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「世の中を良くする不快のデザイン展を終えて」 #01 クリエーティブディレクター・中沢俊のつぶやき

「世の中を良くする不快のデザイン展」を企画した、クリエーティブディレクターの中沢です。

まずは、「世の中を良くする不快のデザイン展」にプロダクトをご提供くださった各企業の皆さまに心から感謝を申し上げたい。こんなタイトルの展示会にしておいて何だが、世の中を不快にしたくてモノ作りに携わっている人など、この世に一人もいない(と信じたい)。

“不快のデザイン”という尖ったネーミングの展示会は下手をすると、自社の商品がマイナスのイメージに受け取られる可能性がある中で、展示会の趣旨に賛同いただき、デザインをご提供いただいたのは、とても勇気のいる決断だったのは想像に難くない。

公式Twitterでもツイートしていたとおり、今回の展示に関わったメンバーそれぞれの視点で、「世の中を良くする不快のデザイン展を終えて」というテーマでコラムを書いてもらおうと思う。まずは、クリエーティブディレクターである僕から。

なぜ、こんなに多くの人が来場したのか

皆さまのご協力のおかげもあり、SNSで話題になったのをきっかけに、1ヵ月という会期中に、80平米あまりの小さな展示会場に、毎日のように行列ができ、最終的には約27,000人もの方々が来場してくださった。会場まで来たにも関わらず、見ることができなかった方々には心から申し訳ないと思いつつ、この展示会は間違いなく世の中に「ササッた」のだ。

僕らのチームはもちろん、面白いと思ってこの企画展を考えたのだが、想像を遥かに超えた反響に対して正直驚いた。なぜ、今回の展示会はそこまで人に「ササッた」のか?

今回の展示会の肝である、「私たちにマイナスしかもたらさないと思っていた不快が、実は役に立つ」という発見や驚きが理由のひとつだとは思うが、それだけではない気がしていて、日々増えていく来場者数を横目に、悶々としていた。

そんな時、展示を見に行ってくれた父から一通のメールが届いた。「今回の展示を見に行って、初めてデザインというものが、わかった気がした」と。なるほど、そういうことか。

世の中は、僕ら作り手が思っている以上に「デザイン」のことを知らなかったのかもしれない

普段、僕は主に広告デザインに関わる仕事をしている。だから、ひとつのデザインができるまでにどれだけ多くの時間を使って、「どうしたら、よりわかりやすく伝えられるのか」や「どうやったら、今より使いやすくなるのか」などを、あーでもない、こーでもないを何度も繰り返し、作り手がひとつのデザインに落とし込んでいることを知っている。

だが受け手は、そんなことを知る由もなく。そのデザインが使いやすいとか、わかりやすいとか意識するまでもなく、感覚的にそのデザインに触れたり、使ったりしている。

マグカップの取っ手のおかげで熱いコーヒーを飲むことができていることを普段は意識していない。取っ手のないコップで熱いコーヒーを飲もうとした時に、はじめて取っ手に助けられていることに気づくのだ。

そうやって、細かい設計の積み重ねが、「ひとつの形」に集約され、無意識にデザインによって僕らは行動を促されたり、助けられたりしている。「良いデザイン」とはそういうものである。だが、受け手は自覚がないから、デザインを「ひとつの形」にされた「見た目」のことだと思っている人が非常に多いように思う。

リモートワークで仕事をしている僕の姿を見ている小学生の娘は、「パパのお仕事はお絵描き」とよく言っている(笑)。そういう人からしてみると、そもそも目に見えない「聴覚」「嗅覚」「味覚」「触覚」もデザインする対象だという自覚すらなかったのかもしれない。

今回の展示では、人間の心理を利用して、それらが「見た目」だけではなく「音」や「匂い」や「味」などの目に見えないさまざまなアウトプットになることで人間の行動を促すデザインを紹介した。この展示を見た人たちは、本当のデザインとは「行動をデザインする」ことであるということにシンプルな驚きがあったのかもしれないと、父のメールを見て思ったのだ。

もちろん、デザインにおいて感覚的に訴えかける、「カッコいい」とか「カワイイ」と感じる「見た目」が大事な要素であることは言うまでもない。だが、そこだけで議論されがちなデザインに悲しい気持ちになる瞬間を人生で何度も味わってきた。

この展示を通じて、父のように感じてくれた人がたくさんいたのなら、この展示をした意味は大きい。デザインを生業としている一人として、少しでも「デザインとは何なのか」をこの展示会で伝えることができたのだとしたら、僕自身も少し救われたような気がする。

中沢 俊(なかざわ しゅん)
電通クリエーティブX クリエーティブディレクター / アートディレクター。 多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒。企業、商品、イベントなどのコンセプトワークをはじめ、CI開発やビジュアル開発など、「デザイン起点」でさまざまな課題解決に取り組んでいる。

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