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心地よい手間 「手間の再認識」

※本投稿は株式会社デンソーデザイン部の自主研究活動であり、
弊社の開発案件や事業をご紹介するものではありません

こんにちは、株式会社デンソー 先行デザインチームのモリカワです。
前回の記事では、「手間」と「幸せ」の関係性の研究を始めるに至った研究動機と、実体験に基づいた仮説を紹介させて頂きました。

今回は、この2週間の学びの中から「不便益」ピックアップして、研究テーマの「手間」について掘り下げた内容をご紹介いたします。

不便益とは

京都大学の川上浩司先生が提唱されている「不便益」は、次のように定義されています。

「不便だからこそ得られる益=不便益」
-川上浩司(2017)『ごめんなさい、もしあなたがちょっとでも行き詰まりを感じているなら、不便をとり入れてみてはどうですか? 〜不便益という発想』[楽天Kobo版],第2章、1節、1項、3段落

そして、前掲書の中で不便でかえって良かったこと不便でないと駄目なことの複数事例から「不便益」を構成する客観的益の3つの共通項を抽出されています。

「機会拡大」:気づき、出会いの機会が多いこと
「工夫の余地」:能動的に試したり、自分なりのやり方ができること
「対象系の理解」:行動に対する、作用ー反作用の関係と結果を本人が分かること

試しに私の好きな料理に当てはめてみると次のようになります。

「機会拡大」:釣り動画を見ている時に、魚料理の動画がリコメンドされる
「工夫の余地」:通販で同じ魚を取り寄せて、普段と違う料理を作ってみる
「対象系の理解」:魚を捌くときに包丁が骨に当たる感覚が伝わり、綺麗に捌ける時の刃の入れ具合が分かる

「工夫の余地」「対象系の理解」に関しては、私が当初から関心があった「手間」に楽しさを感じる部分と重なるものが多く、「不便益」の考え方に納得感がありました。
一方で、「機会拡大」については、今まで意識をしていなかったのですが、この項目を知ったことが「手間」に対する認識を変える切っ掛けとなりました。

汗を流すことだけが「手間」ではない

「手間」に対する認識を変わったことについてお話させて頂きます。

これまで私は「自分の手を使って何かをつくること」が好きなことから、「手間」について、肉体的に経験する労力や時間ばかり注目していました。
しかし、「機会拡大」という項目を知ることで、新しいモノ・コトを「知る」ための心理的な労力があったことを再認識することができました。

先程の料理の例でいうと、動画サイトのリコメンドを漁ることがそれです。
サイト上に表示される関連動画の総覧の中から、興味を惹かれるものに次々と飛んでいき、最初に見ていた動画とは全然違うジャンルに行き着くことがよくあります。
例えば、始めは釣りを楽しむ動画を見ていたのに、だんだん生物についての生態や食べ方が気になりはじめ、更には、生物の名前の由来から神話を調べたり、独特な食べ方をする地域の文化を調べていた。なんてこともあります。
そして、その過程で自分が予期していなかった新しいモノ・コトを「知る」ことができた時に強い喜びを感じます。

「手間」の観点からいうと、検索ボックスから望みの内容を引きあてる方が圧倒的に「手間」が少ないのは間違いありません。
ですが、それでは私の好きな予期せぬ出会いは減ってしまいます。

好きすぎて「手間」とすら感じていない「労力」は他にもありそうです。

「手間」を整理する

最後に、今回の気づきをふまえ「不便益」の考え方をベースに「手間」対する私の考えを整理してみました。

「手間」に含まれる労力=「心理的な労力」+「肉体的な労力」
手間の魅力        対応する客観的益の共通項
「知る」ことができる ー 「機会拡大」
「試す」ことができる ー 「工夫の余地」
「学ぶ」ことができる ー 「対象系の理解」

今回は触れられませんでしたが、「心理的な労力」に関係して、心理学者のM.チクセントミハイ氏によって提唱された「フロー体験」も調査中です。
「フロー体験」では、「心理的エネルギー」をコントロールすることによって、強い楽しみを感じながら、高いパフォーマンスを発揮し、さらに自身の限界を引き上げることができるとされています。

次回は、「フロー体験」の事例を交えながら、具体的にどんな「手間」を研究していくのかをご紹介する予定です。

最後までご覧いただき、有難うございました。
また宜しくお願いします。

本記事の参考図書