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「世の中を良くする不快のデザイン展」を終えて #02 コピーライター・佐々木千穂のつぶやき

「世の中を不快にするデザイン展」企画チームのコピーライター・佐々木千穂です。今回はこの展示についてコピーライター視点で語りたいと思います。
 
記憶をさかのぼると公募のためにチームが発足したのは2022年7月でした。開催にいたるまで約8ヵ月間。一昨日の夕飯さえ思い出せないのに、この8ヵ月間のできごとは細胞レベルでメモリーされていて、ちょっと思い出すだけでも胃のあたりに込みあげるものがあります。

タイトル、やっちまったな

自分で書いておいてなんですが、企画選出されてから「やっちまったなぁ」と。だって『不快のデザイン展』ですから。『世の中を良くする』ってとこがいちばん大事なのですが『不快』というワードが強烈すぎて、先行してしまうリスクがあるのはわかっていました(共催のGOOD DESIGN Marunouchiも懸念していた)。

展示協力の許諾がもらえなかったら企画ごとアウトな状況、それでもこの企画展にふさわしいタイトルはほかにない、と心に決めていました。代案を数日考えたものの「やっぱりタイトルはこのままでいかせてほしい」と、クリエーティブディレクターの中沢に自信満々に言い放ったのを覚えています。

なんて言っちゃったものの、許諾確認は本当に通るのか不安でしょうがありませんでした。タイトルひとつで開催の可否が決まるかもしれない。選出してくれた人にも、チームにも迷惑をかけてしまうかもしれない。でも、このタイトルは譲れない。キャッチコピーの変更やリライトはよくある話でわりと私は素直に書き直すのですが、今回ほどタイトルにこだわったことはなかったかもしれません。
 
ちなみにTwitterでよく拡散されたキーワードは『不快のデザイン展』でしたが、来場者にはちゃんと『世の中を良くする』という部分が伝わっていたな、と胸をなでおろしたコピーライターなのでありました。もしかして、そんなに心配する必要なかったのかも?

じぶん、コピーライターですから

事例を心理効果から紐解くにあたりどう表現するか。はじめは『心理学』という賢そうな響きに調子にのっていました。ごめんなさい。難しい言葉の羅列と圧倒的字数で、このくらいじゃないと伝わらないでしょ! と。

ところが、とにかくつまんない。絶望的におもしろくない。これじゃ来場者ゼロ確定。ということをやさしく指摘され。いつもとおんなじ、仕事でやっていることをやればいいんじゃない? と。展示会というアウェーな領域に、完全に飲み込まれていたのを自覚しました。みんながモヤモヤと感じていることを、言語化する。新しい視点と発見を、説明ではなく『伝わる』ように表現する。

日々の積み重ねで得てきたもの、私のなかにあるものでしか上手くいくわけない。ということで、3ヵ月かかった原稿を白紙に戻し、1週間ほどで血眼になり書き上げたのでした。

結果、デザインとか心理学とか『ちょっとアカデミックで鼻につきそうな内容』を徹底的に読みやすくした事例本文と、展示会の『下手すりゃ誤解されかねない』タイトルがいい塩梅で読み手に刺さったのではないかと予想しています。

コピーライターの『本質を言語化する』『ことばで仕組みをつくる』というところから逃げずにいたら、なんでも書ける自信がついたような気がしています。それがこの展示会で得た、いちばん大きなできごと。謙虚に、ことばを尽くして、コピーライターとして恐れずに越境していきたいと思います。

佐々木 千穂(ささき ちほ)
電通クリエーティブX コピーライター。案件に応じてコピーライター、クリエーティブディレクターを担当。化粧品から精密機器までさまざまな業種 / 領域で広告制作を中心に活動。いろんな意味で「やさしい」コピーライティングをモットーにしている。

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