じつは『ターミネーター』を初めて観たので「ロボット」について改めて考えてみた
筆者はテクノロジーと人との関係を考える仕事をしているため、余暇にはSF映画や小説をなるべくチェックするようにしています。
ただ、育った家庭の方針が "中学生以下の子どもが観ていい映画は暴力表現やベッドシーンがないものに限る"だったため、80-90年代前半に観る機会を逸したままの映画がたくさんあります。
『ターミネーター』シリーズもその一つです。
TTR編集部のnoteマガジンでは、隔週でテーマにもとづいた雑談会を実施したのち、各自が記事を書くというスタイルをとっています。今回のテーマは「ロボット」だったため、座談会では「日本は『ドラエもん』、アメリカは『ターミネーター』がAIやロボットについて考える原体験になっているのでは?」という話題になりました。
そこで、「ええと、じつは『ターミネーター』を観たことがないのです。」と勇気を出して告白したところ、参加していた編集部員がそろって絶句してしまったので、この機会にクリアすることにしました。
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映画の公開は1984年。タイトルにもなっている殺戮マシン"ターミネーター"は、いまから6年後の2029年から来たという設定です。
以降、気になったセリフや設定を引用しながら、ターミネーターの能力や、はたして2029年に実現可能なのか?そして、そもそもロボットってなんだっけ?について考えてみたいと思います。
(ちなみに視聴は1のみです。2はセットでと各方面からオススメされましたが時間がたりず未見。)
※以下ネタバレを含みます。念のため。
🤖ターミネーターは「サイボーグ」?それとも「ロボット」?
これは、襲ってくるターミネーターから主人公達が逃げる際の会話です。
サイバネティクスとは、機械の情報伝達と、生物の神経の情報伝達を比較研究する学問分野の総称で、機械と生物が融合した存在をCYBernetic ORGanism=CYBORG:サイボーグと言います。
ロボットは、2006年の経済産業省 「ロボット政策研究会報告書」で「センサー、知能・制御系、駆動系の3つの要素技術を有する、知能化した機械システム」と定義されています。(参照:NEDOのロボット白書2014)
ターミネーターの外装は皮膚や肉っぽい素材でできていますが、映画の後半では金属製の中身だけでも自律駆動できているので、劇中のセリフに反してサイボーグではなく「ロボット」なのだと思われます。人間のような外見を持つことに対して「ヒューマノイド(人型ロボット)」の意味で「サイボーグ」と呼んでいたのでしょうか。
人間のような外見で、びっくりするくらい動けるロボットとして、ディズニーのスタントロボット「Stuntronics」が少し前に話題になりました。この動画を見ると、ターミネーターも動きとしては実現可能そうです。(バッテリがどのくらい持つものなのか、稼働時間はちょっと心配ですが。)
🩸ロボットに血が通っている必要はある?
劇中では、銃で撃たれたターミネーターが、自らの腕や目を治療するシーンが出てきます。傷口からは裂けた肉が見え、血が滴っており、たいへん痛そうですが、動じることなくぐりぐりやっつける様子から、"コイツは人間じゃないぞ"ということが表現されています。
生体でないとタイムマシンに入れないという設定だったようなのと、隠れ家にいる人間を抹殺するために人間に擬態する必要があったからという理由で、外装に肉や皮膚のような素材を採用しているようですが、はたしてロボットから血が出る必要はあるのでしょうか?
東京大学が2016年に発表したロボット「腱悟郎」は、人体の筋肉や腱を模倣したヒューマノイドです。ワイヤなどで筋肉にあたる部位を収縮させることで腕立て伏せや、テニスのラケットを振るなどの運動をすることができます。
特徴的なのは、汗をかくという機能です。動かした部品に発生する熱を冷却するために、少しづつ全身に回した水を蒸発させることで熱を奪うような機構がつけられていました。
汗は血液からつくられていますから、もしかするとターミネーターにも冷却のために血が通っていることが必要だったのかもしれません。
📞他人の声をそっくりにマネできる?
