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ちえのかたまり

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#ずいずい随筆

#ずいずい随筆⑰:高僧とボケとツッコミ

#ずいずい随筆⑰:高僧とボケとツッコミ

先日お会いした臨床宗教師・Tさんから伺った興味深いエピソード。せっかくなのでそのエピソードを脚色して物語にしてみました。登場人物や内容はほぼフィクションとしてお楽しみください。

 Tさんが数年前に出会った60代男性のノジマさんは、最近東京へ引っ越してきた方だった。
 生まれてからずっと関西で暮らしてきたが、進行性のがんであると診断され、娘さん夫妻と一緒に暮らすためだという。
 抗がん剤治療なども

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#ずいずい随筆⑮:未来が見える強さと、カッサンドラの嘆き

#ずいずい随筆⑮:未来が見える強さと、カッサンドラの嘆き

 僕は最近悩んでいることがある。
 正確に言えば、悩みというよりは嘆きに近い。

 僕は腫瘍内科医だ。
 簡単に言えば、がんを専門とする内科医である。
 こう言うと時に
「じゃあ、私もがんになったときには西先生に診てもらおうかな」
 なんて言われることがあるが、実際にはそんなに簡単なことではない。

 僕が専門とするがんは、「消化器がん」だ。つまり、胃がんや大腸がん、膵がんや胆のうがんなど、消化を

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#ずいずい随筆⑬:偽物のメシア

#ずいずい随筆⑬:偽物のメシア

 メサイア・コンプレックス、という言葉がある。
 日本語では「救世主妄想」などと呼ばれることもあるらしい。まるで自らが「救世主(メシア)」になったかのように、「自分自身が世界を救うのだ」という妄想をふくらませる。しかし、その裏には自分自身に対する劣等感や自己肯定感の低さがあり、自分自身が満たされないのを埋めるために「他人を救うことができる自分は素晴らしい」という思いに支配されているのだという。

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#ずいずい随筆②信じられる「わたし」~大塚篤司『アトピーの治し方』を読んで

#ずいずい随筆②信じられる「わたし」~大塚篤司『アトピーの治し方』を読んで

 以前にとある読書会に参加していたとき、医者が執筆した課題本に対し
「こんな、『わたし』がいない本は、読んでいても面白くない」
 という感想を述べている方がいた。その方が曰く、
「確かに書いてあることは正しい。参考にもなる。でも、書いている人の姿がどこにも見えないのよ」
 ということだった。
 僕ら医者は、いわゆる「専門職」だ。専門職の特徴は、これまでの研究やデータ、そして経験に裏付けされた客観的

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#ずいずい随筆①僕にはできない~幡野広志『なんで僕に聞くんだろう。』を読んで

#ずいずい随筆①僕にはできない~幡野広志『なんで僕に聞くんだろう。』を読んで

 今月から僕は、月額マガジン「コトバとコミュニティの実験場」をはじめた。

 このマガジンでは、いま連載しているまた別のマガジン「だから、もう眠らせてほしい」の副音声や、コミュニティナースダイアログのログ、他にもエッセイや写真などのコンテンツを不定期に投稿していく。

 そのマガジンの中で、当初はもうひとつ、取り組もうと思っていたコンテンツがあった。
 それが「人生相談」。
 幡野さんや鴻上さん、

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