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《分割版#3》ニンジャラクシー・ウォーズ【ストレンジ・アイデンティティ・オブ・ザ・ストレンジャーズ・エンペラー】

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◆#3◆

「エット……タダイマ」

 リアベ号の停泊地点に戻って来たハヤトは、鹵獲されたシュート・ガバナスをおそるおそる見上げた。足を縮めた宇宙スパイダーめいた機体が、地上ギリギリに浮遊している。「おう、遅かったな」その陰から歩み出たのはパイロットトルーパー!「アイエッ!?」

 反射的にカラテを構えるハヤトに、パイロットはヒラヒラと手を振った。「よせやい。俺だよ」リュウの声だ。背後からバルーが現れ、肩に担いだトルーパーをどさりと放り投げた。ラグドールめいて転がる全身は黒いアンダースーツにくまなく覆われており、素顔は判然としない。

「死んでるの、そいつ」「知らん。リュウが身ぐるみ剥いでたらいきなりブッ倒れやがった」バルーは肩を竦めた。「目ェ覚ましたら面倒だ。適当に縛っとけ」パイロット姿のリュウが言った。「センセイとガキ共はどうした、ハヤト=サン」「大丈夫、無事に帰ったよ。リュウ=サン達にお礼を言っといてってさ」

「上等だ。俺の頼もしさがバッチリ彼女にアピールできたッて寸法だな」リュウはひらりと跳び上がり、シュート・ガバナスのコックピットに身を沈めた。「オイ、何する気だリュウ」バルーが眉をひそめる。「別に。こいつの乗り心地を試すだけさ」「変装までしてか」

 リュウは聞こえぬふりでハッチを閉じた。「オイ相棒!」「リュウ=サン!」ZOOOM!「「グワーッ!」」反重力の渦が砂塵を巻き上げ、バルーは引っくり返った。「リュウ=サン!」クロスガードの隙間からハヤトが見上げる中、機体がレーザーステーを開きながら上昇していく。

 ZOOOOOM! シュート・ガバナスは急激に速度を増し、たちまち青空の中へと消えていった。「GRRR……リュウの野郎、妙な事考えてなけりゃいいが」「妙な事って?」「ン、ンン。まあな」立ち上がったバルーが、砂塵を払いながら曖昧に咳払いした。

 球形のコックピットは、リュウの逞しい体躯にはいささか窮屈だった。余計な箇所に触れぬよう、慎重に手を動かして計器類を探る。ピボッ。UNIXモニタに航宙図が表示された。さらに操作を繰り返し、より深層のデータへ。「ノープロテクトじゃねェか。ツイてるぜ」

 プロコココ……ピボッ。『グラン・ガバナス現在座標な』。輝く十字ポインタとアスキー文字が航宙図に重なった。「ビンゴ! 面白くなってきやがった」フルフェイスメンポの下でほくそ笑み、リュウは操縦桿を傾けた。ニンジャアーミーの母艦へ向けて。ZOOOM……!

 だがリュウは気付いていなかった。彼の足元で脈動する白いガス体の存在に! ナムサン! 身ぐるみを剝がされながらパイロットのアンダーメンポ呼吸口から流れ出したその気体は、リアベ号の誰にも知られぬまま機内に潜り込んでいたのだ。その振舞いを見た者は誰であれ、高度な知性を感じずにはいられなかったであろう!

 ゴウンゴウンゴウン……シュート・ガバナス船外モニタの画角を、グラン・ガバナスの巨体が埋め尽くした。開放型3Dカタパルトを左右に抱えたシルエットは、双子の宇宙巨人のカンオケの如し。「見れば見るほどデカい図体だな」リュウは呟き、そろそろと接近コースを取った。

『ザリザリ……こちら管制室。第196偵察小隊の帰還を確認』グラン・ガバナスからの通信が入る。『1機のみか』「僚機はリアベ号との戦闘で撃墜された」最低限の応答を返しつつ、リュウはコンソールに目をやった。識別信号は正常に送信中。「着艦許可求む。ドーゾ」

 ノイズ交じりの沈黙の中、リュウは操縦桿を握る手に力を込めた。少しでも疑いのそぶりが見えた瞬間、全力で離脱せねばならぬ。追撃は苛烈なものとなろう……『着艦を許可する。左舷第8デッキへ侵入せよ』「了解ドーゾ」息を吐き、カタパルトに機体を滑り込ませる。

