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幼なじみ婚

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ペンネーム、だっぴちゃんさんの投稿です。
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私には幼なじみがいて、それは同い年の男の子だった。人口5万人を少し割る程度のこの町の期待、両親の想い、同級生達の当然という態度、そんなもろもろのプレッシャーに負け、中3からつき合い、そしてのちに結婚する事になる。

一応この町にも高校が2つあって、どっちかに行くんだけど、1つは賢くて勉強した人達用、もう1つは勉強しなかった人達用とはっきりしてて、私は勉強した人達用の高校へ入学するのが当たり前だと思っていたら、彼は違くて「勉強なんてしたい奴がすればいいじゃん」と話した。その時に「ずっと一緒だと思ってたけど、とうとう離れ離れかー」って言った瞬間告られた。
「ごめん。離れ離れはやだ。俺頑張るから。同じ高校。通えるように。だから。うん。ずっと咲良と。一緒に。居たい」
途切れながらも自分の気持ちを真っ直ぐぶつけて来た彼によって、これまであやふやだった私達の関係が終わり、幼なじみから恋人になった。私はプレッシャーに弱い。
まあ、その直後の彼の猛勉強っぷりは私の心を掴むのに時間はかからなかったけど。田舎の中学生だもん、そんなもんだ。
結果2人とも勉強高校へと進学が決まり、幼なじみ物語は続く事になる。中学卒業の日、私達は生まれて初めてのキスをした。みんなが居なくなった教室で。彼の顔を見たら「見んなよ、照れるし」と真っ赤な顔で言っていて、ああこの瞬間の気持ちや光景は忘れないでおこうと思った。

高校へ入学しても相変わらず一緒に学校へ通い、ちゃんとアオハルした。
そして今更だけど、私は両親共働きで一人っ子という男の子にとってはベストな環境だったらしく、私達の生まれて初めての事は、私の部屋でどんどんエスカレートしていった。そういう時の彼の表情や仕草、喋り方なんかはどんどん素直になっていって、まるで小学生並なので幼なじみの私は懐かしさを覚える。
「ねぇ、私の事いつから好きなの?」
「公園デビューの時からだよ」
初めて会った公園の事。なんにも気にしてなくて遊んでいた事。告白された事。そして卒業式の後のキスの事。
彼はいつも楽しそうで、うるさくて、バカで、でもそんな態度の原因の1つが私だと思うと嬉しい。

高校3年になって進路の事を真剣に考える時期が来た。
私は東京の大学へ進学志望だけど、彼は実家の和菓子屋さんを継ぐっぽい事を言っていた。
いつもの様に私の部屋で裸でくっついてると、彼が言ったんだ。
「大学行かないでここに残って一緒に和菓子屋やらね?」
「えっそれって結婚するって事?」
「うん…好きで付き合ってるんだから自然な流れだと思う」
「でも私は大学行きたいよ」
「和菓子大学入学じゃダメかな」
そう言われてキスされて抱きしめられているうちに、将来結婚して和菓子屋さんするんだったら別に勉強して大学行かなくてもいいかな。と脳みそ幼稚園児になっていた私は思った。それにしても和菓子大学入学って笑うとこだろ。
「そうだね、ありがとう。結婚かー」
「うん。絶対に大切にするから」
「なんかすごい速さで私達進んでってる気がする」
「出会って16年、遅いくらいだよ」
「…うん。そうかな」
「大丈夫。ずっとそばに居て、後悔させないから」
「わかった。私フィアンセだね。高3にして」
高校3年の夏休み前、私は人生の大きな決断を好きだからという幼稚園児的思考で決めちゃったんだ。
私はプレッシャーに弱い。

高校卒業の日。卒業が終わると同時に急いで婚姻届を出した。中学の時と同じように、生まれて初めての事がしたくて。
私達の結婚を町が、友達が、互いの両親が祝福してくれた。
そして私は和菓子屋大学へめでたく入学した。

和菓子屋さんの朝は早く、夜は遅い。
結構な重労働で1日が終わる頃にはクタクタになる。
でも可愛い和菓子を見ていると心が和むし、美味しい和菓子を食べると笑顔になる。うん、和菓子大学悪くないかも。
優しく教えてくれるお義父さんとお義母さん、そして彼。
4年間、大学卒業の歳までは子供はつくらない事に2人で話し合って決めた。
先の話をする時、いつも彼は楽しそうで幸せそうだった。
昔の話をする時、いつも彼は懐かしそうで幸せそうだった。
そんな顔を隣で見ているのが好きだった。

