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《分割版#2》ニンジャラクシー・ウォーズ【ストレンジ・アイデンティティ・オブ・ザ・ストレンジャーズ・エンペラー】

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【#1】←

◆#2◆

「ガバナス懲らしめるべし! イヤーッ!」

 デーラ人の少年が棒切れを振りかざし、地球型人類の少女に飛びかかった。「チョコザイナ! イヤーッ!」紙製のニンジャトルーパー・オメーンを被った少女がDIY木刀で迎え撃つ。「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」チョーチョー・ハッシ!

「待てーッ!」「アイエエエ!」より幼い猿人少年とオメーン少女のコンビが、その周囲を駆け回る。少女は身を翻し、想像上の宇宙マシンガンを構えた。「DADADADA!」口真似だ!「イヤーッ!」少年がその場でクルクルと回転した。宇宙ニンジャの側転あるいはバック転回避をイメージしているに違いない!

 無邪気な立ち回りの果てに、「「ゴメンナサイ!」」トルーパー役の少女は暗黙の勧善懲悪メソッドに則って降参した。「「「ヤッター!」」」小さなヒーロー達がバンザイする。「じゃあ次はアンタ達がガバナスね」「エーッ? 嫌だよカッコ悪い」「嫌じゃない! ジュンバン!」「「アイエエエ?」」

 年上の少女がオメーンを手に少年達を追い回す。岩陰から様子を伺うリュウが苦笑した。「あてが外れたな、相棒」「だが見ろよ、カワイイもんだぜ」バルーが目を細める。「開拓コロニーの子かな」ハヤトが訝しんだ。「だろうな。ガバナスに支配されたコロニーじゃ、自由に遊ぶのもままならねェと見える」

「さあ皆さん! 運動の時間はオシマイ。ランチにしましょう」黒髪の女性が手を叩き、子供達を呼び集めた。「「「「「ハーイ!」」」」」彼らは車座になり、スチームド宇宙ポテトの盛られた木皿に手を伸ばした。「「「「「イターダキーマス!」」」」」アイサツもそこそこにかぶりつく。

「オイシイ?」「「「「「ハーイ、センセイ!」」」」」一人一個きりのポテトを嬉々として貪る子供達。見守る女教師の微笑には陰りがあった。バルーとリュウが囁き合う。「見ろよリュウ。育ち盛りの子供達にあの食事は酷だぜ」「確かに、美人にあんな顔させとく手はねェな」

「今日の昼メシは」「宇宙チキンの丸焼き、焦がしショーユがけ」「上等だ、持って来い。俺達ゃガバナスの軍用レーションでも齧ろうや」「あの固形燃料をか? GRRRR……」バルーは喉を鳴らして笑った。その広い背中をリュウが軽く叩く。「頼んだぜ」「おう」

「ドーモ、はじめまして。リュウです」「!」ハッと立ち上がる女性に、岩陰から歩み出たリュウは最上級の笑顔を見せた。「怪しい者じゃありません。自由と平和のために命懸けでガバナスと戦う、ケチな宇宙の男ですよ」(ハァーッ……)(ンだよその溜息は)隣に立つハヤトを笑顔で小突く。

「ドーモ……はじめまして。アグネです」女性は用心深くアイサツを返した。「アノ、どういった御用でしょう。私達は近くのコロニーから課外授業に来ただけで」「なァに、単なる通りすがりです。しかしこれも何かの縁。よろしければ、ご一緒にランチでもと思いましてね」

 リュウはタイミングを見計らい、芝居がかった仕草で背後に親指を立てた。その瞬間、「WRAHAHAHA! ヘイオマチ!」バルーが岩山を越えて姿を現し、脂したたる宇宙チキンの鉄串を聖剣めいて頭上に掲げた。「焼きたてだぜェ!」「「「「「ワースゴーイ!」」」」」子供達の目が輝いた。

 ZOOOOM……! 帝国軍制式戦闘機、G6-Ⅱ型「シュート・ガバナス」の宇宙スパイダーめいた機体が、第1惑星シータの大気を切り裂いた。三機編成の偵察飛行小隊だ。『ザリザリ……地表に微弱なエネルギー反応。リアベ号の可能性高し。ドーゾ』僚機からの通信が隊長機のコックピットに響く。

「周囲の捜索に集中しろ。我々のターゲットはあくまでナガレボシ=サンだ」上級パイロットの肉体に宿るケムリビトが答えた。『ですが、あの船を破壊すれば間違いなくかつてないキンボシに』「貴様らは命令通りに動いていればいい」ケムリビトの返答はにべもない。

