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優しく易しい医療情報は、どうやってつくる?届ける?⑤ 大須賀覚先生・お金の流れ編

大須賀先生のお話でもう一つ、衝撃だったのがトンデモ医療やイカサマがん療法による経済的な損失の話だ。自由診療や民間療法、代替医療、サプリメント…多種多様な「すがりたい藁」が存在していて、たいていそれらは高額だ。患者やその周囲の人たちである当事者が、すがる。

「経済的な余裕があるから、やってみよう」だけでなく、借金をしてでもそれらに懸ける人たちも多いし、彼らが効果の見込めない治療に貴重な時間と財産を注ぎ込むことは詐欺被害とかわらない。詐欺問題の大きな部分は「詐欺被害者」だが、それ以外にそこで得られた資金が反社会組織やテロ組織の資金源になるといったような、よくないところに使われるという問題がある。「詐欺に引っ掛かるほうが悪い」「やりたくてやったんだから自業自得」では片付けられない部分だ。

シンゲンメディカルのフコイダン売上は28億超!

トンデモ医療に費やされたお金は、どうなるのか。大須賀先生は健康食品を販売していた「シンゲンメディカル」を例に挙げられた。

シンゲンメディカルは自社のホームページで、医薬品として承認されていない健康食品「全分子フコイダンエキス2000」に、「がん細胞の自滅作用がある」などとうたい、3箱(計約15万7千円)の商品を販売して、医薬品医療機器法違反(未承認医薬品の広告・販売)の疑いで逮捕された。同社はHP上でがん細胞を自滅させたなどという広告を掲載し、6年前から7回にわたって行政指導を受けていた。朝日新聞の記事によると、2016年以降、関連商品をのべ約1万人に、インターネットを通じて計約6万8千個販売し、計約28億7千万円を売り上げていたという。
朝日新聞の記事 
Sankeibizの記事

28億。大須賀先生は新薬開発に匹敵する金額だとおっしゃった。
28億。このお金がヤミに流れずに正しく回っていたら? 
医療の研究開発に使われたら。
患者やケアラーを支援する団体に使われたら。
医療者の育成に使われたら。

28億あったら

★例えば③で紹介した厚生労働省が委託している『医療機関ネットパトロール』の予算は、平成29年度予算は4154万円、平成30年度予算は5060万2000円だ。

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https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000209654.pdf

★つい最近、京都のホスピス・緩和ケアを行う「あそかビハーラ病院」がクラウドファンディングを始めた。ここは僧侶が常駐して医療者とともに患者のサポートを行う、数少ない病院である。

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しかし、看護師不足でベッドが空いているにもかかわらず患者が受け入れられない状態にあり、看護師4名の雇用をめざしてクラウドファンディングを行うことになったという。

この病床を、あと5床稼働させるため年内に看護師4名の雇用をめざしています。4人雇うためには2000万円かかりますが、まずは一人でも多くの患者さんを受け入れるために看護師1名と僧侶の1年間の活動費用計600万円を目標にクラウドファンディングに挑戦することを決めました。

★いまや再生医療研究や創薬研究に欠かすことができなくなったiPS細胞を世に送り出した京都大学iPS細胞研究所のCiRAが呼びかけた寄付「iPS細胞研究基金」には2018年度に48億円を超える寄付が集まった。機材購入や研究所の中核的な業務を担当する職員の無期雇用や、新しい研究室を立ち上げる際の支援、若手研究者の育成や研究所の国際化に向けた支援、知的財産の確保・維持等に使われる。

★NHK「クローズアップ現代+」では12月中旬に放送予定の「フェイクバスターズ」に向けて情報提供を呼び掛けている。こういった番組を制作するには、いくらかかるんだろう。

私が②で勝手に提案した正確で公平なチェックをしてくれる医療専門家の団体や機関だって。
SNSで正しくやさしい医療情報を発信するαツイッタラーやユーチューバーをヘッドハンティングして、報酬を払い続けることだって。

28億あったら。
求めているものが、できるかもしれないのに。

これは、藁にもすがる思いでトンデモ医療を利用したくなった時、イカサマサプリを購入する時、当事者も周囲の人も頭の隅に入れておくべきことだ。

軽いノリの善意でもフコイダンを買っちゃう

ところで、シンゲンのフコイダンの話を聞きながら思い出したことがある。
私自身は乳がんに罹患した時、こういったオススメをされることもなく、いただくこともなく、平穏に過ごすことができたわけだけど、当時は一抹の不満もあった。大したことはないと思われているような気がしたのだ。それは、親族や知人にがんになった人がすでにいて、彼らに「お見舞い」としてフコイダンを送っている人を知っていたからだ。

「藁」を購入する人たちは、必死のすがる思いを持つ人が多いと思うが、大してそう思ってなくても購入する人もいる。私はサプリメントなどについてはそういった「お見舞い市場」もかなり貢献してしまっているのではないかと思う。がんというラスボス的存在に立ち向かう人にお見舞いをする時、大きな善意やこちらの不安を満足させるためのような「呪い」ほどのことも考えずに「なんかこれがいいらしい」「よく見かける」みたいな軽いノリで、しかしラスボス戦に見合う値段のお見舞いを購入するのだ。多くのがん患者が高齢で、その世代の人たちはまだまだ贈答という儀礼が重要なものだから、なにか「見合う」ものを贈らねばならない…というわけだ。当事者としてはそっくり現金でいただくのが一番ありがたいんだけど、なんかとにかく高額なものや立派なモノになる。

フコイダンを親族に見舞いとして送った人は「相当のものだ」と言っていた。シンゲンのフコイダンはひと箱5万円程度。1回きりかもしれないし、定期購入でおくっていたかもしれない。後に送った人もがんになったが、その時は「まあ、自分はいいや」と言っていた…さしたる善意や情熱もなく、軽いノリでヤミにお金を送っていたことになる!

お見舞い品という市場もカモになる

がん患者のお見舞い事情は色々あるだろうが、最近でも末期がんで在宅療養をしている方に届く、あるいは持参されるお見舞い品にびっくりしたことがある。その方は病名を告知されておらず、もちろん見舞い客も知らないから仕方ないのかもしれないけれど、元気な時に好物だと言っていた菓子や珍味が立派な箱に大量に入った詰め合わせで届けられたり、夏には高価な果物が毎日2,3便届いていた。看護にあたる家族は「本人が食べられなくても、せめて私たちの足しになるものならいいのに…」と嘆きつつ、処分するわけにもいかずに困り果てていた。そんな中にはサプリメントやエセ医薬品もあった。

たしかに風習だか文化として、見舞い品を送ることは否定できないけれど「自分が飲むわけじゃないし」「でも悪くはならないでしょ」「お値段もこれぐらいしないとね」という軽いノリで、イカサマ・サプリメントは誰でも購入できるようになっている。それは、

ヤミにお金を流していくことに加担して、医療の発展を阻害している行為でもある。

このことは、もっともっと知られなければならないと思う。大須賀先生をはじめ医療者や研究者は歯ぎしりする思いであるだろうし、恩恵が受けられなくなるのは患者など当事者だ。

私もインチキ医療やイカサマ・サプリについては、あきらかに命に関わるものでなければその人が満足する、納得できるなら仕方ないと思っていたし、実際に当事者に対してはそのように言うことになる。しかし、特にお見舞いなど軽い善意で検討している人に対しては、断固やめるように言わねばと考えを改めた。草の根だけれども、ひとりでも実践していこう。

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