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《分割版#1》ニンジャラクシー・ウォーズ【メッセージ・フロム・ジ・アース】

◆はじめての方へ&総合目次◆
◆全セクション版◆

この宇宙に人類が生き続ける限り、決して忘れてはならない事がある。
本テキストは70'sスペースオペラニンジャ特撮TVショウ「宇宙からのメッセージ 銀河大戦」とサイバーパンクニンジャアクション小説「ニンジャスレイヤー」のマッシュアップ二次創作であり、(株)東映、石ノ森章太郎=センセイ、ボンド&モーゼズ=サン、ほんやくチーム、ダイハードテイルズとは実際無関係という事だ! ただしリスペクトはある!

(これまでのあらすじ)地球連盟第15太陽系の3惑星・シータ、アナリス、ベルダは、邪悪なるガバナス帝国によって無法にも征服された。ガバナス・ニンジャアーミーに父母と妹を殺され、自らも死の淵にあった青年ゲン・ハヤトは、謎の宇宙美女ソフィアに救われて九死に一生を得る。

 かつてガバナスから地球を救ったという伝説の宇宙船・リアベ号をソフィアから託されたハヤトは、宇宙ニンジャ・リュウ、宇宙猿人・バルー、万能ドロイド・トントと共にリアベ号に乗り込み、果てしない戦いの道を歩み出したのだった。ゲンニンジャ・クランの遺子として、第15太陽系に平和を取り戻すために。

◆#1◆

 第1惑星シータの屈曲した大地に、蒼い薄皮めいて貼り付く大気圏。その上方には漆黒の宇宙空間が果てしなく広がる。星々の中でひときわ輝く二つの光は月にあらず、第2惑星アナリスと第3惑星ベルダだ。ガバナス帝国の第1次侵攻作戦が完了した今、この星系は束の間の静けさを取り戻したかに見えた……だが。

 ZOOOM……小型宇宙船が一隻、シータ宙域を掠めるように飛び去った。極めて洗練されたそのフォルムは、辺境の植民星系にはおよそ似つかわしくない。ZOOM! ZOOOM! 帝国軍主力宇宙戦闘機スターファイター「シュート・ガバナス」の大編隊が、宇宙スパイダーの群れめいてその後を追う。

 BEEAM! BEEEAM! 六本の機銃ステーを放射状に広げ、シュート・ガバナスは次々と破壊ビームを発射した。『モシモシ! モシモシ!』小型船から呼びかける通信音声は若い女性のそれだ。『こちら地球連盟の偵察宇宙船! 国籍不明の戦闘機編隊に攻撃されています! 救援を……』

 KBAM! 蜘蛛の糸めいてうねる破壊ビームが偏向シールドを破り、小型船の外殻を一部吹き飛ばした。『ンアーッ!』SOSが悲鳴に転じたその時! DDOOOM! どこからか現れたハンドメイド戦闘機が二機、パルスレーザーを連射しながらシュート・ガバナス編隊に襲いかかった! ZAPZAP! ZAPZAPZAP!

 KABOOM! KABOOOM! 編隊の数機がたちまち炎に包まれた。『誰だか知らんがとっとと逃げな!』『ガバナスのクソ野郎共は俺達が引き受けた! WRAAAGH!』地球人の男と野獣めいた異星人類の声が、通信回線を震わせる。『感謝します!』小型船は煙を噴きながらシータ着陸コースへ!

「一丁やるか、相棒」「やれやれ、まだ慣熟飛行中だってのに」「そう言うなよ。あの地球の船、絶対美人が乗ってると見たぜ」「お前はすぐそれだ。GRRRR……」ジュー・ウェア風スーツの地球人リュウと宇宙猿人バルー……惑星シータの先住民族デーラ人のひとり……は、軽口を叩きながら散開した。DDOOOM!

『機影照合! ベイン・オブ・ガバナスの搭載機!』『何だと!?』『バカな!』『実在していたとは!』編隊の間に混乱した通信音声が飛び交う。数百年前に登録されたその忌まわしきコードネームは、かつて先代皇帝もろともガバナス帝国本星を壊滅せしめた一隻の戦闘宇宙船に与えられたものだ。

『とにかく迎撃せよ! 地球からの船を逃がしてはアバーッ!』KABOOM! 隊長機が爆発四散した。リュウ機とバルー機は宇宙暴走族めいた過剰な機動力で縦横無尽に飛び回り、シュート・ガバナスを容赦なく撃墜していった。ZAPZAP! ZAPZAPZAP! KABOOM! DOOMDOOOM! KABOOOM!

