「感性アナライザ」×「コミュニケーションデザイン」~慶應義塾大学 当麻教授インタビュー~
「感性アナライザ」って、どんなことに活用できるの?
「感性アナライザ」を使うメリットってなんだろう?
脳波データの活用に関心はあっても、導入に至るまでに多くの方が抱かれる疑問ではないかと思います。
現在、電通サイエンスジャムでは、企業だけではなく様々な大学と連携し、研究分野でも「感性アナライザ」をご活用いただいています。
今回は、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 コミュニケーションデザインラボの当麻哲哉教授(以下、当麻教授)をお迎えして、実際にどのような機会に「感性アナライザ」をご活用いただいているのか、インタビューを行いました。
当麻教授ご紹介
当麻 哲哉(とうま てつや)
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 教授、コミュニケーションデザインラボ代表
博士(システムデザイン・マネジメント学)、PMP (Project Management Professional)
経歴:1988年、慶應義塾大学大学院理工学研究科応用化学専攻修士課程修了、同年住友スリーエム株式会社(現 スリーエム ジャパン)入社。2001年、米国3M本社へ転籍し、Advanced Product Development Specialistとしてグローバル市場での数々の新製品導入プロジェクトを成功させる。2008年より慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 准教授、2016年より同研究科 教授。2019年より2020年まで訪問研究員としてマサチューセッツ工科大学(MIT)にて活動。現職のほかに、Project Management Institute Global Accreditation Center(PMI GAC)ディレクター、日本創造学会理事、日本プロジェクトマネジメント協会(PMAJ)理事、慶應フォトニクスリサーチインスティテュート(KPRI)副所長を兼務。
専門分野:医療・教育・地域コミュニティのためのコミュニケーションデザインと、プログラム&プロジェクトマネジメント。
著書:『グローバルプロジェクトチームのまとめ方:リーダーシップの新たな挑戦』(監訳、慶應義塾大学出版会)、『システムデザイン・マネジメントとは何か』(共著、慶應義塾大学出版会)
コミュニケーションデザインラボとは
電通サイエンスジャム(以下、DSJ)
「当麻先生、本日はどうぞよろしくお願い致します。早速ですが、まずはじめにコミュニケーションデザインラボについて簡単にご紹介いただけますでしょうか。」
当麻教授
「はい。分野を問わず、コミュニケーションに関わる研究を行っています。
コミュニケーションと言っても捉え方は様々ですが、多くの学生は、会話や情報伝達をはじめとした、人と人のコミュニケーションについての研究を行っています。その他にも、私の専門分野でもある光通信に関する研究を行っている学生もいます。」
「感性アナライザ」との出会い
人と人とのコミュニケーションの研究過程において、どのようにその事象を評価するかがポイントとなります。多くの場合に利用されているアンケートよりも客観的な評価を行いたいと考え、10年ほど前から生体信号を用いた評価方法を模索してきたという当麻教授。
DSJ
「コミュニケーションに関わる様々な研究を進めていかれる中で、先生が感性アナライザをご活用いただくきっかけは、どのような研究だったのですか?」
当麻教授
「5年ほど前に遠隔会議システムの研究をしていました。今でこそテレワークも普及していますが、当時はそのメリットが見えづらく、対面時・遠隔時において人の感情伝達に差がないことを示すことを目的として、評価の方法を模索していました。
総合的な評価を行うことはアンケートやインタビューでも可能ですが、システムを利用している際のリアルタイムな状況での感情の変化を知りたく、エビデンスとなる科学的なデータが欲しかった。
当初はNIRSや唾液アミラーゼ測定、脈拍、視線計測、サーモカメラなども検討しましたが、できるだけタイムラグが出ない方法を探していく中で、脳波から感性を計測する感性アナライザに出会いました。」
感性アナライザを利用するメリット
続いて、現在研究室で行われている研究の2~3割は「感性アナライザ」を活用しているとおっしゃる当麻教授に、「感性アナライザ」を利用するメリットをお伺いしました。
当麻教授
「これまでの調査では見つけられなかった結果に出会えることです。
リアルタイムに計測ができることから、どういったシーンで感情に変化が起きるのか、被験者の記憶に頼らなくても発見ができる。また、従来の実験に脳波計の装着を組み込むだけなので、様々な研究で活用ができることにメリットを感じています。」
医療現場での活用
DSJ
「それでは、先生が実際に感性アナライザをご活用いただいた研究において、主な事例を一つご紹介いただけますでしょうか」
当麻教授
「感性アナライザを活用した研究は多くありますが、一つ挙げるとしたら医療分野における研究でしょうか。医療の分野においてもコミュニケーションは非常に重要であり、より良い医療行為には必要不可欠です。
その中でAED(自動体外式除細動器)を使用する際のストレス変化に着目し、研究を行いました。AEDは医療従事者が使用するのではなく、その場に居合わせた一般市民が使用します。責任も伴いますし、人命がかかっていることでプレッシャーとなり非常に強いストレスを感じてしまう。
そこで、AEDに医師と通信するデバイスを付加し、遠隔で医師からアドバイスを受けることができるシステムを考案しました。これを使うことで、使用者のストレスを軽減できるのではないかと考え、感性アナライザを使って感情の変化を見ることにしたのです。」
AEDの使用については、トレーニングを積むことでストレスを軽減することができますが、それはあくまでも冷静な時だけです。また、すべての人が定期的なトレーニングを積むことは難しい状況にあります。
そんな中、“医師が傍にいる=コミュニケーションが取れる状態”であれば、実際に使用者のストレスを軽減することができるのでしょうか?
