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さらに進化するギャングスタたち―『業火の市』

やはり、命のやり取りはハラハラする。

いつの時代の作品もそうだけど、死ぬか生きるかの瀬戸際を描いた物語は面白い。そこには、歯車を狂わせるやっかいな「コイツに関わらなければすべて上手くいくのに」と思わざるを得ない人物や、「そうはいかない」と情に厚い人物たちの濃厚な人間関係に飲み込まれながら主人公たちが絶望のふちへと徐々に追い込まれていく…という、なんともやるせないスリルがある。

僕も感情移入しやすい性格で、そんな厄介な人物に腹立たしさを感じながらも、気づけばいつも物語から抜け出せなくなっている一人だ。

今作、ドン・ウィンズロウ氏の新作となる「業火の市」もまた、非常にスリリングで濃厚なギャングたちの「命のやり取り」が描かれている。
著者の作品はほとんど読んできたが、今作は今までの中でも一番インパクトがあった。
その理由はまさしく、「進化」にある。

平和を保っていたマフィア同士が次第に抗争へと発展していく…という、言わばギャングものの「王道のストーリー」ではあるが、本作からは純粋にその王道のシナリオをひたすらに磨き上げた印象をうける、まさに温故知新を感じさせる一冊となっている。

その抗争のキッカケもまた「女性」であることが、実にドン・ウィンズロウらしい。わかりやすくシンプルな導入から一気に物語を加速させてのめり込ませるという、ウィンズロウの得意技と腕前を十分に堪能できるだろう。

三部作の第一弾ということだが、一応ストーリーは終焉と捉えることが出来るので、モヤモヤ感はない。
しかし、続編があるという事実もまた、僕を含めたウィンズロウファンに楽しみを与えてくれる心地よい読了感だ。

第二弾は来年の夏。
さらに進化するギャングスタたちのスリリングな命のやり取りを楽しみに、僕たちは今日も物語を探すのだろう。

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