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ニコニコじゃなくて、ニコぐらいでもいい。子どもといっしょに笑い合えたら。

〈でこぼコ家族にきく! Vol.02:Kさん後編〉

子どものでこぼコに直面したとき、親はとまどい、悩みます。そして、同じ状況の人の話を聞いてみたいと願うのではないでしょうか。ASDのお子さまをもつお父さまの体験をお聞きしている今回。後編では、ご夫婦ででこぼコのあるお子さまを育てている日常や子育てで心がけていること、さらには同じように悩み奮闘している方々へのメッセージもいただきました。
前編はこちら

職場にはRくんのことや通院の送り迎えについて、伝えている

子どもを追い詰めないよう、夫婦でバランスをとっている。

●病院への送り迎えはKさんが担当されています。仕事をもっていると大変では?
仕事への影響はないと思います。会社の人事シートには、長男に発達障害があって月に一回は病院に送り迎えしているなど家庭の事情を全部書いているし、上司は私の状況を知っています。通院のために早く帰る日も、あらかじめ仕事の予定に組み込んでおけば問題ありません。

●Rくんのお母さまは?
妻も仕事をもっています。私は出社して働いているのですが、妻はほとんどが在宅勤務。子どもといっしょにいる時間が多いぶん、衝突するときもあります。とくに息子が思春期に入った現在は、母親に言い返すシーンが増えてきているようです。

●どんなことで衝突するのですか?
大したことではないのです。例えば、我が家ではゲームの時間を制限していて、連続で遊ばせていません。Rには弟がいて、Rが15分間ゲームをしたらゲーム機を弟に渡して目を休ませるのがルール。タブレットやスマホの画面を見ることも禁じています。それなのにテレビで動画を見始めてしまった日がありました。妻がとがめると、彼は「テレビは禁止っていわれていない」と反論してきたそうです。

●Rくんに一本取られましたね(笑)。
息子は特性上、行間を読みづらいところがあります。〈目を休めるためにタブレットの画面を見るのがダメなら、テレビ画面も見てはいけない〉という判断はむずかしい。でも、妻はわかってほしいからケンカになります。

●そういうとき、お父さまはどうするのですか?
妻には「いつでも電話をしてきていい」と伝えています。妻にも生活があるし、仕事で疲れているときもある。家のなかで爆発しそうになったら、私に電話して気持ちを吐き出してもらえば少しラクになるのではないかと思っています。でも、妻だけでなく子どもの言いぶんを聞くことも多いので通話時間が長くなりがち。職場にいるときは「大変じゃないなら切るよ」といって、仕方なく電話を切り上げてしまう場合もあります。

●お父さまとお母さまで、対応のバランスがうまく取れているように感じます。
そこは夫婦で意識しています。2人で怒って、子どもを追い詰めてもいけませんから。
いつのころか忘れたのですが、先生から「Rくんは、すごく生きづらいときがあると思います」といわれて、その言葉がずっと心に残っています。まだ子どもなのに〈生きづらさ〉を感じてしまっていたら、本人はとてもつらいですよ。外で一生懸命がんばったら、家に帰ってゆっくりしたい。大人の私でもそう思うのですから、子どもはもっとそうでしょう。だから、妻と私で対応を変えて、子どもが家で落ち着けるようにしています。

発達障害の学習塾は、子どもが〈自分の本音をだせる場所〉のひとつ。

●子育てで心がけていることはありますか。
子どもへの対応という面では、なるべくおおらかに接するようにしています。とはいえ、ときには失敗もします。実はRが保育園のころ、和式トイレをうまく使えないことがありました。今どきの子どもは和式トイレを目にする機会はほとんどなく、Rもやり方を知らなかったはず。でも私は、「トイレもできないのか」と怒ってしまいました。そのときの私は気持ちに余裕がなくて、いっぱい一杯。自分のいらだちを子どもにぶつけて、泣かせてしまった。申し訳ないことをしたと、今でも忘れられません。それからは、自分自身でイライラしないように心がけています。

●Kさんご自身が、しんどさを感じるときはある?
よくありますよ! でも、親ですから、しんどい思いをするのも仕事だし、与えられたミッションだと思っています。それに自分がちゃんとしていないと、どんな顔をして子どもに怒っていいのかわかりませんしね。

●息抜き方法はあるのですか?
それがなくて、誰かに教えてもらいたいくらい。昔は子どもたちが大きくなると趣味の時間がもてると考えていたのですが、Rが小学校6年生になって手が離れつつある今、やりたいことが見つからないのです(笑)。
あえていうなら、〈夜ふかし〉かな。夜ふかしといっても何かをするわけではなく、家族が寝静まったあとにシーンとした空間にひとりでいるのが好きです。そうやって、心身をリセットしているのかもしれません。
ところで、ほかのお父さんはどうなのでしょうか?