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 巨大な長方形の空間内には、無数のシュート・ガバナスが係留ハンガーにぶら下がり、休眠する宇宙スパイダーの巣穴めいて多層を成していた。『指定のハンガーに着艦せよ』「アイ、アイ」リュウはモニタのワイヤーフレーム表示に目をやり、十字ポインタで示されたハンガーに機体を寄せた。

 ガゴン! キュイイイ……ガゴン。ジョイントが機首を咥え込んだ。ステーを閉じた機体がハンガーごと90度垂れ下がる。着艦完了。リュウは垂直になった操縦席から抜け出し、キャットウォークめいて張り渡された金網通路に降り立った。宇宙ニンジャの身体能力に依存した簡素な着艦システムだ。

(さァて……何をしでかしてやろうかねェ)

 軽い足取りで歩き出したリュウの背中に、「オツカレサマ」何者かの声が飛んだ。「アイエッ?」反射的に振り向くと、パープルラメ装束の女宇宙ニンジャが通路に立っていた。「アー……ドーモ、クノーイ=サン。只今帰還しました」リュウは内心ひやりとしつつ、因縁浅からぬ女宇宙ニンジャにオジギした。

「ドーモ。コーガー団長が報告を聞きたいそうよ」「団長ォ?」リュウは思わず聞き返した。「いや、もとい、団長閣下でありますか」「アラ、嬉しくないの? 一般トルーパー風情が団長閣下に直接お目通りできるのよ」クノーイは皮肉な口調で言った。「それとも、報告したくない出来事でもあったのかしら」

「いやァそんな! 滅相もない……であります」「ならさっさと来なさい。閣下をお待たせしないで」クノーイは踵を返した。(……まァいいやな。ニンジャアーミーの親玉のツラ、ひと目拝んどくのも悪かねェ)リュウは腹を決め、女宇宙ニンジャに随行した。その後ろをガス体が音もなく這ってゆく。

 ガゴンプシュー……エレベーターの隔壁ドアが開き、クノーイはグラン・ガバナスのブリッジに足を踏み入れた。

 続いて入室しつつ、リュウは周囲に素早く目を走らせた。整然と並ぶコンソール卓にブリッジクルートルーパーが直結し、艦内各所をオペレートしている。見たところカラテは脆弱。事を構えても脅威にはなるまい……「何をモタモタしてるの」「アッハイ、スミマセン」ヘコヘコとクノーイに追いすがる。

「例のパイロットが出頭しました、コーガー団長閣下」跪くクノーイ。「ウム」漆黒のプレートアーマーと黒マント、大角ヘルムに身を固めた宇宙ニンジャが、慌てて膝をついたリュウを艦長席から見下ろした。傍らに立つはイーガー副長。背後の壁面に飾られた黄金ドクロレリーフが威圧的に輝く。

 しばし沈黙が流れ……「カーッカッカッカ!」コーガーは唐突に哄笑した。「ハッハハハハ!」「ホホホホホ!」イーガーとクノーイも追従めいて笑い声をあげる。「ドーモはじめまして! ニン・コーガーです! 弟が大変お世話になっております!」不審! 一般兵士相手とは到底思えぬ他人行儀なアイサツ!

「イーガー!」「心得た」弟宇宙ニンジャが歩み出し、軍用マントの紐をニヤニヤと解き始めた。フルフェイスメンポの内側でリュウは眉をしかめた。何かヤバイ。「アー、申し訳ありません。アイサツを返したいのはやまやまでありますが、生憎IDナンバーを失念しまして。確認しに兵舎だかドコだかに戻っても……」

「イヤーッ!」イーガーが振り上げた右手の中でマントが縒り集まり、瞬時に電磁鞭へと変形した。「イヤーッ!」リュウは側転回避! 空を切った鞭がコンソール卓を打つ! BBZZZZTTT!『ピガーッ!』直結ブリッジクルーが昏倒するが、イーガーは攻撃の手を緩めない。「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」

「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」リュウは連続側転回避! BZZZTTT! BBZZZZTTTT! コンソールが火花を散らすたび、『ピガーッ!』『ピガガーッ!』ブリッジクルーがバタバタと倒れてゆく。その一人のメンポ呼吸口にガス体が潜り込んだ。『ピガッ』全身から煙が湧き出し、新たな宇宙ニンジャ装束を生成する。

「ピ、ピガッ……サイバネ者の、のの乗っ取りは、なかなか、はああああ、ああ、まあこれで良かろう」

 痙攣が収まり立ち上がった五体は、鈍色装束とエアーダクトめいたフルフェイスメンポに覆われていた。「先程はドーモ、リュウ=サン。ケムリビトです」カラテを構える。「アイサツは結構。君とは既に面識があるからね」「俺は知らねェな! イヤーッ!」リュウは宇宙スリケンを投擲!