 一方その頃、彼らの母船・リアベ号は戦闘宙域の遥か後方で待機していた。「チエッ、僕だけ留守番か」操縦席のコンソールに肘をつき、ハヤト青年がふて腐れる。胸躍るビーム光も爆発も、この距離からでは微かな瞬きでしかない。ZOOOM……エテル越しに到達した衝撃波が船体をぐらつかせた。

「オットット」慌てて計器を調整するハヤトの背後で、万能ドロイド・トントが球形の頭部を回転させた。『ハヤク、センタイヲ、アンテイ、サセロ』「わかってるよ!」ハヤトは忙しなく手を動かしながら、前方の宇宙空間に目をやった。(……僕も早く、あの二人みたいなワザマエになりたいなあ)

「この有様じゃ生存者はゼロだな」「だが死体がないのは妙だぜ」リュウとバルーが狭い船内を検分する。ガバナス編隊を撃退したものの、惑星シータのとある湖畔に不時着した小型宇宙船は船体をひしゃげさせ、無残な姿を晒していた。……ガタン! 背後に物音!「誰だ!」リュウは反射的に身を翻した。

「アイエッ!?」ハヤトの喉元に、ジュッテめいた宇宙ニンジャ伸縮刀の切っ先が光る。「……チッ」リュウは舌打ちして刀身を引っ込め、衝動的に拳を振り上げた。「俺の後ろにノコノコ立つんじゃねェ、ガキが!」「よせ」その手首をバルーが掴んだ。「ヒヨッコ相手にムキになるなよ」「……」気まずい沈黙。

「で? どうかしたのか、ハヤト=サン」バルーは取りなすように尋ねた。「何かが……何かが来る」こめかみに指を当てて中空を睨むハヤト。「空からだ……アブナイ!」船外に飛び出した彼の目は異様な輝きを帯びていた。リュウとバルーが顔を見合わせる。「何だありゃア」「さあな。だがあの様子、只事じゃないぜ」

 ハヤトを追って走るリュウ達の頭上を、DOOOM! シュート・ガバナス三機編隊が通過、反転した。「クソッ、追手か!」BEEEAM! 機銃掃射が足元に砂煙をあげる。『ハッハハハハ!』隊長機の船外スピーカーからはニンジャアーミー副長・イーガーの哄笑!『死ね、リュウ=サン! 死ねーッ!』

 白昼の砂浜に隠れ場所などなし。リュウは走りながら状況判断した。「湖に飛び込めテメェら! イヤーッ!」「WRAAAGH!」「イ、イヤーッ!」SPLAAASH! 三人は湖水に身を躍らせ、その勢いのまま深く潜った。水面にぶつかって減衰した破壊ビームが、頭上でゴボゴボと蒸気をあげる。

 ZOOOOM……水越しの飛行音はやがて遠ざかっていった。「「「プハーッ!」」」一同はいまだ熱を持つ湖面に顔を出した。「GRRRR……ありがとよ、ハヤト=サン。命拾いしたぜ」「アー……ウン」正気に戻ったハヤトの記憶は曖昧だ。「イーガー=サンの詰めの甘さにも感謝せにゃな」リュウが笑った。

 ゴウンゴウンゴウン……無限の大空間を掻き分けるように、ニンジャアーミー旗艦「グラン・ガバナス」がシータ周辺宙域を航行する。第15太陽系への侵攻作戦が開始されたあの日、星系首都・アナリス中央都市を一瞬で焼き尽くしたその巨体は、占領下の住民にとって恐怖と圧政の象徴であった。

 広大なブリッジの艦長席に肘をつき、アーミー団長ニン・コーガーは沈思黙考していた。カシャッ、カシャッ、カシャッ。大型モニタが三つの惑星を映し出し、詳細データをスクロールさせる。「いい眺めだ」入室したイーガー副長が傍らに立った。「滅びるまでにどれだけ搾り取れるか、今から楽しみだぜ」