●ほかのお父さまとのつながりはないですか?
支援センターに行っても、お父さんと出会えませんでした。機会があれば、いろいろ話してみたいですね。

●Rくんが通っている発達障害の子ども学習塾にはお父さまもいらっしゃるそうです。Kさんは送迎をされているので、これから出会えるかもしれませんね。ところで、発達障害の学習塾に行かせようと思ったきっかけは?
学校以外で学べるところを探していたときに、妻が見つけました。学習塾だから勉強を教えてもらうのがメインですが、そこには専門の先生や同じような特性をもつお子さまがいます。Rにとっては、〈自分の本音をだせる場所〉のひとつになっているのではないでしょうか。今は週一回のペースで通っていて、塾に行くことをとても楽しみしています。
親としては、一週間ごとに先生と話せるから相談しやすいし、授業後にフィードバックがもらえるのもありがたいです。病院にも通っていますが、そちらは月に一回なのでどうしてもタイムラグがある。子どもの成長は早いので、週間で変化がわかるのは助かります。

●先生は親の視点とは違う角度で見てくれますよね。
毎日いっしょに生活していると、子どもの変化が見えづらくなります。それに、子どもは親に〈いわない・いえない〉こともあるはず。例えば、子どもが学校での出来事を「こんなことがあったよ」と話すとき、同じ事柄を伝えているのに親と先生で伝え方が違うときがあるのです。先生からその話を聞ければ、親は子どもの〈もうひとつの気持ち〉にふれることができます。

発達障害学習塾の先生から、Rくんの<もうひとつの気持ち>を聞くことができる

自分ができることを精一杯やっていたら、いつか子どもに届く。

●Rくんのでこぼコがわかって約8年。変化を感じますか?
人との距離感や力の入れ加減については、ほぼ問題ないレベルになっています。感情面では、勝ち負けにこだわるところはまだ変わっていません。とはいえ、学習塾に通いはじめたころはゲームに負けると100%泣いていましたが、今は泣かないときがあったり、グスッとなったところで止められたり、少しずつコントロールできています。感情のコントロールは懸念材料のひとつなので、成長が見えてうれしいです。

●現在、小学6年生で来年は中学生です。次のステップはどうお考えですか?
ちょうど学校とその話になっています。うちの子どもは現在、支援学級に席を置いています。しかし、学習面では問題のない状況になっていますし、おかげさまで友だち関係も良好。妻と私は、中学校から普通学級で学んでもらいたいと願っています。今は国語の授業だけ普通学級で受けていて、学校の先生に様子を見てもらっているところ。みなさんと相談しつつ、可能かどうかを判断していければと思っています。

●Rくんの将来にとって進学はひとつの節目。重要な判断になります。
親としては、〈自分たちがいなくなっても生きていけるようになってほしい〉という願いがあります。そのためには、働いてお金を稼ぐ必要があるし、希望の職業つくためにはある程度の学歴があったほうがいい。そろそろ高校や大学の情報も集めなければと思っています。

●Rくん本人はどのような夢をもっているのでしょうか。
「警察官になりたい」といっています。私も子どもには少しでも人の役に立てる人間になってもらいたいと願っているので、「世のため、人のためになる仕事だからいいと思うよ」と伝えています。

●これからの成長が楽しみですね!
Rは、私たちのはじめての子どもです。不安はありますが、それ以上に楽しみがいっぱいあります。本人も今を楽しんでくれていたらいいですね! 子どものころは一瞬ですから。

●このインタビューはKさんと同じようにでこぼコのお子さまをもつご家族にも読まれます。メッセージはありますか?
発達障害をもつ子どもには、気にしなくてはいけない面や親が一歩踏み込んで動かないといけないことが少なくありません。この言葉は嫌いですが、あえて使うと、〈普通の〉子育てと比べるとやはり大変だと思います。でも、この体験ができるのは〈その子の親〉だから。同じ体験は誰にもできません。
私自身も悩んでいる親のひとりです。正解はわかりませんし、不器用な人間なので反省も多いです。でも、自分ができることを精一杯やっていたら、10分の1、いや100分の1は子どもに届くのではないか、今は理解できなくても大きくなったら思い出してくれるのではないかと考えられるようになりました。

●親も子どもといっしょに成長しているのですね。
親も人間ですから、しんどくなります。そんなときでも、ちょっとだけ笑って、ニコニコじゃなくてニコぐらいでもいいから、子どもといっしょに笑い合えたらいいかなって思っています。

【でこぼコ・ラボ:ライター 浦山まさみ】

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