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正式な診断が下るまでは、「そうじゃないのでは?」という思いを捨てられなかった

〈でこぼコ家族にきく! Vol.02:Kさん 前編〉

子どものでこぼコに直面したとき、親はとまどい、悩みます。そして、同じ状況の人の話を聞いてみたいと願うのではないでしょうか。でこぼコ家族たちの貴重な経験をお聞きするでこぼコ・ラボのインタビュー企画、今回はお父さまが登場です。前編ではASDというお子さまのでこぼコと、ご家族がどのように向き合ってきたのかをお話いただきます。
後編はこちら(2022.08.07アップ)

職場で男性初の育児休暇を取得したKさん

保育園で大泣きする姿から、でこぼコが判明。

●でこぼコをもつお子さまであるRくんは今、何歳ですか?
小学6年生、今年で12歳になります。やんちゃで騒がしくて、伸びすぎるくらい伸び伸びと育っています。

●Rくんは最初のお子さま。子育てについてのお考えはありましたか?
はじめてのことだし、生まれる前からいろいろ考えていました。育児情報を読んで「哺乳びんはプラスチックよりガラスのほうかいいよね」なんてこだわったりもして。
実は、妻も私も早くに母親を亡くし、出産や育児で頼れる女性が身近にいなかった。今から考えたら、構え過ぎていた気がします。最近の小さなお子さまをもつ親御さんを見ていると、すごく楽しそうに子育をしていて少しうらやましいですね。自分たちはとにかく必死でしたから。

●頼れる人があまりいない状況での子育ては大変だったのでは。
妻の出産に合わせて、私も3ヶ月間の育児休暇を取りました。職場には長期で休める制度はあったのですが、男性が育児休暇を申請した事例はそれまでありません。所属していた部署は男性ばかりで抵抗勢力が多かったこともあり、移動を願い出て休みを取得しました。
当時はいろいろいわれましたが、休んでよかったと思っています。出産後は精神的にも肉体的にも負担が大きいのに、私が仕事に行ってしまうと妻は子どもと一対一で残されてしまう。それは、つらいですよ。

●そうやって大切に育てられたRくん。小さいころはどのようなお子さまでしたか。
一言でいうと、まじめ。親がいろいろと口を出し過ぎたのかもしれませんが、とてもまじめに育ちました。〈まじめ〉という言葉には、ポジティブな要素もネガティブな要素もあると思いますが、私自身は何事に対しても真剣に取り組めるまじめさを、よいことだと受け止めています。

●そのころで印象に残っている出来事はありますか?
まじめが〈過ぎる〉ことがありました。例えば、保育園ではお絵描きをしますよね。そのとき、Rのなかには “お母さんの絵ならこう”という理想があるようなのです。でも、まだ小さな子どもで手先も器用じゃないから、思いのままに描けません。まじめな彼はそれを受け入れられず、「ワァーー!」と癇癪(かんしゃく)を起こしていました。

●それがRくんの障がいだと、いつわかったのですか?
ある日、妻が保育園に息子を迎えに行ったら、ものすごく大きな声で泣いていました。先生に対しても大声で叫んでいて、妻は家では見たことのない子どもの姿にびっくりしたそうです。何があったのか尋ねたら、先生から「この姿をご存知ないのですか?」といわれて。実は保育園では度々あったようです。そこから「もしかしたらRくんは何かの障がいをもっているかもしれません」という話になって、保育園から専門のセクションへつないでもらいました。

子どものでこぼコはマイナスではなく、特徴のひとつ。

●専門家にはどのようにつながったのですか。
保育園と市の子育て支援部署が連携を取っていて、市が運営する「子どもセンター」から専門家が見に来てくれました。そのときにテストも受け、子どもの特性に合った施設を紹介してもらえたのです。そこに通うようになって、言葉と行動を統一させる訓練などが受けられるようになりました。

