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【ショート小説】シュガー総統

20XX年、某国にて、前総統が引退を表明し、新たなる総統のもと単一的な国政が行われていた。

前総統は国民の平均健康寿命の短いのを懸念し、長寿政策を打ち出した。人々に運動を勧め、食事の栄養成分、カロリーの超えるのを許さず、カロリーの過剰摂取をした者は罰金を課せられた。化合物はもってのほか、カフェインやアルコールを含む飲料の製造ラインを停止させた。

前総統はメディアリテラシーに人民が統制されてしまい、国民の一人一人から個性が奪われてしまうことを恐れ、一切の既存するメディアを遮断し自分の力で情報を手に入れる術を身に付けさせようとした。

前総統は肩書きが人格を犯してしまいある職種の者が異なる職種の者の上に優位に立とうとすることを恥じ入り、肩書きという制度を撤廃し、全ての人民を尊敬し、平等に接するよう勧めた。かくいう前総統もまた、自分の総統という肩書きは撤廃し、他の国民と何ら変わらない生活を過ごすよう努めた。

前総統は国民の現状をより良いものにしようと、演説の際には国民に改善点を挙げ、これからさらに良くなることを伝えた上で背中を後押しするつもりでいた。

国民は前総統のあまりにも現実味を帯びた言葉が耳障りだった。例え嘘であっても耳障りの良い、その耳障りの良さで少しでも酔える様な時間が欲し
い、よって、酔わせてくれる人物が欲しいと願った。

国民は投票により前総統を引退させた。これもまた前総統の計らいであり、人民にとって不満の多い総統であるべきではないとの考えから、投票でいつでも任期を終わらせられても良いようにしていた。

新たなる総統はシュガー総統と呼ばれ、前総統とはうってかわり、国民から非常に愛される総統であった。

シュガー総統は、満足度、幸福度の高い食事こそが至高であるという方針のもと、人々にカフェインの高い飲み物、アルコール飲料、カロリーの高い食事を勧め、野菜・魚介類などの需要の低いものは淘汰されやすくなった。

総統は、メディアは人を強くする力があると信じ、現状の知見から最も正しいとされている説のみを信奉すれば他の国とは一線を引いた高文明社会が築けるという考えの元、当時最有力の哲学者、預言者の言説を全メディアで垂れ流した。

総統は、一人一人の個人の肩書きを尊重すべきという理念のもと、個人の持つ肩書きこそが他のどの職種よりも最上であるよう考えることを国民に訴えた。

シュガー総統は男性にとっては絶世の美女に見え、女性にとっては魅力的な男性に見えた。

総統は抜本的な改革を提案することも無ければ現状に対しての不満を抱くこともなかった。
演説台では現状に満足している旨を伝え、国民の偉大さ、寛大さを唱え、国民はこのままで良い旨を伝えた。

シュガー総統の国政が続いてから1年と経たないうちに、その国は崩壊した。

国民は不健康になり、栄養失調を訴える人が増え、平均寿命は著しく低下した。

国民による預言者、哲学者の知見の過信はマスゲームによる集団洗脳と化し、「地球は回っている」と提唱する国を淘汰した。預言者による「100年後に地球が滅亡する」説を国中は信じ、享楽的な人生を全ての人民が送り、資源が枯渇し、全員が飢餓に苦しむ頃に丁度地球が無くなるシナリオをあたかも事実のように信奉していた。

個人の肩書きを誇らしく思う風潮は他人を貶めるけなし合いへと変わり、かりそめの自尊心は瞬く間に対人関係や自身の心までも切り裂いていった。

シュガー総統はこの国が滅ぶ時と同じくしてその他諸々の国民と同様に餓死した。

前総統は、というと、少なくとも前述した一連の悲劇に巻き込まれることは無かった。

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