「オイシイ!」「お肉なんて久し振り!」「オカワリちょうだい!」「僕も!」

 その頃地上では、子供達が満面の笑顔で宇宙チキンを頬張っていた。「ダメよ皆さん。奥ゆかしくしなさい」困り顔のアグネに、バルーがいかつい微笑を向けた。「気にするなセンセイ。子供を食わせるのは大人の義務だ」『オマタセ、シマシタ』トントが差し出す木皿にはシュラスコめいてチキンが山盛りだ。「「「オカワリヤッター!」」」

「ホラ、センセイも」「アリガトゴザイマス。でも私の分はこの子たちに」リュウの勧める骨付き腿肉をアグネは固辞した。「最近はガバナスの食料徴収が苛烈で、給食が滞りがちなんです。今日の課外授業も人数分のポテトを調達するのが精一杯」「クソ野郎どもが」リュウが拳を掌に打ちつける。

「でもここなら、ガバナスのカリキュラムに縛られない授業ができます。この子達に本当に必要な授業が」「教科書は? 焼かれちまってンじゃねえのか」「ご心配なく」人差し指でこめかみを叩くアグネの笑顔に、リュウは感じ入った。「ハァーッ……思った通りイイ女だぜアンタ」「ハイ?」

 その時。「……来る!」ハヤトが弾かれたように立ち上がった。「ンだよハヤト=サン。こっちはせっかくイイ雰囲気で……」文句を言いかけたリュウが真顔になった。眉間に人差し指と中指を当てて空を見上げるハヤトの目は、トランスめいて異様な光を帯びていた。「何か来る……アブナイ!」

 ハヤトがこうなる時はヤバイ何かの前兆だ。リュウは彼の視線を追い、上空に宇宙ニンジャ視力を凝らした。青空の中に三つの黒点……否、機影!「伏せろーッ!」リュウが叫ぶと同時に、BEEEEAM! 緑色の破壊ビームが閃いた。「「「アイエエエ!」」」子供達が悲鳴をあげる!

 ゴウ! 突風を巻き上げ、三機編隊が頭上を掠めた。「確認した」隊長機のケムリビトが言った。「男が三人、ドロイド一体。あれがリアベ号の反逆者どもか」悠然と機体を反転させる。「奴らにはもう少し肝を冷やしてもらおう」『『ハイヨロコンデー!』』続く僚機!

「あの陰へ!」アグネが指差す先にはトーチカめいた大岩。「「「アイエエエエ!」」」宇宙レミングスめいて駈け出した子供達の背後に、シュート・ガバナスの機影が迫る。「クソッ!」「WRAAAGH!」「させないぞ!」リュウ、バルー、ハヤトが口々に叫び、飛び出した。

 BEEEEAM! 隊長機のビーム機銃が地上を薙ぎ払った。「イヤーッ!」リュウは両脇に少女を抱えて跳躍!「走れ!」着地と同時に子供達を岩陰へ押しやる!「「アイエエエ!」」「テメェらは隠れてろ! 顔出したら死ぬぞ!」「「アイエエエエエ!」」

 BEEEEAM! 僚機Aのビーム機銃が地上を薙ぎ払った。「WRAAAAGH!」バルーは少年猿人とトントを抱えて跳躍!「坊主を連れてけポンコツ!」着地と同時にトントを岩陰へ押しやる! トントは少年の手を掴んで車輪疾走!『イッショニ、カクレマ、ショウ』「アイエエエ待ってよ!」

 BEEEEAM! 僚機Bのビーム機銃が地上を薙ぎ払った。「イ、イヤーッ!」ハヤトは最後の少年猿人を両腕で抱えて跳躍! 岩陰までの距離が足りぬ!「アイエエエエ!」「ダイジョブ! 僕を信じて!」ハヤトの瞳が決断的に光る!「イイイヤァァァーッ!」

 着地の瞬間、ハヤトは宇宙ニンジャ瞬発力を発揮して足元の岩を蹴った。落下エネルギーを逆利用して再ジャンプ。大岩を飛び越えて二度目の着地を果たす。(……ヤッタ!)ハヤトは少年を降ろし、密かにガッツポーズを作った。少年が目をぱちくりさせた。

「アグネ=サン!」リュウが色付きの風となって飛び出し、白い手を掴み寄せた。「ンアーッ!」BEEEEAM! 一瞬前まで彼女がいた空間をビームが切り裂く。「ア……アリガトゴザイマス。あの子達は」「もちろん全員無事だぜ」リュウは抜かりなく親指を立てた。

 BEEAM! BEEEEAM! ビームが大岩を削り取る。「「「「「アイエエエエ!」」」」」身を寄せ合って震える子供達を、アグネは精一杯掻き抱いた。「ダイジョブ。ダイジョブよ皆さん!」「「センセイ!」」「「「アーン!」」」BEEEEEAM!