●お子さまは訓練を楽しんでいましたか?
ロープを登るなどアスレティックで遊ぶようにしてトレーニングするので、カラダを動かすのが大好きな息子はとても喜んでいました。とはいえ、うまくトレーニングできないときもあって、そんな日は「疲れた」とよくいっていましたね。

●親御さんはRくんの障がいをすんなり受け入れられましたか?
妻は保育園で先生と話したときから、比較的にすんなりと受け入れたようです。でも私は、正式な診断が下りるまで「そうじゃないのでは?」という思いを捨てられませんでした。

●どのようにして受け入れたのですか?
トレーニングする施設に私が連れて行っていたので、現場にふれることで段々と納得できるようになっていったのだと思います。最終的な診断は就学前に医療機関で出してもらったのですが、ASDだとわかってもマイナスには感じませんでした。それは今でも変わっていなくて、彼のでこぼコはマイナスではなく、特徴のひとつだと捉えています。

●ご夫婦での話し合いは?
特別に夫婦で話し合ったことはありません。“子どものために、できる限りのことはやろう”という共通の想いのもと、保育園やセンターのサポートを受けながら自然と行動している感じです。私はインターネットで情報を集めることもしませんでした。いつだったか子どもに対しての〈叱り方〉を悩んだことがあって、そのときだけはインターネットで調べてみましたけども。

●とてもおおらかに対応されているように感じます。
いえいえ、私自身はビビリで怖がり、おおらかとは程遠い性格です。でも、自分の子どものことだし、親としてできることはやっていきたい。家族のことに対して構えてしまうのは少し違うような気がしているので、考え過ぎないようにしています。

”親としてできることはやっていきたい。でも、構えすぎないように"

大切なのは、やってしまった間違いを繰り返さないようにすること。

●お子さまのでこぼコで困ったことはありましたか?
友だちとのトラブルでしょうか。うちの子には人との距離感や力加減がよくわからない特性があって、お友だちを強く叩いてしまうときがありました。支援センターで力の入れ方のトレーニングをしてもらっていたのですが、保育園から小学校の1年・2年生まではうまくコントロールできずトラブルになることもありました。よく相手の親御さんのところへ謝りに行きましたよ。

●相手の親御さんの対応は?
みなさん理解いただけます。ただ、あるご家庭とだけはうまくいかないことがありました。そもそもは相手のお子さんがうちの子にちょっかいをかけたのがきっかけで、彼はその子に強く反撃してしまった。これについては息子が悪いのですが、相手の親御さんに対面すると障がいについて偏見のある言葉をまくしたてられました。さらに、「おたくのお子さんには、ほかの親御さんも迷惑している」といわれて、さすがに腹が立ってしまって…。もちろん、謝罪しました。そのうえで、「ほかに迷惑をかけている親御さんがいるなら謝りたい。お名前を教えてほしい」と申し出たら、返事はありませんでした。

●そのことはお子さまに伝えるのですか?
「こういうことがあったから、今から相手の親御さんに謝りに行ってくる」と、状況や理由を説明したうえで親が謝りに行くことを伝えています。それが彼の心に少しでも響けばうれしいし、今は理解できなくてもいつか思い出すかもしれないので、包み隠さずにすべてを話します。もちろん、よくないことをした場合は叱りします。そのときは、ただ叱るだけでなく、「次はこうしよう」といった繰り返さないための解決策も教えています。

●お話を聞いていると、一般的な子育てと同じだと感じます。
そうかもしれません。私たちが甘いのかもしれませんが、子どもがやってしまった事柄については仕方がないと考えています。当然、うちの子が周りに迷惑をかけないのが一番です。でも、障がいのないお子さまでも、〈周囲に一切迷惑をかけない〉なんていうのはむずかしいのではないでしょうか。
大切なのは、相手にしっかりお詫びすること、そして同じ間違いを繰り返さないこと。本人は自分が悪いことをしたのをわかっていて、反省しています。それをただ怒鳴りつけるのではなく、どうやれば繰り返さずにすむのかを教えるのが親の役目だと思っています。

【でこぼコ・ラボ:ライター 浦山まさみ】

後編はこちら


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