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未来の共食「レストランMIKASHIKIで知る伊勢の食材・文化」

こんにちは。デンソーデザイン部の佐藤です。3か月ぶりの投稿となりました。今回は、少し時間がたってしまったものの、ぜひ書きたいと思っていた共食イベントについて皆様にご紹介したいと思います。

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昨年度の11月から3月まで、三重県伊勢市では「クリエイターズ・ワーケーション」として、100名のクリエイターを招き、伊勢市に滞在して創作活動をしてもらうという事業がなされていました。

そしてこの活動に参加されたクリエイターのうちのお二人(シェフ、レストランプロデューサー)が2日間限定のレストラン「MIKASHIKI:御炊」をオープン。伊勢市周辺の食材や伊勢神宮の神事にインスピレーションを得て考えられたメニューで、シェフによる調理の説明に加え、生産者さんにZOOMで食材の説明をして頂くという試みがなされ、私も体験して参りました。

レストランについて

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御炊:みかしき
一般に貴人の食事の準備をする者のこと。伊勢神宮でも、神饌(神様に奉る食事)を作る者のことをさす。
伊勢クリエイターズワーケーションに参加した料理人の大野尚斗は伊勢とその周辺の食材への感謝、伊勢の神々に感謝しながら、料理を通して「伊勢」を表現したいと思います。  
(メニューより抜粋)

このレストランのシェフは、ミシュラン・三ツ星レストラン Alinea で部門シェフを務めた大野尚斗さん。伊勢の生産者さんを回り、選りすぐった食材を組み合わせて、渾身の一皿一皿を作り出してくれます。

「もともと、旅が好きで、現地の食文化と食材に触れて、『どうやって料理しよう』と考えることが好きです。伊勢では新しい経験を積めると思って訪れましたが、期待以上にいい食材が多くて驚いています。」大野さん

また、レストランプロデューサーの江六前さんが私のオンライン共食のアイデアを気に入ってくれたことで、企画に取り入れてくれることに。シェフが食材や調理法について説明してくれることに加え、「生産者さんしか伝えられない魅力」を提供する試みです。江六前さんいわく、

「素材と大地を繋ぐ語り部としてお話ししてもらう。」
「生産者さんは人柄が面白く、いい人が多い。それも伝えたい。」

という狙いです。お客様が大野さんの料理を楽しみ、更に「また伊勢に来たい」「今度この野菜を買いたい」と思ってもらえるよう、レストラン全体を構成してくれました。

レストラン、スタート

私が訪れた11月22日は他に12名のお客様がいらっしゃいました。

食事を前に大野さん江六前さんから来店のお礼、レストランと料理のコンセプト説明があり、その後プロジェクターで映された生産者さんとZOOMで繋がり、料理提供という流れでした。

その生産者さんお二人についてこちらで紹介したいと思います。

「谷口トマト」谷口さん

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(※上記リンクは音が流れます)

谷口さんのトマトはシラスの前菜で提供されました。

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比較的管理が楽で育成が早い水耕栽培ではなく、土耕栽培にこだわり生産されているとのこと。「土耕だから味が濃い。実は来月の方が一番味が乗ってきておいしい。」と語っておられましたが、それでもトマトの味は驚くほど濃厚でした。「今はトマト、夏はメロンを作っています。」とのことで、このトマトのように作られた濃厚なメロンなら是非食べてみたいと思いました。

「六月農園」西川さん

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松阪牛に添えるワサビ菜などの葉野菜と根菜を提供して頂きました。

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農薬や化学肥料を使わず、伊勢の有機肥料を使って育てられているとのこと。それでも「土作りにはあまりこだわっていません」「ここ明和町はかつて伊勢の神様に仕えた斎王が住まわれたゆかりの地。ぜひお立ち寄りください。」という、自己アピールというよりも土地・観光をアピールされるお人柄を伺えました。葉野菜は驚くくらいエグミが無く、すっきりした味わい。もっとモリモリ食べたくなり、レストラン終了時にこっそり分けて頂きました。笑

