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《分割版#2》ニンジャラクシー・ウォーズ【メッセージ・フロム・ジ・アース】

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◆#2◆

「バカな! 地球連盟は僕らを見捨てるって言うのか!」ハヤトは椅子を蹴倒して立ち上がった。「僕らの祖先は地球からの移民じゃないか! 同じ血が流れてるんだ! なのに……!」「確かに納得いかねェな」収穫小屋のテーブルに肘をつき、宇宙バッファロー最後の一切れを齧りながら、リュウが言った。

「何百年だか前に地球軍はガバナスに勝ってンだろ? いまさら何ビビってンだ」「……これを見て下さい」ミサはUNIXタブレットを卓上に置き、異星の荒野に広がる要塞都市の映像を映し出した。「これは地球連邦……つまり今の地球連盟の最高機密。当時のガバナス帝国首都、惑星ジルーシア大要塞での戦闘記録です」

 ノイズ混じりの星空を航行するのは、地球文明圏の守護神・テラグローリー級宇宙艦隊。艦載機テラ・スイフトが編隊を組み、ZAPZAPZAP! 地上のガバナス要塞に機銃掃射を浴びせかける。地上のレーザー砲台が応戦、上空を爆炎で埋め尽くす。BRATATATATA! KABOOM! KABOOOM!

 ピボッ。トントが横からマニピュレータを伸ばし、画面の一部を拡大した。『コノ、ヒトタチハ、ダレデス、カ』要塞周囲の荒野を、数千の群衆が逃げ惑っている。素朴な宇宙民族衣装の老若男女。明らかに非戦闘員だ。「ジルーシアの先住民よ。ガバナスから母星を取り戻すため、抵抗を続けていたの。でも……」

 カメラが切り替わり、DOOOM! テラグローリーの一艦が艦首を切り離した。「マジか」リュウの顔色が変わった。巨大なヤジリめいた艦首はイオン・エンジン噴射で加速、対空砲台群に着弾した。その瞬間、閃光! KRA-TOOOOM! ドーム状の爆炎が衝撃波と共に広がり、地上を薙ぎ払う!

「リュウ=サン、これは……」「ハイパー・ニューク・ミサイルだ」青ざめるハヤトに、リュウが苦い顔で答えた。「まさか、実戦でブッ放したアホがいたとはな」爆発に巻き込まれたジルーシア人は一人として……いや、塵ひとつとして残ってはいまい。「酷いもんだ」バルーが唸るように言った。

「見て」ハヤトが画面を指差した。ZMZMZM……爆心地の程近く、瓦礫に埋まる地面が一直線に割れ、ゆっくりと左右に開いてゆく。その下から現れた大空間は、シェルターを兼ねた地下格納庫だった。ゴウンゴウンゴウン……カンオケを二つ並べたようなシルエットの巨大戦艦が浮上する。

 DOOMDOOOM! グラン・ガバナス同型艦の双胴カタパルトから、戦闘機とミサイルの大群が撃ち出された。BEAMBEEAM! シュート・ガバナスの破壊ビームがテラ・スイフトを次々と撃墜、フォーメーションに穴を開ける。それを掻い潜り、ミサイルは地球艦隊の本体へ! DOOOOM!

 KABOOMKABOOOM! 迫り来るミサイルを艦砲射撃で防ぎきれず、直撃を受けたテラグローリーの一艦がぐらりと傾いた。それを待っていたかのように、ハイパー・ニュークの爆発を免れた対空監視塔群が一斉にプラズマ光を灯す。その輝きはみるみる膨れ上がり……ZAAAAP! 緋色の稲妻と化して迸った。

 ZZAAAAAAP! 稲妻が交錯し、テラグローリーの巨体を左右から貫いた。KRA-TOOOOM! 爆発四散! 幾条もの破壊エネルギーはなおも荒れ狂い、ジルーシアの暗い空をのたうち、地球連邦の誇る宇宙艦隊を無慈悲に破壊してゆく! ZAAAP! ZAAAAP! KA-BOOOM! KA-BOOOOM!

