CASE#1-1 サマリーポケット - ロスリーダー型としての視点
物のクラウドストレージ
株式会社サマリーが提供するサマリーポケットは、自分の持ち物をダンボールに詰めて送ると、1点ずつ写真を撮って倉庫にしまってスマホアプリ上で管理できるようにしてくれる「物のクラウドストレージ」とでも呼ぶべきサービスである。
預けた荷物はアプリ上でいつでも1点単位で取り出せるため、必要になったときにはすぐ手元に戻せる気軽さが売り。
提供するアプリには株式会社サマリーが創業当初から提供する「物のSNSサービス」であるSumallyで培った経験が詰まっており、ただの倉庫管理アプリとは思えない品質の高さも広い世代からの人気を集めることとなったきっかけだろう。
2018年12月には三菱地所を引受先とする9.4億円の第三者割当増資を実施しており、その後も新型コロナウイルスの拡大によるSTAY HOMEでの片付け需要増加に伴って年平均300%の成長を遂げているなど、2020年現在注目すべきサービスの一つであると言って間違いない。
そんな成長期真っ只中のサマリーポケットであるが、筆者は倉庫ビジネスと聞いて、手狭な日本社会には競合も多いと思われるのに、なぜニッチなSNSサービスを手掛ける一介のスタートアップがこれほど成長できているのか不思議に感じた。
ビジコピマガジンのCASE#1ではこの成長の謎を解くことを目標として、サマリーポケットのビジネスモデルを見ていきたいと思う。
ロスリーダーによるビジネスモデル
サマリーポケットのビジネスをそのサービスのユーザーから見える範囲で読み解くと、典型的なロスリーダー型のビジネスモデルだと言えるだろう。
ロスリーダーとは、例えばカミソリ本体は赤字でも安く販売し、利益率の高い替刃を継続的に購入してもらうことで利益を上げるような、最初に損失を出してでもユーザーをロックインして以降最初の損失を上回る利益を出す、文字通り損失先行型のビジネスモデルである。
サマリーポケットの場合はまずユーザーに「安く簡単に物を預けられる」という体験を届ける (キャンバス上緑色の文字の要素群)。
家の貴重なスペースを占拠している物たちを無料でもらえるダンボールに詰め、送料も無料で、品質管理の行き届いた倉庫に格安で預けられる。さらに、最初の数カ月はキャンペーンによって保管料も無料である。
ユーザーは喜んで家にあるものをダンボールに詰め込むだろう。
その後、サマリーポケットはユーザーが預けた荷物の管理費用として月額保管料を貰い受けたり、荷物を取り出すごとにその手数料を課して利益を上げる (キャンバス上橙色の文字の要素群)。
そのために、最初に預け入れた荷物には2ヶ月間の最低保管期限が設けられる。この仕組によって、最初の荷物受け入れ時に発生する損失が一定以上に膨らまないようコントロールされている。
さらに、洋服のクリーニングや不要なもののヤフオク!への出品といったオプションにも手数料を掛けることでマネタイズの幅を広げているが、要するに最初に荷物を預けさせることさえできれば、そこから売上を作り出せるというモデルなのである。
モデル成立のためのパートナーシップ
このビジネスを展開するためには間違いなく十分な管理体制の整った倉庫設備が必要となるが、サマリーポケットはその倉庫を自社で持つのではなく、外部の倉庫事業者である寺田倉庫株式会社と協力することで提供している (Key Partnersの「倉庫事業者」がそれに当たる)。
その形を取ることで、倉庫事業を手掛けたことのなかったSNS企業が自身の強みであるアプリ開発を最大限に活かして個人向け倉庫事業に乗り出せたのだと考えられる。
初期費用の高さがネックとなる個人向け倉庫市場に対して2社が互いの専門性を活かしてロスリーダーモデルを成立させることでアプローチするというのは非常に優れたアイディアだと感じる。
参入障壁についての疑問
しかし、最初に上げた疑問が残る。
サマリーはSNS企業であったから外部の倉庫事業者と組まなければこの仕組みを提供できなかったが、都内に多数ある倉庫管理事業者が自ら同じようなサービスを作ったとしたらどうだろう。
アプリ開発事業と倉庫管理事業の垂直統合によってコストは圧縮され、ユーザーへサマリーポケットよりも安い月額保管料で同一のサービスを提供できるのではないだろうか。
今回はロスリーダー型として捉えた場合のサマリーポケットのビジネスモデルを紹介したが、次回の記事ではこの疑問に答えるためにより俯瞰した目線でこのサービスのビジネスモデルを見直してみたいと思う。
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