短編ホラー小説 アナタの後ろに・・・
最近、オレには悪いことが続いている。一週間前には、二年間も付き合った彼女に振られたし、三日間の出張を終えて会社に出勤すると、会社が倒産したことを知った。『二度あることは三度ある』とはよく言ったもので、傷心旅行のため空港に向かう途中、交通事故に遭ってしまった。命に別状はなかったものの、左手を骨折して救急車で運ばれた。結局、乗る筈だった飛行機には乗れずに、旅行もキャンセルすることになった。
骨折以外の自覚症状は無いが、念のため検査入院することになった。病院には、大学時代からの友人が見舞いに来てくれた。「連絡をもらった時には、驚いたぜ。お前最近、不運続きだったから、てっきりダメだと思ったよ」と冗談交じりに友人が言った。オレは「悪運が強いんだよ」と言い返した。「こんなに悪いことが続くと、何だか気持ち悪いなぁ。一度神社でお祓いでもしてもらったらどうだ」と友人が真面目な顔で言った。「オレは、そんなことは信じないタイプだから、お祓いなんかには行かないよ」。
「それじゃあ、占い師に話を聞いてみるのはどうだ。”よく当たる占い師”というのがいるのを、最近付き合い始めた彼女から聞いたことがあるんだ。俺が金を払ってやるから、厄払いの意味で退院したら行ってこい」と半ば強制的に話がまとまった。本当にこういうものには興味が無いのだが、友人の行為を無にすることも出来ないので、渋々行くことにした。
いまオレは、友人からのメールに書かれた住所にいる”よく当たる占い師”のいる場所を目指している。オレは、ある理由があって幽霊や悪霊などのスピリチュアルなものは一切信じていない。それはオレの過去のトラウマが原因なのだが・・・。スマホのナビを頼りに、ぼんやりと考えながら歩いていると、目的地らしい場所に辿り着いた。
その場所は想像していたのとかなり違う明るい雰囲気で、まだ午後7時過ぎという時間のためか、会社帰りの若いOLや学校帰りの高校生や大学生で賑わっていた。アラサーのオレにはちょっと場違いな雰囲気に、少し気後れした。その場所には、9部屋の個室があって、各部屋で若者受けする星占い・タロット占い・水晶占いなどが行われていた。また、古典的な手相占いなどもあるようだった。
それぞれの部屋には順番待ちの数人の客が列を作っていたが、オレがこれから行く占い部屋は、完全予約制なので予約時間の1分前にスンナリと入室できた。部屋に入ると、一瞬その異様な雰囲気に固まったが、部屋の中央には小さなテーブルを前にした50歳前後のオバサンが座っていた。オバサンはオレにニッコリと話しかけた。「まずは椅子にお座りください」と言って、オレの左手をチラ見した。「最近、何か不幸なことがありましたか?」とオバサンが聞いてきた。オレは「さっそくコールド・リーディングが始まったな」と内心思った。
コールド・リーディングというのは、占い師などがよく使うテクニックで、占う相手の外観を観察したり、何気ない会話を交わしたりすることで相手のことを”さもわかっているように”言い当てる話術や観察法のことだ。「やはり、そう来たか」と思ったが、顔の表情には出さないように努めた。「しばらく、話に付き合ってみるか」と覚悟を決めた。
オバサンは、世間話を装いながら、言葉巧みにオレの近況をそれとなく探ってきた。オレは気付かない振りをして、最近起こった出来事を正直に話した。一通り話を聞いたオバサンは急に深刻な顔をして、「ところで、あなた最近お墓参りしてるの?」と聞いてきた。「確か、3年前の法事の時に祖父のお墓に参ったのが、最後だと思います」とオレが告げると、「原因はそれですよ!」とオバサンが勝ち誇ったように言った。
オバサンが言うには、オレの背後には何代か前の御先祖様が見えるらしい。その御先祖様は、子孫が墓参りを蔑ろにしているので、警告を与えているらしいのだ。オレから言わせれば、アラサーで墓参りをきちんとしている人は皆無だろうし、ましてや、子孫繁栄を願うだろう御先祖様が子孫に禍を与えるのは以ての外だ。
オバサンは、御先祖様の供養だと言って、しきりと”霊力の高い壺”や”パワーストーン”を勧めてきたが、全てを丁重にお断りした。最後は、「買わないと後悔しますよ」と脅しのようなことを言ってきた。オレは「自分に非があるのなら、甘んじて受け入れますよ。ところで、アナタの後ろにいる黒装束の人は誰なんですか?」とオバサンに言った。オバサンは後ろを振り向いて、誰もいないことを確認すると、「な、何を言ってるんですか・・・」とかなり慌てた様子でオレに文句を言った。
実はオレには、死期が近い人に遭うと黒装束の人が見えるという特殊能力があった。誰にも言っていないが、祖父が病気で入院した時もその男が見えた。あの占いの後、”よく当たる占い師”が亡くなったことを風の噂で聞いた。
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