 最後のテラグローリーが燃えながら地面に激突した瞬間、艦首のハイパー・ニュークが圧壊、暴発した。KRA-TOOOOOOM……! 「これが真実の歴史です」再び現出するジゴクめいた光景に、ミサは目を伏せた。「罪なきジルーシアの人々を犠牲にしながら、地球連邦艦隊はガバナス帝国に敗北したのです」

「この戦いの後、ガバナスはさらなる凶行に出ました」ミサは新たな記録映像を再生した。DOOOM……! ジルーシアの地下サイロから離床する巨大な天体間巡航ミサイルISCМ。その向かう先は、地球の隣に浮かぶ白く美しい衛星だった。遠ざかる噴射炎が衛星の中心へと消えてゆき、そして……!

 ZGGGGGGTOOOOOOOOM! KRA-TOOOOOOOOM!KABOOOOOOOOOOM! DOOOOOM! DOOOOOOOM! DOOOOOOOOOOOOOOM!

 衛星が火を噴き、木っ端微塵に砕け散るさまを最後に、映像は終了した。「「「……」」」『ピガッ』銀河帝国の暴虐に、ハヤト達は言葉を失った。「当時のガバナス皇帝・ロクセイア12世は、地球の衛星“ルナ”を破壊して威を示し、無条件降伏を迫ったのです。返答の猶予はわずか3日」

「その後、地球がどのようにしてこの危機を脱し、ガバナス帝国を退けたのか……詳しい記録は残されていません。少数の民間人や退役軍人が、ジルーシアのレジスタンスに協力したとの不確定情報もありますが……」「“リアベの勇士”だ」「え?」ハヤトの呟きにミサが訝しんだ。

「聖なるリアベの実に導かれてガバナスと戦った8人の勇士だよ!」身を乗り出すハヤト。「アノ……ハヤト=サン、その話は私も知ってるわ。でもあれは単なる民間伝承で」「違うんだ! 僕らはいま、本当にリアベ号に乗って……グワーッ!」リュウの逞しい腕が伸び、背後からヘッドロックめいてハヤトを締め上げた。

(ヤメロ! 話がややこしくなるだろうが!)(ホントの事だろ!)小声でもみ合う二人をよそに、バルーが口を開いた。「つまりアンタは、遠路はるばる俺達に引導を渡しに来たんだな」声音に怒りが籠る。「先程お伝えした通りです」ミサは苦しげに答えた。「ガバナスの侵攻に対し、最高議会は不干渉の方針を採択しました」

『ニンゲン、カッテダ。ジブン、タチノ、ツゴウデ、オダテタリ、ミステタリ、スル』トントの顔面LEDプレートに「 \ / 」のアスキー文字が灯る。「GRRRR……俺達の運命もこれっきりのようだな」「死ぬまでガバナスの食い物にされるのか!」「待て待て、テメェら」悲嘆する仲間達をリュウが制した。

「そうあっさり結論を出しなさんな。地球のお偉方が腰抜けなら、そのケツを引っぱたいてやりゃいいンだよ。なァ?」リュウはミサに笑ってみせた。「でも、私には帰る手段が……」『トント、キミノ、フネ、シュウリ、シテ、アゲル』「本当に?」『カエッタラ、チキュウノ、ミンナヲ、セットク、シテ、ホシイ』

「せいぜいガバナスに見つからんよう祈るんだな」バルーが鼻を鳴らした。「途中までリアベ号で護衛しようよ」とハヤト。「ごめんだね。話を聞いてみりゃ、地球人はとんだ薄情者だ。そんな奴らの仲間を助ける義理はねえ」「ミサ=サンは別だよ! たった一人で危険を冒して、オヤジに会いに来てくれたんだ!」