主人公の居場所を探知するために、ターミネーターが家族の声色をそっくりマネて電話をするシーンがあります。
声マネや顔マネはロボット≒AI全般が得意とする分野になってきました。劇中のように悪意のある使い方をするとディープフェイクと呼ばれますが、AppleのPersonal Voice、MicrosoftのVALL-E、GoogleのSoundStormなど、大手各社からも相次ぐ読み上げ機能のリリースや研究発表は、主に声を失った(失いつつある)人々のためのアクセシビリティ施策です。
こちらはAIボイスにした自分の声でCNNの記者が両親に電話をかける動画です。かなり自然な反応が引き出せており、声マネ機能はいまからでも実現できそうです。
👀追跡は「視覚」だけでするもの?
ターミネーターがターゲットを見つける際の描写として、画面が赤っぽく転換して画像解析をしているような様子がしばし出てきていました。基本的にはビジョンベースで世界を把握している設定ようです。(解析の内容については詳しく書き起こされている記事がありました。)
映画なので視覚表現を中心にしないと観客に分かりにくいという理由もあるかもしれませんが、せっかく未来のロボットなのだから他のセンサもほしいところです。
追跡といえば警察犬。嗅覚で人や爆発物の捜索を行なっています。劇中でも「外で犬が吠えた」ことで主人公らがターミネーターに気づくという描写が複数回ありました。
2017年の国際ロボット展に展示されていたNext Technologyの犬型ロボットはなちゃんは、嗅覚をもつロボットです。足を嗅いで、臭いが強いとこてんと倒れてしまいます。
はなちゃんは身だしなみのアラート用につくられたロボットでしたが、サイバーダイン社が犬や蛾に値するような嗅覚センサをターミネーターにも搭載していれば、ビジョンセンサが動くものに惑わされてしまい、主人公たちを見つけるのに苦労するようなことはなかったかもしれません。
👫そもそもロボットが人型である必要はある?
ターミネーターの目的は、その名前の通り人類をterminate(終了)させることです。劇中では、人類が壊滅的な被害をうける核戦争が起きた理由として、防衛コンピュータの暴走が挙げられています。
主人公が狙われているのは「後の人類反乱軍リーダーを産むから」という理由なのですが、悪意の司令塔がコンピュータなら、主人公1人を駆除するのに、例えばIDを抹消するとか、ライフラインを止める、電車や重機のような大型の機械で事故を起こすなど、すでにあるネットワークを用いてハッキングするのが最も簡単そうに思えます。ただ、インターネットが実用化されていない1984年にはあまりリアリティのない表現かもしれません。
また、生体でないとタイムマシーンを通れないという設定がありましたが、目立つマッチョマン外装のロボットに銃を略奪させて追わせるよりも、かわいく見えてじつは凶暴な「捨て猫」ロボットや、ウィルスを仕込んだ「蚊」型のサイボーグを放つほうが確実性がありそうな気もします。
現代、2023年。家庭や飲食店で身近になってきたロボットが、円盤型の掃除ロボットや猫耳棚型の配膳ロボットであるように、ロボットが必ずしも人型である必要はないように思いました。
📣まとめ
映画『ターミネーター』に登場するロボットは、「圧倒的な運動力」「痛みへの鈍感力」「声の擬態力」「機械操作の即時理解力」「ビジョンベースの解析力」など数々の能力を持っています。最近の研究を見る限り(エネルギー供給は別問題として)これらの機能は、製造される2029年頃には一定のレベルで実現可能そうに見えます。
一方で、「そもそもロボットってなんだっけ?」という質問に対する答えは、現在ますます曖昧になってきています。冒頭の経産省の報告書ではロボットの定義がセンサー、知能・制御系、駆動系で示されていますが、計算能力をクラウドに持つものや、GPTシリーズのような物理的な形状を持たないものなど様々な在り方が出てきており、これがロボットです!と定義することが難しくなってきていると感じました。
以上、『ターミネーター』を触媒に、あれやこれやを考えてみました。
ロボットが人型である必要はないと書きましたが、これまで数多くのSF映画や小説で描かれてきたように、ロボットを人型にしてみることで、社会の中に置かれた際の、特性や、潜在的な問題が見えやすくなるというメリットはあります。そういった意味で、フィクションは、未来に向けた思考実験の手段になり得ると改めて感じた積み映クリア体験でした。シリーズの2作目以降も、機会があればぜひ視聴してみたいと思います。
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