【連載小説】「北風のリュート」第37話
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第37話:龍秘伝(2)
出迎えてくれたのは大叔父の邦和だった。藍絣の作務衣が似合う恰幅のいい老人で、物腰に旧家の当主の鷹揚さがある。岡崎の綾子おばあちゃんの兄で、龍源神社の宮司とは同い歳だという。
「房江おばあ様の件では、ご苦労をおかけしました」
レイは消え入りそうな声で頭を下げた。
「あれは、わしも悔しうてな」
縁側をコの字に曲がる。築山と池のある庭は、本来なら梅雨に緑を滴らせているだろうに、茶色い地肌ばかりが目立っていた。それでも池の上の空に魚たちがいるのが