「遺骨の正体は」


私の彼女の名前は桜子という。彼女は300kgを超える巨大な女で、自宅から動けない。会うときはいつも、私が彼女に会いに行く。そんな桜子が死んだという知らせが、桜子の母親から伝えられた。
私はショックだった。桜子の笑顔を思い出すと泣けてきた。桜子はまだ自宅にいた。母親は医者なので病院には連れて行かず死亡判断をしたそうだ。「なぜ病院に連れて行かなかったのです」と私は若干母親を非難した。「ごめんなさい、あまりに突然なもんだから、朝起こしても動かないので脈を測ったら、もう、死んでいたわ」そういって泣くので、私は何も言わなかった。しばらくして、葬儀屋がやってきた。桜子の死体は男6人かかりで持ち上げられ(もちろん私も加わった)葬儀屋が引き取った。私は泣きに泣いた。母親はお茶を出してくれた。それを飲みながら桜子との思い出を語った。桜子はいい子だった。いい子だからこそ、ストレスを貯め、そのストレスを飲食物で晴らしていた。桜子は本当にいい子だった。私は彼女が好きだった。彼女の笑顔が。そんな話をすると母親はまた、泣きだした。そこに
父親がやってきた。この父親は桜子の実父ではなく再婚相手らしい。この再婚相手の父と桜子の母親との間に先月子供が生まれたばかりだった。父親の目は血走っていた。「明美がいない」と父親は叫んだ。「ええ!」と母親も叫んだ。どうやらその赤ん坊がいなくなったらしい。赤ん坊が一人でに消えるはずがない。しかし部屋中探しても赤ん坊は見つからない。
私は2人が騒いでいる間、ただぼんやり座っていた。しかし事態は大ごとになっていた。警察が来て、捜索した。けれどもいない。おかしい。警察はもちろん、父親と母親を疑った。しかし近所の人が私の来る1時間前に、父親と母親が明美を抱いて部屋に入るのを見ていると言うのだ。これはどうにもおかしい。私が来ている間、赤ん坊を亡き者にした?いやしかしそれはものの1時間くらいのもので、父親はその間、家から出ていないのだ。では、赤
ん坊はどこへ消えたのか?警察は家の庭や、下水道などを調べつくしたが、赤ん坊は見つからなかった。
後日、桜子の密葬が行われた。私も出席した。棺に彼女への手紙をつづった。母親はメスを棺に入れると言って聞かなかった。「あの子は医者になるはずだったの!あの世でこのメスを使ってもらうの!」そう喚いた。火葬場の職員もあまりに叫ぶので面倒になったのか、「ご遺体になんらかの不備が出るかもしれませんよ」といいしぶしぶ承諾した。桜子の遺体はその体の大きさの分時間をかけて、しかし脂でもってよく燃えた。火葬場の職員は遺骨を見て驚いた。なんと、人間の頭蓋骨が2つ出てきたのだ。よく見ると人間の赤ん坊の骨がゴロゴロ出てくるではないか。場は騒然とした。一体その遺骨はいなくなった明美の物だったのだろうか、それとも、もしかしたらだが、私と桜子の娘だったのだろうか。棺にはメスが2本残されていた。母親が棺にメスを何本入れたのか、私は見ていなかった。


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