その日は完璧な1日だった。アラームより早く目が覚めたし、朝食は鮭と玉子焼きとサラダとお味噌汁。どれも失敗せずに作れた。そして新しい和菓子の作り方も覚えた。
凄く晴れて空が高くて、長閑な1日で、彼はいつもと同じ様に笑顔で「行ってきます。帰ったらお昼にしようね」と老人ホームへ配達に車で行った。そうだ、教習所も一緒に通ったな。彼は筆記が、私は実技が駄目だったな。なんでみんな上手く縦列駐車出来るのか今でも不思議だ。
そして不思議な事にあんなにも運転が上手かった彼が事故った。見通しの良いカーブを曲がりきれずに電柱にぶつかったらしい。中学の時に私に告った時くらい速く。
21歳の秋に私の幼なじみは私の前から、私の人生から消えてしまった。

幼い頃からお葬式は嫌いだ。
人が悲しんでるのが苦手だ。
人は笑っているのがいい。
でも小学生の頃からの友人達に慰められてたら涙が溢れた。
幼なじみってこういう時辛いな。
みんなが余計に同情してくるから。
随分と一緒に居たんだなと記憶を反芻しているとわかる。
いつも側に彼が居て、笑ってた。
落ち込んでいると励まされ、悲しんでいると慰められ、あーいっぱい漫画借りパクしてた。でも結婚したからいいのか。でもキチンと返して感想とか言い合いたかったのに。
もっと先の話してたのに。私大学中退じゃん。
子供の名前とか一緒に考えてたのに。
これから私どうしたらいいの。
不安だよ。寂しいよ。悲しいよ。怖いよ。
あの日約束したのに…って彼を責めたな。
でも本当に愛してたんだよ。

それから小さな田舎町は私にとって嫌な場所へと変わってしまった。みんなが可哀想な目で見てくるし、同情も度が過ぎれば暴力となんら変わらない。どこに行っても1人なのに1人じゃない。
私は町と一緒に居たいんじゃ無くて彼と一緒に居たかったのに。
そう思うとここには居れないなと思ったんだ。


ごめんね。こんな話して。
だから私が幸せだったのは21歳の秋まで。
もちろん悠の事嫌いな訳じゃないよ。
でもね、死んだ人には勝てないよ、絶対。
これは呪いの様なもので一生私に付いてまわるの。
ごめんね。嫌だったら別れていいから。

そこまで言うと私は電話を切った。


あの日から4年。
東京でキャバ嬢やりながら刹那的に生きていた私に、もっと自分を大切にしなよ、と客でもない悠が言ってきたのが半年前。
初めはウザかったし、なんにも知らないくせにと悠に当たっていた。けど悠はその他大勢の人と違って諦め無かったし、面倒くさがらなかったし、何より優しさが彼と似てた。

そしてとうとう彼の話をしてしまった。
誰にも話す気なんて無かったのに。
私はぐしゃぐしゃに泣いていた。

悠からLINEが入る。
YouTubeのリンクが貼られていて、サムネには中村佳穂「忘れっぽい天使」と書いてある。
正直今音楽を聴く気分じゃ到底なかった。
またLINEが入る。
僕は口下手で上手く伝えられないけど、この曲が咲良ちゃんの力になれると思って送りました。僕は音楽の力を信じてるから。
仕方なくYouTubeを見る事にする。
私はプレッシャーに弱い。

ほどなくして中村さんが歌い始める。

「みんな同じ辛いのよ。」
そうやってあの子は慰めますが
私の気持ちが見えるのかい
それならどうして

遠い遠い向こうには
僕より苦しい人がいて
それならどうして
分かっているのにどうして

「時は全てを流すのよ。」
そう言ってあいつは笑っていますが
思い出さなくていい思い出に
いまでも途方に暮れるのさ

通り雨の向こうには
優しい天使が待っていて
それならそれならどうして
わかっているのにどうして

通り雨の冷たさに
焦ってしまう 怯えてしまうよ
抱きしめていてほしいよ
どうかして どうにかしてほしいよ

Shooting a shower. Scary invisible shadow.
天使は寂しそうだね
Smile over kind in my story.
街の上に正論が渦を巻いてる。
Shooting a shower. Scary invisible shadow.
天使は寂しそうだね Smile over kind in my story.
上手く慰めれたらいいんだけど。


聴き終わり私はギャン泣きした。

帽子を深く被りマンションから外へ出た。

そこには悠が立っていて「死んじゃ駄目だよ絶対に」と泣きながら言ってきた。
「無責任な事言わないでよ」と言いながら悠に抱きついていた。

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ペンネーム、だっぴちゃんさん、ありがとうございました。
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