「確かに容易なこっちゃねェ」リュウが同意した。「超光速航法のエネルギー消費量は、宇宙船の質量がデカいほど天文学的に膨れ上がる。だからってあんなチンケな船でここまで来るなんざ、手漕ぎボートで大海を渡るようなモンだぜ。おおかた地球連盟が予算をケチったんだろうが……」

「僕らの手で、無事にミサ=サンを帰してあげよう?」「GRRRR……だがなあ」「聞いてやれよ。ご贔屓のニュービーの頼みだぜ」「オネガイシマス」殊勝に頭を下げるミサが決め手となった。「……ARRRGH畜生! わかったよ!」バルーは宇宙ウイスキーの瓶を掴んで立ち上がった。「だが今日はもう寝るぞ、俺は!」

「行った事もない故郷でも、見捨てられると寂しいな……」

 ウシミツ・アワーの星空を見上げながら、ハヤトはひとりごちた。今頃ミサは収穫小屋で眠りについていることだろう。彼女に対するガバナスの追撃を恐れたハヤトは、自ら寝ずの番を買って出たのだった。バルーは宇宙ウイスキーを呷って、とうに小屋の別室で高鼾だ。

「……ト…サン……ハヤト=サン……」幻聴めいた微かな声が響いた。ハヤトの不可思議な時空間知覚力は、周囲の時間の流れが鈍りつつあるのを……ニューロン加速ではなく本来の意味で……感じ取った。眼前に光が凝り、何者かの実体を形作ってゆく。「諦めては駄目です、ゲン・ハヤト=サン……」

「貴女は!」ハヤトは瞠目した。完全に静止した時の中、ストレートブロンドの宇宙美女が純白の薄衣を纏い、彼の前に立っていた。「ドーモ。ソフィアです」アルカイックな微笑でアイサツする美女の頭上には、地球とガバナスいずれの文明圏にも属さぬ神秘的な宇宙帆船が、白光を放ちながら停泊していた。

 ガバナスが侵攻を開始したあの日。果敢にニンジャアーミーに立ち向かい、命を落としかけたハヤトに救いの手を差し伸べた者こそ、この宇宙美女ソフィアであった。「諦めてはいけません」ソフィアは繰り返した。「今は敵わずとも、小さな力を一つずつ集めるのです。ガバナスに打ち勝つ未来を確定させるために」

「教えて下さい! 貴女は何者ですか! なぜ僕らに力を貸してくれるんですか!」彼女に駆け寄ろうとするハヤトの肩を、「オイ」何者かが掴んだ。「放してくれ!」「オイ、ハヤト=サン!……チッ」もがくハヤトに舌打ちして、「イヤーッ!」相手はアイキドーめいて彼の身体を投げ飛ばした。「グワーッ!」

 地上に落ちたハヤトは上半身を起こし、自分を投げた相手を見た。「リュウ=サン? ナンデ?」時間の流れがいつの間にか戻っている。「目が覚めたか。立てよ」リュウは呆れ顔で手を貸した。「見張り番を代わってやろうと来てみりゃ、一人で何ゴチャゴチャ言ってやがる。ハッパとかやるクチか、テメェ?」

「違うよ! ホラ、そこにソフィア=サンが……」ハヤトが指差す先、彼女の姿は既にない。「いたんだよ確かに!」「バッカヤロ」リュウはハヤトの頭を張った。「寝ぼけてんじゃねェぞ。テメェがボンヤリしてたせいでミサ=サンに何かあってみろ、タダじゃおかねえ……ン?」

 リュウは上空の光に気づいて星空を見上げ、あんぐりと口を開けた。半透明のセイルを輝かせながら、宇宙帆船がしめやかに大気圏外へ飛び去りつつあった。「……何だありゃ」「ソフィア=サンの船さ」ハヤトが屈託なく答える。「バカ言え! あんな宇宙船がどこの星にあンだよ。おとぎ話じゃねえンだぞ!」だが現実だ。

