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『金沢 古民家カフェ日和』刊行記念!「はじめに」全文公開

川口葉子さんの人気シリーズ「古民家カフェ日和」、ついに第3弾が刊行します。
東京、京都に続く地は「金沢」。

江戸時代の風情が残る茶屋街を有し、海に面した豊かな食文化を持つ金沢では、どのような古民家カフェが私たちを迎えてくれるのでしょうか。

川口葉子著『金沢 古民家カフェ日和』

いよいよ7月30日に迫った『金沢 古民家カフェ日和』の刊行を記念して、noteにて連載をはじめます。
第1回となる今回は、ひと足早く「はじめに」を全文公開。
第2、3回では、本書でご紹介しているカフェを特別に公開いたしますのでお楽しみに!


はじめに

 
 古民家カフェは、土地の気候風土から生まれた伝統的な家屋の様式と、それを現在にいかそうとする人々の知恵の結晶です。
 本シリーズで東京と京都を旅して以来、私は古民家カフェの中に表れる土地の個性に強く興味を引かれるようになりました。

 金沢の古民家カフェについて深く知りたい。そう考えたきっかけは、茶人、木村宗慎氏のエッセイにこんな言葉を見つけたからでした。

京の雅ではなく、江戸の粋とも異なる金沢の艶。
「工芸の王国、古の王とそれを抱く民艸の営み」木村宗慎(平凡社『別冊太陽』)

 公家と町人の都に漂う「雅」、江戸っ子の「粋」とは異なる、武家と町人が生みだした「艶」とはなんでしょうか? そんな問いを抱きながら金沢の魅力的な古民家の数々を訪ねたのが本書です。

 街を歩きながら最初に魅せられたのは、黒瓦(くろがわら)のぬめるような艶でした。木造の家々や社寺が、みな真っ黒な屋根瓦をのせているのです。瓦が普及したのは昭和に入ってからだそうですが、黒い釉薬(ゆうやく)をたっぷりかけた瓦は、積もった雪が解けやすく、また滑り落ちやすい。耐寒性や耐久性に優れているともいわれます。青空の下、つらなる屋根屋根が陽射しを浴びて黒光りしている光景はみごとなものでした。

 直接目に見える艶ではなく、比喩(ひゆ)的な艶もあるのでしょうか?
 調べるとすぐに加賀藩前田家の文化政策が浮かび上がりました。武力も財力も豊富な加賀藩は、徳川幕府にとって大きな脅威。加賀藩は常に謀反(むほん)を疑われる立場にありました。賢明な前田家は、幕府に警戒されないよう軍事ではなく文化や工芸に力を注いだのです。最高の美を求めて京都から師を招き、茶道や能楽、工芸技術を発展させながらも、あまり目立ち過ぎないように。そのプライドと屈折から生まれる、艶。

金沢の古民家カフェとは

 一般的には築五十年以上を経た家が古民家と呼ばれています。その根拠は、文化庁が登録有形文化財の登録基準を「建設後五十年を経過し、一定の評価を得た建造物」と定めているため。
 金沢市は町家再生事業に積極的で、「金澤町家」の定義を「金沢市内にある伝統的な構造、形態又は意匠を有する木造の建築物のうち、本市の歴史、伝統及び文化を伝える建築物で、昭和25年の建築基準法(寺院・神社等を除く)の施行の際現に存していたもの」としています。

 本書ではそれらをふまえつつ、古民家カフェを「築五十年以上の建物を転用・再生したカフェ」と定義しました。転用、つまり本来は違う目的でつくられた古い建物に価値を見出し、カフェとして新たな生命を吹き込むこと。
 金沢の古民家カフェのさまざまな艶をお楽しみいただけますように。

川口葉子

次回の連載では、茶屋街を一望するカフェ「波結」を全文公開!
築百五十年になる建物は、元は芸妓さんの髪を結っていた美容室だといいます。


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変わりゆく街・東京にいまなお残る懐かしい古民家カフェをご紹介しています。


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京都版の刊行を記念したnoteの連載はこちらから ↓

川口葉子(かわぐち・ようこ)
ライター、喫茶写真家。全国2000軒以上のカフェや喫茶店を訪れてきた経験をもとに、多様なメディアでその魅力を発信し続けている。
著書に『東京 古民家カフェ日和』『京都 古民家カフェ日和』(ともに世界文化社)、『喫茶人かく語りき』(実業之日本社)、『名古屋カフェ散歩』(祥伝社)他多数。

(記事作成:担当編集・大友)

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