「彼奴らは始末したか」コーガーは振り向かずに尋ねた。「モチロン。地球連盟の船などベイビー・サブミッションさ」「ワシが聞いているのは、惑星ベルダでオヌシが取り逃がした宇宙ニンジャどもの事だ」コーガーの声が凄みを増す。「息の根を止めるまで戻って来るなと言うた筈だぞ!」

「99%確実に仕留めたぜ。なにせ俺みずから追撃に出たんだ」「バカメ! なぜそれを100%にしようとせぬ。私が完全主義者である事を知らぬお前でもあるまい!」「そりゃ只の心配性だよ、兄者」イーガーは肩を竦めた。「いまやこの星系は完全に俺達のものだ。たかだか三人の反逆者に何ができる?」

「オヌシ、どうやら心得違いをしておるな」コーガーの目がカタナめいて細まった。立ち昇るキリングオーラに、「アイエッ……」イーガーのニヤニヤ笑いが強張る。「この星系が帝国の版図となった以上、いかなる小さな抵抗も許してはならぬ。それが我等の責務であり、皇帝陛下のご意思なのだ!」

『左様。良い心掛けであるぞ、コーガー団長』ブリッジ壁面の黄金宇宙ドクロレリーフから嗄れた声が響き渡った。口内のスピーカーが、ガバナス帝国皇帝・ロクセイア13世の超光速通信音声を伝えているのだ。「ハハーッ!」コーガーはマントを翻してドゲザした。イーガーも慌てて跪く。

『余はこの星系に大変満足しておる』黄金ドクロの眼窩に埋め込まれたUNIXランプが点滅した。『惑星シータには豊富な労働力、惑星アナリスには生産能力、惑星ベルダには鉱物資源……理想的なバランスである。一片も余すところなく搾取し、我が帝国の糧とするがよい」

「お任せを!」コーガーが顔を上げた。「既に手練れのニンジャオフィサーを多数呼び寄せ、三惑星の要所に配置しております! 我らの行く手を阻むいかなる抵抗の芽も未然に摘み取れましょう!」「アナリス中央都市跡に、陛下に相応しい宮殿を建設する計画も進行中です」イーガーがすかさず追従する。

『それはチョージョー。完成を楽しみにしておるぞ。ムッハハハハハ!』「「ハハーッ!」」這いつくばる二人を見下ろす黄金ドクロ。その両眼から光が消えた。通信終了。「追従ばかりでアーミーのナンバー2が務まるか」コーガーが立ち上がりながら吐き捨てた。「政治力と言ってほしいね」イーガーは涼しい顔だ。

「オヌシはシータに戻り、改めて彼奴らの生死を確かめよ」「諜報部のクノーイ=サンにやらせるさ。あの女の方が適任だ」兄の追及を避けるように、イーガーはそそくさとブリッジを後にした。「……」コーガーは苦虫を噛み潰したような顔で艦長席に戻り、モニタを睨みつけた。画面には惑星シータの赤茶けた姿……。

 放棄された農園を鼻歌まじりに歩きながら、バルーはよく熟れた宇宙キウイを吟味してもぎ取った。主を失った収穫小屋のもとへ戻り、集めた果実を放置ドラム缶の上に広げる。そこには既に、宇宙ウイスキーボトルや宇宙ミネラルウォーターの缶、宇宙カボチャといった小屋の備蓄品が持ち出されていた。

「有難く頂戴するぜ」バルーは見知らぬ主に片手拝みした。焚火に屈み込み、グツグツと煮える宇宙ビーンズ鍋の調理を再開する。その隣で脂を滴らせる串焼き肉は、小型船を探す途中、現地のデーラ人からオスソワケされた宇宙バッファローだ。見返りを求めぬギフトエコノミーは彼らの大きな美徳である。

 小屋から持ち出した椅子に座り、リュウは宇宙ニンジャ伸縮刀を手巾で磨いていた。「リュウ=サン」思いつめた表情でハヤトが歩み寄る。「豆が煮えて来たぜ。いい匂いだなァ」リュウはとぼけた口調ではぐらかした。「肉にもありつけるたァ上等だ。ああ見えて味にはうるせえんだよな、バルーの奴はよ」

「どうしてリュウ=サンがそれを持ってるんだ」ハヤトの手には同型の伸縮刀が……ゲンニンジャ・クラン秘伝の武器にして父の形見が……握られていた。リュウはちらりと横目で見ただけで、視線を手元に戻した。「お前も手入れすンだよ。死にたくなけりゃな」「質問に答えてくれ!」