 去り行く船をミサが目撃したならば、それがジルーシアの独自技術で建造された光子帆船の一隻であると、あるいは気付いたかもしれぬ。「……アレに乗ってンのか、例の宇宙大美人が」「奇麗な船だろ?」「まァな」リュウは肩を竦めた。「いつか俺もお目にかかりてえモンだな、そのソフィア=サンとやらによ」

「テメェは少し寝とけ。見張りは俺がやる」「待って」ハヤトはリュウを遮り、こめかみに指を当てた。「誰か来る……!」「何?」リュウが素早く周囲に目を配る。「フーン……お前、やっぱ勘がいいよ。さすがはゲンニンジャ・クランの跡継ぎってトコだ」軽口を叩きつつ、彼は状況判断した。

「行け、ハヤト=サン! ミサ=サンを守れ!」「ハイ!」ハヤトが小屋へと駆け出す。リュウは地面に耳をつけ、接近する匍匐前進音を数えた。「イヤーッ!」後方回転ジャンプ! 木の枝の上に立った彼の両手には既にヒカリ・ダマが握られている。「イヤーッ! イヤーッ!」連続投擲!

 KBAMKBAM! 炸裂する閃光が、匍匐前進中のニンジャトルーパー小隊を照らし出した。「発見されました!」「やむを得ん、突撃!」小隊長トルーパーが立ち上がり号令!「させるかよクソが!」リュウは一飛びで距離を縮め、「イヤーッ!」着地しざまに伸縮刀で斬り下ろす!「アバーッ!」正中線両断!

「イヤーッ! イヤーッ!」「「「グワーッ!」」」リュウの伸縮刀が次々と緑色の血飛沫を上げる中、斬撃を逃れたトルーパーの一群が小屋へ向かった。「地球からの使者を殺せ!」「ムーブムーブムーブ!」だが彼らが突入せんとした瞬間、CLAAASH! 木製のドアが吹き飛んだ。「AAAAGH!」酒臭い咆哮!

「やかましくて眠れやせんぞ! WRAAAGH!」「「グワーッ!」」毛むくじゃらの手が先頭トルーパー二人の頭部を鷲掴みにした。「死ねーッ!」赤ら顔のバルーは酔いと怒りにまかせてトルーパーの頭をカチ合わせ、フルフェイスメンポもろとも砕き潰した。CRAAASH!「「アバーッ!」」爆発四散!

「ミサ=サン!」バルーの背後をすり抜けてハヤトが小屋に飛び込むのと、トルーパーが床板を跳ね上げて侵入するのは、ほぼ同時だった。「「イヤーッ!」」斬り結ぶ両者! だがハヤトの身のこなしは精彩を欠く。修行の端緒を開いたばかりの彼にとって、狭い室内でミサを守りながらのイクサは荷が重いのだ。

「イヤーッ!」「イ、イヤーッ!」鍔迫り合う二人を尻目に、パープルラメ装束の女宇宙ニンジャが蛇めいた動きで床下からエントリーした。「アイエッ!?」「ドーモ、はじめまして。ニンジャアーミー諜報部のクノーイです」怯えるミサに、彼女は嗜虐的な笑みを浮かべた。トルーパーと戦闘中のハヤトには手が出せぬ!

「イヤーッ!」「ンアーッ!」当て身で気絶させたミサの身体を担ぎ上げ、「ゴキゲンヨ、ニュービーの坊や」クノーイはするりと姿を消した。「ミサ=サン!……クソッ!」ハヤトの怒りに呼応して、伸縮刀が超振動の唸りをあげた。チュイイイン! トルーパーの軍用ニンジャソードを火花と共に削り取る!

 守護すべき対象を失ったことで、皮肉にも彼のカラテは生来のポテンシャルを取り戻したのだ。KRACK! ソードが半分に折れて天井に突き立った瞬間、伸縮刀が翻った。「イヤーッ!」トルーパーを袈裟懸けに超振動両断!「アバーッ!」ハヤトはミサを追って床下へ飛び込んだ!「イヤーッ!」

【#3へ続く】


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