他にも伊勢湾の海水から作る焼き塩「岩戸の塩」のコンソメスープやトロさわらなど素晴らしいお料理を楽しみました。こちらで全てご紹介できずに残念です。伊勢クリエーターズワーケーションの限られた滞在時間の中で優れた食材を見抜き、クオリティの高いコースに仕上げられた大野さんの腕はさすがでした。

レストランを振り返って

さらに贅沢なことに、Restaurant TOYO Tokyo の総支配人でシェフソムリエの成澤亨太さんが料理とのペアリングを楽しめるお酒を提供しつつ、オペレーションをサポートされていました。

創り手の顔が見える。お客さまにも料理のプロセスを楽しんでもらいたいという、発想から生まれた・カウンターフレンチ。より贅沢な時間を創り上げます。(Restaurant TOYO HP より)

日々、食事という体験を考え抜かれている成澤さんから、ZOOMで繋ぐ試みについてコメントを頂きました。

可能性と価値のある、大変良い試みだと思います。
課題として、料理と生産者を深く食べ手にリンクさせるために
1・その食材を使った料理の提供
2・生産者の想い
3・シェフの想い
4・食べ手のフィードバック ←(これが実は一番重要)
この1~4を同時に行う必要があると思います。

リアルタイムで、料理提供時にシェフとセッションしていく、もしくは最悪でも食べ手がフィードバック出来る環境(具体的には食事後)で行う必要があると思います。

これは食事の場をあたかも即興的な演奏の「セッション」とする、私にとってリフレーミングされた捉え方でした。

アンケート結果紹介

また、今回のレストランについて江六前さんが実施してくれたアンケートによると、5点満点の評価で

「伊勢の文化や食材に、以前より興味を持った」:全員が5点満点
「生産者による食材説明は楽しめた」:平均4.8点
「また今度伊勢に遊びに来たいと思った」:全員が5点満点

という非常に良いインプレッションをもらいました。今回の試みは成功であったと言えるのではないでしょうか。(回答数n=5人)

考察

ここからは私の考えになります。まず、伊勢という土地はこだわりを持った生産者さんと食材に富むことを体感できました。また伊勢に来たときに訪れたい場所やリピート買いしたい食材ができました。オンラインの実験についても、お客様が満足されるオペレーションに落とし込めたことから、この様なセッションは食材や食文化について、楽しみ・理解を深めてもらえる、そして価値を持つという事が言えると思います。

課題としては、お客様からの反応を生産者さんに返すまでを現場のオペレーションにマッチするように組み込むこと。生産者さんや現場に生じる負担を減らすことです。

料理人さん・お客様とセッションすることで、生産者さんは食を作り届ける喜び・やりがいを増したり、どんな味わいに育てるかのヒントをもらう機会が作れます。一方で、今まで不要だったITのリテラシー、プレゼンやエンターティナーの技術も要求され悩まれるかもしれません。生産者さんのご意見も伺いたいです。

もしこの仕組みを平常営業に適応すると考えると、生産者さんはリクエストに応じて一晩に何回もZOOM出演することは大きな負担でしょう。できるだけ少ない回数で多くのリターンを得るように、例えばこのオンラインのやり取りをYoutubeでライブストリーミングとして、多くのオーディエンスが参加できるプラットフォームと連携させることができれば、レストランには行けないオーディエンスでも通販で買うことができ(ライブコマース)販路拡大の可能性はあるのではないでしょうか。いまのコロナ禍でこそ育まれるかもしれない商流かもしれません。

私のテーマの「共食」に立ち返って見ても、食材を分配する方々の幸せ向上に貢献することは有意義であり、機会を改めて、オーディエンスを巻き込んだ規模の実験を計画したいと思います。改めて報告しますので、ぜひスキ/フォロー頂けますと嬉しく、励みになります。よろしくお願いします。

今回は以上です。最後まで読んで頂きありがとうございました。


写真提供:村川荘兵衛さん 江六前一郎さん

今回のレストラン運営を推進、ご協力頂いた皆様に感謝いたします。ありがとうございました。

※本投稿は株式会社デンソーデザイン部の自主研究活動であり、
弊社の開発案件や事業をご紹介するものではありません





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