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CASE#1-2 サマリーポケット - 成長企業を支えるプラットフォーム

倉庫箱貸し事業の参入障壁

前回の記事では株式会社サマリーの提供するサマリーポケットについて、ユーザーから見えているサービスの姿を元にロスリーダー型として読み解いた場合のビジネスモデルキャンバスを紹介した。

その中で生まれてきたのが参入障壁についての疑問である。
アプリ開発を得意とするサマリーと倉庫運営を得意とする寺田倉庫が協業して新しいサービスを作り出したというアイディアは素晴らしいが、ものを実際に管理できる倉庫さえあれば、そのアプリや仕組みを真似することは難しくない。

それどころか、倉庫事業者が同様のアプリを開発すれば垂直統合によりサービス提供のコストを下げられるため、コストリーダーシップ戦略で一気に市場を奪いに行くことが可能になってしまうのではないかという不安がある。

今回はサマリーと寺田倉庫の協業の内容を詳しく見ていくことでその疑問に迫ってみたいと思う。

寺田倉庫によるサマリーポケットの原型サービス

サマリーと協業している寺田倉庫について調べると、すぐに驚きの事実を知ることとなる。
現在サマリーポケットと協業している寺田倉庫は、サマリーポケットの開始よりも3年も前から、今のサマリーポケットとほぼ同一のビジネスモデルでminikuraというサービスを提供しているのだ。

ただし、minikuraはただ単に同様のビジネスを展開するだけではなく、そのビジネスの仕組自体について特許を取得し、これをパートナー企業に展開している。
具体的には、個人向けにダンボール1箱単位で荷物を受け入れ、その箱の中の物の写真を撮ってオンラインで確認できるようにするという技術自体と、その技術をパートナーにAPI形式で提供する技術を特許として取得し、MINIKURAの名称でその技術を使ったスタートアップインキュベーションサービスを展開しているのである。

すなわち、サマリーポケットは寺田倉庫が保持する特許技術を活用して事業を展開する複数のサービスのうちの1つだったのである。

minikuraによるLogiTechプラットフォームモデル

MINIKURAのビジネスモデルをキャンバスに起こすと以下のようになる。

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このビジネスモデルは特許を軸とするインサイド・アウト型のオープンビジネスモデル (オープンイノベーション) をベースとして、その特許技術自体ではなく特許技術を用いたシステム (API: Application Programming Interface) を提供する形で成り立っている。

インサイド・アウト型のオープンビジネスモデルとは、自社が保有している知的財産権やシステムなどの資産を外部へ公開することで、自社単体では成し得なかったイノベーションを起こしてライセンス料などで売上をつくるモデルである。
例えば、AmazonのAmazon Web Servicesは外部企業に対して大規模トランザクションを捌ける社内インフラを公開し利用料で稼いでいるという意味でこのモデルに当てはめられるだろう。

つまり、MINIKURAの持つ特許技術をその使い方および基盤システムと共に広くパートナーに提供することで、自社で単にその技術を用いたサービスを作るよりもさらに大きなイノベーションを起こし、システムによって得られる保管料などの売上を最大化しようというのが寺田倉庫の考えなのだ。

日本における特許の有効期限は出願から20年間であるから、2034年~2036年にはMINIKURAの特許も切れることとなる。
自社単体でこの特許技術を独占していた場合、特許期限までに十分な参入障壁を築けていないと、最初にサマリーポケットについて懸念したのと同じ価格競争による乱戦状態に陥りかねない。

そこを寺田倉庫は自社単体で技術を独占せず、その技術の上に複数のビジネスを展開させることで、ビジネスモデルを絶えず発展させる方法を確立したと見れる。
競合が参入できない間にMINIKURAを巨大なエコシステムとしてしまうことで、特許技術の独占性を超える価値を生み、もし20年後にもこのビジネスが継続していれば強大な参入障壁となるように仕組まれているのである。

サマリーポケットのビジネスに対する影響

ここまでの情報からわかった通り、サマリーポケットのビジネスモデルは寺田倉庫の持つ特許技術とMINIKURAプラットフォームによって支えられている。

また、MINIKURAプラットフォームはただ特許技術による現在の参入障壁を作るだけでなく、オープンビジネスモデルのエコシステムを構築することで将来の参入障壁までも築き上げようとしており、そのプラットフォーム上で事業を展開しているサマリーポケットもその参入障壁の恩恵を受けられることがわかった。

しかし、サマリーポケットが他者のプラットフォーム上に構築されているという事実は本当にポジティブな影響のみを与えるようなものなのだろうか。
この仕組みがサマリーポケットのビジネスモデルや事業成長に対してネガティブな影響を及ぼすことはないのだろうか。

正直、本当はサマリーポケットだけでこんなに記事を続けるつもりはなかったのだが、長くなってきてしまったので、そのあたりについては次回の記事で考察していきたいと思う。

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