「お前いま幾つだ、ハヤト=サン」リュウが不意に尋ね返した。「エッ? 17だけど」「俺が17の頃は、もう随分人を殺してたよ。このカタナと我流のカラテでな」口元に自嘲的な笑いが浮かぶ。「お前はどうだ。ン?」「あるわけないだろ、そんな事」ハヤトが口ごもった。「ガバナスが来るまでは平和だったんだから」

「平和ねェ。表社会からはそう見えたのかい、このクソッタレな太陽系が」(((やめよ)))リュウのニューロンに響く声は、かつての師ゲン・シンのそれだ。(((左様にヨタモノめいた物言い、クランの品位にもとるわ)))(俺ァとうにクラン放逐の身だよ)(((破門した覚えはない。オヌシが勝手に出奔したのだ)))(……)

(そもそもテメェがインストラクションをサボったから、俺がアイツの面倒見るハメになってンだろうが)リュウは苦し紛れに言い返した。(((これからの宇宙ニンジャには航宙術が必要と思うた故、修行に先立ちパイロットスクールで学ばせたのだ。然る後に本格的なカラテを……)))(教える前にテメェが死んでりゃ世話ねェや!)

「アノ、リュウ=サン?」「ああ悪ィ」孤独な修業の副産物であるイマジナリー・センセイとの言い争いから、リュウは己を強いて意識を引き剥がした。「ンじゃ、ひとつ見せてもらおうか。クラン長の息子の素質ってヤツをよ」「二人とも、肉が焼けるまで腹を空かせて来な!」バルーが屈託なくオタマを掲げた。

「スリケンってのはな、何も速く投げるのが能じゃねェ。まずは正確に狙って、飛ばす。スピードを磨くのはその後だ……イヤーッ!」リュウの右手が無造作に閃く。岩の上に並べられた宇宙キウイのひとつを、ヤジリ状の宇宙スリケンが両断した。上半分は消し飛び、残る下半分の断面は瑞々しい。「見たろ。やってみな」

「エッ、それだけ?」手にしたスリケンと宇宙キウイを、ハヤトは交互に二度見した。(((なんたる粗雑なインストラクションか! 経験に乏しい者にはまずカラテ理論の基礎を……)))(そういうダルいのは好かねェ)ゲン・シンの叱声にもリュウはどこ吹く風だ。(経験不足なら、なおさら実践あるのみだぜ)

「イ……イヤーッ!」おぼつかなげに投擲されたハヤトのスリケンは標的を遠く外れ、KILLIN! 岩に跳ね返って鋭い音をたてた。「アイエッ!?」岩陰から何者かの悲鳴!「誰だ!」「待て待て」ハヤトを片手で制し、リュウが呼びかけた。「ゆっくり姿を見せな。妙な真似をしなけりゃ手荒には出ねェ」

「……ハイ」黒髪の女性が立ち上がった。背後に転がる球状の半壊メカニックは、地球製の一人乗り脱出ポッドと思われた。銀色の宇宙ボディスーツが流麗なプロポーションを包み、陽光を反射してきらめく。「ヒューッ」リュウは口笛を吹きながら、取り出しかけた伸縮刀をさりげなく懐に収めた。

「ドーモ、はじめまして。地球連盟の惑星偵察員・ミサです」美女がオジギした。「アノ、もしかして、貴方達は先程私を助けてくれた……」「ドーモ、リュウです!」リュウは食い気味にアイサツを返した。「アンタがあの船に乗ってたのか! いやァ、助けた甲斐が……じゃねェ、無事で良かったぜ!」

「アリガトゴザイマス」ミサは再び頭を下げた。「私はある使命を果たすために第2惑星アナリスを目指していたんです」「俺達が連れてってやるよ。何だい、その使命ッてのは」「途絶した超光速ホットラインの守護者に、地球からのメッセージを伝える事です……ゲン・シン=サンという宇宙ニンジャに」

「「……」」二人は顔を見合わせた。(リュウ=サン)(ヤだよ、お前が言えよ)背中を押されたハヤトがオジギした。「ド、ドーモ。ゲン・ハヤトです」しばし言い淀み、意を決して口を開く。「オヤジは……ゲン・シンはガバナスに殺されました。今は息子の僕がゲンニンジャ・クランの名代です」「エッ?」

【#2へ続く】


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