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きゅうりととうきびがつくる優しい世界

「きゆり自由に持って行け」


独特な字と置いてあるきゅうりの数に全然合っていない大きさの段ボール。そしてなにより「きゅうり」ではなく「きゆり」。さらに「どうぞ」ではなく「持っていけ」笑。突っ込みどころ満載の手作り看板は、わたしが・・・と言うより、私たちが共同で借りている農園の地主の佐藤さん(仮)作である。この無人の販売・・・いや無人野菜寄付の看板は、農園がある私道ではなく、市民がよく使う道沿いに、そこを通れば誰でも立ち寄れる場所にあった。

この看板が現れたのは2022年の夏。佐藤さんはおそらく80歳くらい。わたしの両親と同世代。奥さまはご病気なのか施設暮らしをされているらしく、佐藤さんはおひとりで小松菜やその他の野菜を育てて出荷するプロの現役農家さんだった。昔はもっと手広くやっていたけれど、年齢やご自身の手が届く範囲で・・・と、多くの畑は人に貸して(おかげで私たちは楽しい畑ライフを過ごさせてもらっている)、ご自身は規模を小さくしながらも現役で農家を続けていた。その夏、ひょんなことで利き手を骨折してしまった佐藤さんは週に2回の市場への出荷ができなくなってしまった。都会に住む私と同年代であろう子ども(性別も人数も存じ上げない)からは「農家を辞めるように」と少し前から、どうやらだいぶ口酸っぱく言われていたらしいことは、チラッと耳に入っていた。いよいよその時が来てしまった。こんな言葉があるのか知らないけれど「終農」。正式には「離農」か。皮肉にも、私たちは、佐藤さんの「終農」のお手伝いをすることに。最後の小松菜の収穫をして出荷できるものはない状態に。おしまい。

1年が過ぎた2023年夏。共同農園のグループSNSに「佐藤さんが自宅用にと作った甘い甘いとうきびが売るほどあるそう。食べたい人は家に行ってピンポンしてみて。だいぶお得な値段で譲ってくれるってことです。」北海道のとうきびを舐めちゃぁいけませんよ。道民みんな大好きとうきび。いそいそとピンポンしに行ったわたし。ビニール袋持って、佐藤さんと一緒に畑に入って、その場でとうきび狩り。「ピュアホワイト」という黄色じゃなくて白くて見た目にも美しいとうきび。見かけによらず甘い!生で食べられるからその場でむしって食べる。プロが作ったとうきび最高!さすが!

佐藤さんは「若い人がこうやって買いに来てくれて、ありがてぇよ」と言いながら、10本欲しいと言ったのに15本は入れてくれる。「きうりとナスも持ってけや」「あんたのダンナは力仕事だからいっぱい食べるべ」と2人暮らしにはかなり多めの野菜を持たせてくれる。ありがたいのはこちらなんですけどね、これホントに。
味をしめたわたしは、翌週もピンポン。厳密にはピンポンせずに網戸の向こうの部屋に向かって「こーんにちはー」。新しい看板できてた(笑)

「とうきび有」矢印(→)?

 相変わらず味がある看板。味がありすぎる。

おいしいおいしいとうきびはあっという間にたくさんの人がピンポンしに来て、今年分はなくなったそうな。「来年はもっとつくるぞ」と張り切っているらしい。もっとつくって~。わたし来年はもっと買うし、みんなに言いふらすから~!!!笑。

あれ?「終農」どうした?


佐藤さんにとって「生きがい」とか「やりがい」というよりも、丁寧に野菜を作って誰かに届ける・届けた先の笑顔を見ることが佐藤さんのくらしの一部で、もっと言うと佐藤さんそのものかもしれないなと思ったのです。まぁ「生きがい」を「その人の生を根拠づけるもの」と定義するみたいなので、「生きがい」でもいいけれど、佐藤さんがそう感じているかは正直わからない。ただ佐藤さんが以前と変わらず、お元気であることは確か。

最近は「ikigai」と日本語がそのまま英語になったりもしているらしい。日本独特の感覚なのかもしれない。「生きがい」を持った方がいいなどと言うけれど、持ちたくて持てるものでも、持とうと思って持てるものでもないよね。もしかしたら「持つ」ものでもないのかもしれない。気づいたら「ある」みたいなものかしら?ちょっとまだ人生ひよっこのわたしにはわかりません。あと半年で50だけど(笑)。いやぁ、わからないことがあるってスバラシイ。まだまだ生きなきゃ。

とにかくわたしは佐藤さんが図らずもつくってくれたやさしい世界が好きなのです。「ありがとう」をお互いに何度も言い合って、心があったかくなるあの感じが。あんな世界がどんどん広がっていくといいなぁと心から思っているのです。

さてさて「生きがい」について自分の考えを出してみようと思っていたけど、結局わからないので、わからないまま置くだけにしました。
今日は久しぶりに創作物を出せた自分を褒めようと思います。ナイス自分(笑)

今日は甥の15歳の誕生日です。わたしのかわいい甥よ。「生きがい」なんて大人になってもわかりません。どぎつい当たりのJD&JKの姉2人とオマセな口をきく妹の「キモイ」に負けず(甥は姉2人妹1人+雌犬1匹に囲まれた男子なのである)、自分がおもしろい、いいね!と感じることをどんどんやってください。正解は自分でつくる世の中なので。安心しておもしろい人生を歩んでください。叔母はおもしろければおもしろいほど味方します。

あっという間の2,000字超え。
お読みいただきありがとうございました。
またこちらでお会いできたら嬉しいです。

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