いつもウルトラマンがいた。
友人がA4サイズの小冊子を持って来て「読め」という。怪しい勧誘だったら断ろうと思っていたがそうではないらしい。「ファンタスティックTVコレクション№2・空想特撮映像のすばらしき世界 ウルトラマン」とある。本文64頁の無線綴じ、オールカラーの作品ガイドだ。昭和53年5月1日、あの朝日ソノラマ(「冒険ガボテン島」のソノシート処分しなければよかった)の発行と奥付にある。放映から10年余、晴れて浪人生活がスタートした頃だ。友人は準備万端怠りなく、現役で大学生活を始めているが心の底では科学特捜隊に入る夢を捨てきれなかったのだろう。親を説き伏せ入隊する意思を貫けなかった悔しさをこの小冊子を買うことで紛らわせたに違いない。
小冊子はウルトラQからウルトラマン、ウルトラセブンの3作品の全話紹介やスタッフの裏話、制作秘話などが散りばめられている。今となっては見知った話も多いのだが、手にしてしまえばたちまち往時に思いを馳せてしまうのがウルトラシリーズの恐ろしさ。とりわけ年代的にはこの3作がドンピシャで、セブン以降とは思い入れに格段の違いがある。加えて小児喘息で学校を休みがちだった自分には、その辛さから逃れる世界のひとつであり、培った怪獣たちの知識はクラスで存在を忘れられない大切な武器でもあった。
今観ると、随所に荒唐無稽な展開は否めないが、すでに言い古されてはいるものの「新しいものを創る」という野心に満ち満ちている。1960年前後までの月光仮面や怪傑ハリマオなどのヒーローとは全く違う魅力。重層的なストーリーに夢中になった。
もちろん子供の目を奪ったのは科学特捜隊やウルトラ警備隊の装備やコスチューム。ウルトラセブンは分離式のウルトラホークの何号が活躍するか毎回の楽しみだった。個人的には、そこから外れて地底戦車のマグマライザーが好みであります。セブンにはもう一つ、地球防衛軍の地下要塞という魅力がある。静岡県にある山の山腹からせりあがってきたホーク1号が飛び立つ様はおそらく脳裡から消え去る事はない。
しかしこの小冊子ひとつでいい大人が簡単にタイムスリップするのだから、なかなかサスティナブルな稚気なのだ。開発目標はまったくないが、案外こういう稚気は馬鹿にならない力を持っていると思う。少なくとも、どこかの怪しいディベロッパーのいうSDGsとやらよりは。
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