仮説と違うことを発見できる面白さ
DSJ
「感性アナライザをご活用いただいた上で、仮説どおりの結果は得られましたか?」
当麻教授
「マネキンを使って、実際にAED+医師による遠隔アドバイスの実験を行いました。
仮説ではストレスが下がるであろうと思っていましたが、実際には全く下がらなかった。やはり、緊迫した場においてストレスが感情へ与える負荷は高いということが示されました。しかし、遠隔アドバイスが無い場合と比較して沈静度に変化が起きた。アドバイスを受けることで、落ち着きを得ることができていたことがわかったのです。
むしろ、このときのように想定と異なる結果、また、意外な変化に気がつけることはとても面白く、重要だと感じています。リアルタイムでいくつもの感情を計測できることによる発見があり、そこに新たな研究課題が生まれてくるのです。」
DSJ
「仮説を立証するというよりは、このように違う観点が見えてくる場合の方が多いのでしょうか?」
当麻教授
「もちろん仮説どおりになる研究もありますが、仮説どおりにいかない時の方が、研究として面白い結果がみえてくると考えています。」
DSJ
「ありがとうございます!仮説を立証することだけが目的ではないということですね。」
今後の展望
DSJ
「今後の感性アナライザの活用については、どのような展望をお持ちですか?」
当麻教授
「前述したとおり、感性アナライザは様々な研究分野で使うことができます。また、同時に複数の感情指標が計測できることで意外な結果を見つけることができるため、特に研究の方向性を決めるとき等、初期段階で活用したいと考えています。
例えば医療分野であれば、初診時の問診における患者・医師双方の感情の可視化、手術ツールの操作プロセスにおけるストレスポイントの発掘等ですね。他の分野であれば、地域コミュニケーションにおける本音の抽出、音楽を聴くことによる癒し効果の検証など、様々な分野のコミュニケーションを可視化していきたいです。」
DSJ
「もし感性アナライザに出会っていなければ、現在と比べて研究にどのような影響があったとお考えでしょうか?」
当麻教授
「考え得る限りの方法を尽くすと思いますが、感性アナライザを知ってしまったので、もう他の方法には戻れないですね(笑)」
その他にも、“これまでよりも実験計画を組みやすくなり、研究テーマの幅が広がった”というお話や、“「感性アナライザ」を活用することで、より成果を得やすくなった研究もある”という感想をお伺いすることができました。
また、日本人は本音が見えづらい傾向にありますが、「感性アナライザ」で本音を可視化し、社会における人と人とのコミュニケーションに関する、様々な感情変化について研究を進めていきたいという想いも語ってくださいました。
まとめ
最後に、当麻教授から次のような言葉をいただきました。
当麻教授
「人の感情をきちんと定量化することは難しいですが、感性アナライザのように数値やグラフで定量化できるツールは、人の研究をしていくうえで重要だと感じています。
例えば、消費者の本音に近い部分を見ることができることから、マーケティングツールとしてもとてもパワフルだと思います。アンケートやインタビューだと忖度が入ってしまう可能性がありますが、感性アナライザは個人の感情がダイレクトに表れますよね。
開発分野においても、早い段階で消費者の感性を把握することができれば、計画段階で開発の方向性を正すことができるなど、いろいろな活用の仕方があると思います。」
DSJ
「本日はお忙しい中、貴重なお話をいただきありがとうございました!」
多様な研究を通じて、私たち社員でも気づいていなかった新たな「感性アナライザ」の可能性を語ってくださった当麻教授。
このように、枠に捉われることなく、今後もクライアントのニーズに沿って新しい活用方法を共に模索し、より良い研究開発やマーケティングの方向性を見出すお手伝いが出来ればと考えています。
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