「フン」ケムリビトは僅かに首を傾けて躱した。「理解できなくても無理はないが、君をここまで誘き出したのは私なのだよ。パイロットトルーパーの身体を使って……」「イヤーッ!」「イヤーッ!」両者のチョップが交錯し、ケムリビトが飛び離れた。「やれやれ。聞く耳持たずか」

「まだ殺すでないぞ!」「承知しております閣下。私が立案した作戦ですので」ケムリビトは頷いた。「本艦にリアベ号乗組員を誘い込み、ナガレボシ=サンの居所をインタビューする作戦、順調に進行中です」「その前に手足のひとつふたつ落としてもよかろうな! イヤーッ!」イーガーが電磁鞭を横薙ぎに振るう!

「勝手に話進めンなテメェら! イヤーッ!」リュウはイーガーの間合いに飛び込んだ。ギリギリまで身を沈め、電磁鞭の下を潜り抜けて艦長席へ!「……」コーガーは腰を落とし、軽く開いた右手を宇宙ニンジャソードの柄に添えた。左手は鞘に。そして!

「イヤーッ!」

 イアイ! 空間が水平に切り裂かれた。『『『ピガガガーッ!』』』コーガーの殺気にあてられ、刃の延長線上にいたブリッジクルーが扇状に倒れた。だがその時、リュウは既にコーガーの斬撃を高々と飛び越えていた。「イヤーッ!」脱ぎ捨てられたパイロット装束が空中で翻る!

 コーガーの背後に着地したのは、新たなる真紅の宇宙ニンジャだった。「銀河の果てからやって来た、正義の味方」カラテを構え、ヒロイックなアイサツを繰り出す。「ドーモ、ナガレボシです」「……オヌシ、できるな」ソードを振り抜いたザンシン姿勢のまま、コーガーが言った。「なるほどイーガーも手こずろうて」

「マッタ」ケムリビトが口を挟んだ。「私が連れて来たのはリュウ=サンの筈。なぜ一足飛びに君がここにいる?」ハヤガワリ・プロトコルを順守した宇宙ニンジャの正体は99.99%秘匿される。「作戦の齟齬を検証せねば」「もうよい」コーガーが遮った。「フェイズ3は中止せよ」「……不本意ですが、団長のご命令ならば」

 コーガーはソードを収めて立ち上がった。「オヌシの目的を言うがよい、ナガレボシ=サン」「そうさなァ」ナガレボシは腕組みした。「せっかくここまで来たんだ。皇帝陛下にでも会わせてもらおうか」「ほう、それは」コーガーの目がカミソリめいて細まった、その時。

『ムッハハハハハ! それはチョージョー!』

 黄金宇宙ドクロレリーフの両眼が輝き、「ハハァーッ!」コーガーは身を翻してドゲザした。『そ奴が例の愉快な男か』「ハハァーッ御意! これなる宇宙ニンジャ、ナガレボシ=サン! 陛下にお目通りを願っておりまするーッ!」

「あれが陛下ねェ」ナガレボシは黄金ドクロを見上げた。「アンタらガバナスは誰も皇帝の顔を知らねえッて噂、本当かい……」「アイサツせよ!」イーガーの叫びをナガレボシは一笑に付した。「通信機にドゲザしろってか? 地球連盟の小役人でも回線越しのオジギが精々だぜ」「貴様ァ!」

『やめよ』「アイエッ!?」皇帝の声に、イーガーは電磁鞭を振り上げたまま凍りついた。『クルシュナイ。とくに謁見を許す。ムッハハハハ!』ドクロ両眼の点滅が幻惑的に早まった。「アイエッ⁉」ナガレボシはよろめいた。視界が赤く染まり、グルグルと回り出す。

「グワーッ!」不可思議な力場に囚われた全身は、もはや指一本動かす事も叶わぬ。『ムッハハハハ! ムッハハハハハ!』機械音声の哄笑とUNIX両眼の点滅が、ナガレボシの視聴覚を埋め尽くした。細胞ひとつひとつを引きちぎられるような苦痛!「グワァァァァァァーッ!」

 ……静寂が戻ったブリッジでコーガー達が面を上げた時、黄金ドクロの両眼は既に光を失っていた。ナガレボシのいた場所には病んだ虹色のパーティクルが漂い、やがて跡形もなくエテルに溶けていった。

【#4へ続く】


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