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日銀は本当に大丈夫なのか?

ここのところ,円安について考えています。そして,末尾にリンクのある「有識者は円安についてなぜ本当のことを言わないのか?」という投稿と「本当は政策金利を上げる方が正しいのではないか?」という投稿をさせていただきました。

特に,後者の投稿では,以下のような議論をしました。オールドエコノミー,つまり大量生産型のモノづくり産業については,政策金利を低くキープ(いわゆるイールド・カーブ・コントロールですね)して,お金を借りやすい環境を整備しておくことが正しいと思われます。そうすれば,オールドエコノミー型産業の会社は,お金を借りて工場を増設して事業拡大したり,新規事業を始めやすくなる。一方で,イノベーション型産業の場合,そもそも資金は銀行から調達するのではなく VC から調達する方が有利なので,政策金利を低くキープすることが必ずしも有利ではありません。もちろん,現実を見れば,VC が十分に成熟していない日本の場合,イノベーション型産業であっても投資してくれる VC を見つけられず,結局,銀行からお金を借りている例も多いと思いますが,これは,オールドエコノミー型産業を保護しすぎた結果,産業・投資・人材のメインストリームが依然としてオールドエコノミー型産業に流れていくためであり,イノベーション型産業が VC から資金調達するという形が十分に一般化していないことが原因だと思われます。つまり,政策金利を高くして,もう十分に戦う体力のないオールドエコノミー型産業の会社には退場していただいた方が,イノベーション型産業を育てて,資金を VC から調達する形を促すためにも良い結果が得られるのかも知れません。もちろん,VC だって政策金利の影響を受けますから,どれくらい上げるのかは,十分に検討されなければいけませんが,少なくともオールドエコノミー型産業だけを対象とした政策金利の決定から,イノベーション型産業を育てるという観点も加えた政策金利の決定にシフトする必要があるのは確かでしょう。

次に,考えるべきは,そもそも日銀は政策金利を上げることが可能なのかというポイントです。政策金利を上げると言っても,ただ数値を設定するだけではありません。重要なポイントは,最近,政府が発行する国債のうち,日銀が保有する国債の残高が半分を超えたことです。政府は,税収が十分でないので,足りない分を国債を発行して調達します。何とその半分を日銀が買い受けて保有しています。日銀は,政府の連結子会社のような存在です。そこが,親会社の借金の半分を保有している。この事実には,次の 2 つの観点があります。

1 つ目の視点は,非常に日本人的な視点です。日銀は政府の連結子会社のような存在とは言っても,日本政府や日銀は,株式会社ではありません。ですから,日本政府の借金を日銀がいくら受け入れても,制度上,破綻するということはありません。また,日銀は日本政府に対して借金を返して欲しいとは言わないでしょうから,安心して借金を続けることができます。つまり,日銀が引き受けた国債分については,単純にお札を刷って,貨幣の流通量を増やしているだけということが言えます。貨幣の流通量を増やしても,今のところ,国内産業由来のインフレは起きていませんから,貨幣の流通量を増やすことにも問題がありません。この視点は,非常に日本人的です。なぜなら,日本政府や日銀,つまり,国家を不可侵な非常に特別な存在として見ているからです。

もう 1 つの視点は,欧米人的な視点です。欧米人は,あまり国家を不可侵な特別な存在として見ません。例えば,今の資本主義中心の世の中の基礎となった,近現代のヨーロッパを見て下さい。ヨーロッパだけでもたくさんの国があります。新大陸を探検する冒険家,芸術家,学者も,自分をとりたててくれる国や会社があればそこに移り住んで活動します。コロンブス,ピカソ,アインシュタイン,ちょと考えただけでも皆そうです。そして,その習慣は,現在でも続いています。つまり,彼らにとって,国家は,大きな会社のようなもので,よい政治家がよい経営をすれば良くなるし,ダメなら破綻もあり得る。つまり,国家を不可侵な特別な存在として見ていません。才能のある人たちは,自分の才能を評価してくれる国に行くのが当然という考え方です。彼らは,実際の自分たちの仕事に優れるだけでなく,ライバルを蹴落とす心理戦も超一流です。この視点から,日本政府と日銀の動きを見ていきましょう。そうすると,次の 2 つの問題が見えてきます。1 つ目は,日銀が事実上,債務超過の状態に陥っていることです。日本は,今後も少子高齢化が進み,社会保障費が増え続けます。また,昨今の情勢から防衛費の増額も必要でしょう。つまり,今後,経済の大幅な好転で税収が大幅に上がるようなことがなければ,国債という国の借金は,どう考えても返せないのです。その借金を引き受けているのが日銀とすれば,債務超過であることは簡単に分かると思います。バブルが崩壊したときに,貸出先が返済できないことによりいくつかの銀行が破綻しました。これと同じです。もう 1 つは,日銀の当座預金です。日銀が政策金利を上げるとなると,当座預金の金利も上がります。当座預金の残高は約 500 兆円ですから,政策金利を 1 % 上げると,日銀は,1 兆円の資金を用意しなければいけない。可能でしょうか。細かい話をすれば,その資金は,国が国債を発行して負担すればいいとも考えられますが,その国債も結局,日銀が引き受けます。日本人的な視点から見れば,まぁ,大変だけどそれで政府がまわるならいいじゃないかということになります。一方,欧米人的な視点から見れば,日銀が債務超過のような状態で,かつ,当座預金の金利を払えなくて政府に負担してもらっているけどその国債を引き受けている,なんておかしなことをしているとなると,格好の批判材料になります。IMF なんかを経由してこの点が指摘されると,日本売りが加速するのは間違いありません。

日本人的な視点でいうと,国が苦労しているのだから,そっとしておいてあげようということになります。一方,欧米人的な視点でいうと,苦労しておかしなことをし始めたところがあれば,それを公的な機関を通じて指摘することで,何とか自分たちの利益にならないだろうかと考えます。欧米に武士道はありませんので,このような指摘をすることも戦略のひとつで,彼らはフェアーなやり方のひとつだと考えていることにも気をつけて下さい。

こんなふうにいろいろと考えてみると,日銀と政府のマネー・レトリックの話ばかりしても意味がなく,オールドエコノミー型産業のうち調子の悪いところにはできるだけ早く退場してもらって,イノベーション型産業の会社を育成して経済を上向きにすることが,最良の選択肢だと思えてきます。以上は,私の少ない海外経験も踏まえて考えた結果です。みなさんは,どう思われますか? 是非,ご意見をお聞かせ下さい。



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