストレスがあるのだ、という人がいますが、数学の中で「仮定」し目の前の問題に没頭することは、ストレス解消になるように思います。パズルゲームを解くように、推理小説を読むように、ワクワクした気持ちで楽しんでもらえるような数学のお話をお届けしてできたらいいな、と思っています。


画像11

▼数学Webマガジン・マテマティカ 『 ピラミッドの謎 』
古代エジプトのピラミッドには多くの謎が隠されています。マテマティカのWeb連載「ピラミッドの謎」では、ピラミッドのに関する3つの謎「円周率の謎」「黄金比の謎」「地球の緯度の謎」を取り上げます。エジプト文明が栄えた時代の人々の暮らしや、エジプト神話、そして古代エジプトの数学能力など、様々な角度からピラミッドの謎に迫ります!

画像11

▼数学Webマガジン・マテマティカ 『数の発明
私たち人類はいつ頃から「数」を扱うようになったのでしょうか。旧石器時代までの進化の時代、そして人類が農業というすばらしい手段を発明し、文明が興るまでの間にはどのような道のりがあったのでしょうか。人類が「数の概念」を獲得するまでの様子を見てみましょう。


▼数学Webマガジン・マテマティカ 『バビロニアの数

皆さんは、むかし南メソポタミア地方に栄えたバビロニアという国をご存知でしょうか。最近になって太古の昔この地に高度な数学や天文学が発展していることが分かってきました。マテマティカWeb連載『 バビロニアの数 』では、60進数という記数法はどのようにして生まれたのか、バビロニアで行われていた高度な計算とはどのようなものだったのか、などバビロニア数学に焦点を当て詳しく紹介しています。ぜひご訪問ください!


▼Twitter、Webマガジンサイトも更新中。よろしくお願いいたします。
Twitter: @mathematicasite
Web:http://mathematica.site/

画像12

画像13




この記事が参加している募集

最近の学び

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?