「……バルー、トント」リュウが立ち上がった。「あのクソ蠅どもを叩き落としに行くぜ」「ガッテン」バルーはトントのボディを小脇に抱えた。「ハヤト=サンはここに残れ。センセイ達を頼む」「ハイ!」「悪ィな。お前の分までブッ殺して来るからよ」リュウは狂暴な笑いを浮かべた。

「狙いが近すぎるぞバカ共め。威嚇射撃も満足にできんのか」機体を旋回させながら、ケムリビトは冷たく言い捨てた。『スミマセン!』『次こそはご期待に沿います!』パイロットトルーパーの恐怖と焦りは回線越しでも明らかだった。ニンジャオフィサーの機嫌を損ねれば命の保証はない。

「ガキや女はともかく、リアベ号の連中は殺すな。私の作戦に支障が……いや待て」ケムリビトは言葉を切り、モニタの倍率を上げた。「どうやら連中、挑発に乗ったようだ」拡大されたリアベ号の映像が、両翼の係留アームを展開しつつあった。

 ガゴンプシュー……広がるアームの先端には、超小型宇宙戦闘機が1機ずつ接続されている。左のコックピットにリュウ、右にはバルー。『ハッシン、ジュンビ、ヨシ』リアベ号の船内では、自身を船体と直結したトントが「OK」の文字を顔面に点滅させていた。

「「Blast off!」」

 KBAM! KBAM! エクスプロシブ・ボルトが炸裂し、リュウとバルーの2機を弾丸めいて射出した。「アッ!」デーラ人の少年が岩陰から身を乗り出し、興奮して空を指した。「ダメよ! 隠れてなさい」「センセイ見て!」鋭角的な二つの機影が低空飛行でシュート・ガバナスに肉薄する!

『リアベ号のブンシンを確認!』『敵機急速接近中!』僚機の報告に、「作戦通りだな」ケムリビトは満足げに頷いた。「では次の命令だ。貴様らは連中に撃墜されろ」『アイエッ!? それはどういう』ZAPZAPZAP!『アバーッ!』KABOOOM!

 問いただす暇もなくリュウ機のパルスレーザーが閃き、僚機Aを爆発四散せしめた。「ハッハー! ざっとこんなモンよ!」コックピットでリュウが拳を突き上げた。「モタモタしてると残りも俺が殺ッちまうぜ、相棒!」『GRRR……黙って見てろ』

 バルーは落ち着き払ってトリガーを引いた。ZAPZAPZAP! 僚機Bのレーザーステーが数本弾け飛ぶ。「アイエエエ! 援護オネガイシマス!」トルーパーBが絶叫した。『聞いていなかったのかバカめ』ケムリビトの通信音声が鼻白む。『同僚は命令どおり撃墜されただろう。見習え』非情!

「アイエエエ! 嫌です死にたくない!」バーティカルループで振り切ろうとする僚機Bに、バルー機が食らいつく。「GRRRR」宇宙猿人耐G力で加速に耐え、UNIXターゲットスコープのアスキー機影を睨み……ZAPZAPZAPZAP!『アバーッ!』KABOOOOM!

「ヤッター!」「WRAAAGH!」地上の子供達が歓声をあげて飛び跳ねた。「スゴイね! 3対2なのに!」少女の一人が興奮の面持ちでハヤトを振り返る。「だろ? 凄腕なのさ、リュウ=サンとバルー=サンは」ハヤトは自分の手柄のように胸を張った。

「作戦は順調だ。これよりフェイズ2に入る」ケムリビトは通信回線のスクランブルを切り……「アイエエエ降伏します!」作り声で叫んだ。「ア?」リュウは虚を衝かれ、トリガーから指を放した。『もう交戦意志はありません! 何でも従います! だから撃たないでェーッ!』

「アー……オーケー。わかったから高度を維持しな」『アイエエエ死にたくないーッ!』ひび割れた絶叫がコックピットに響く。「うるせェな! オーケーっつッてんだろ!」うんざりと叫び返すリュウは完全に毒気を抜かれていた。『コイツをどうする? 相棒』バルーの通信音声も戸惑い気味だ。

「そうさなァ」リュウは沈思黙考し……やがて口元に悪童じみた笑いを浮かべた。愛機をシュート・ガバナスの左舷につける。呼吸を合わせてバルーが右舷へ。「まずは着陸してもらおうか。妙なマネしたらその場でブッ殺すぜ」『アッハイ! 言う通りにします!』

「逃げようなどと思わん事だ」ZAPZAPZAP! バルーがレーザーを空撃ちした。「アイエエエエ! ヤメテ! ヤメテーッ!」ケムリビトは偽りの悲鳴をあげながら、機内UNIXを操作してデータプロテクトを解除する。その手つきは、罠を仕掛ける熟練の狩人めいて滑らかだった。

【#3へ続く】


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